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施設体系・制度全般の再編・整備を望む

斎藤なを子

授産施設・小規模作業所を中心とした現状

 1979年の養護学校義務制の実施、1981年の国際障害者年以降の日本の障害者施策は、当事者・家族・関係者の運動とリハビリテーション、ノーマライゼーション思想に基づく国際的な潮流をうけて、大きな前進を遂げたことは間違いありません。
 なかでも、成人期にある障害者が、その日中を、どこで、どのように過ごすのかという問題への対応は、量的にも質的にも格段の進展があったと思います。このことなくして、障害者の地域生活支援のあり方も、今日のように大きくクローズアップされることはなかったでしょう。
 しかしながら課題も山積しています。とりわけ、社会福祉基礎構造改革による障害福祉分野の「措置」から「利用契約」制度への転換は、施策の公的な責任や財源(費用)負担のあり方、そして、障害のある人々の人権の保障という点などから、その具体的な展開において率直な懸念と不安を抱かざるをえないものです。
 私たちは、こうした制度の根幹をなす変容と、経済や財政面における日本社会の大きなゆがみのもとで、激動の21世紀の幕開けを迎えることになると言えます。

 現在の日本の法に基づく障害者施設制度は40種類以上にも及び、その体系の複雑さとともに、地域で働き暮らす一人の障害者にとってみれば、これらの施設制度全体の実感や現実性に欠けていることは多くの指摘がなされているところです。
 その実態について、就労を柱とする授産施設制度でみると、1999年10月現在、施設数は1,975か所、約7万5,000人の利用者となっています。この授産施設制度は、これまで五つの法律のもと12種類に分かれていましたが、今般、小規模通所授産施設という制度が3種類加わり、その体系の複雑さがいっそう増すとともに、元となる制度とは同質・同等のものではないなどの新たな状況が生じています。
 一方、法に基づかない無認可の小規模作業所は、2000年8月現在、5,580か所を超え、その利用者数は約8万人となっています。前年比で378か所の増という勢いは近年変わることなく、また、この小規模作業所の数、利用者数、そして設置されている自治体数のすべてが、法に基づく授産施設を上回っているという状況も顕著です。障害者にとって現実的でかけがえのない社会資源となっている紛れもない証左です。
 こうした現状は、職員配置や施設・設備などの面において必要以上のさまざまな格差を生じさせ、結果として利用する施設によって「工賃」をはじめとする処遇の内容や水準への影響が大きく異なってくるという事態を招いています。また、施設本来の機能や役割が十分に発揮できず、「在宅でいるよりは‥」という実践にとどまりがちな現場での深い悩みにもつながっています。

課題そして期待

 これらの背景に、タテ割りの法体系によるつぎはぎ的な施策の展開、施設の絶対数の不足と地域偏在、重度・重複・重症の障害のある人々を対象とした本格的な通所施設制度の未確立、小規模作業所問題への対応の著しい立ち遅れ、障害種別間の格差の存在、等々の基本的な課題があることは、1980年代以降の各種民間団体にて取り組まれた「政策提言」等において明らかにされています。併せて、障害の種別を越えた共同利用や、職住の分離、個室の保障、小規模化、地域生活の推進など、障害のある人たちの立場にたった具体的な改革の方向性も示されてきています。
 1992年に厚生省の「授産施設制度のあり方に関する提言」が出され部分的な改善がなされてきてはいるものの、施設体系・制度全般にわたる再編・整備の課題は、1997年の障害者プラン策定時においても積み残しとされたまま、その本格的な検討と着手には至ってはいませんでした。そうしたなか社会福祉法の成立に際しての衆・参両院の付帯決議において、障害分野における基盤整備の量と質の不十分さと障害者プランの見直しが言及されました。この具体化なくして新しい制度の理念とされる「利用者本位」「自己決定の尊重」などは絵に描いた餅に等しいものと言えます。
 『どんなに障害が重くても、地域であたりまえに安心して暮らしていけるように』、このフレーズを夢や願いにとどまらせることなく、当然の権利として、現実の姿をもって障害のある人々にもたらすことのできる施設体系と制度が、新世紀の早い時期に実現しうるよう、施策、運動、実践の大胆な展開を期したいと思います。

(さいとうなをこ そめや共同作業所)