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介護
―既成概念を超えた新しい支援関係―

亀山幸吉

1.生きてます、15歳

 今、売れている本で、『生きてます、15歳。』という本がありますが、お読みになられた方も多いと思います。現在、高校生ですが全盲の障害者です。テレビでも紹介をされ、多くの反響を呼んだようです。彼女はいずれ、福祉の仕事、介護の仕事がしたいと言い、育ててくれた母をいずれ介護するようになったら、自分がお世話をしたいと語っていました。従来も現在もそうかもしれませんが、介護は一般的に「健常者」が「障害者」をお世話すると考えられがちですが、15歳の井上美由紀さんは視力障害者です。
 これからは、高齢社会そして多くの方々が何らかの身体的機能的障害をもつことになりそうです。「健常者」が介護する側であり、「障害者」が介護される側という規定概念は崩壊し、共生社会、真のノーマライゼーションはまさに何らかの障害があってもお互いに補完、代行、協働、支援関係の思想と実践のなかに介護関係が形成されていくような気がします。

2.21世紀の介護を占う

 私は今、いくつかの施設を注目しています。ひとつは愛知県東浦町にある身体障害者療護施設「ひかりのさと のぞみの家」です。最重度の身体障害者が生活されている施設です。私も東京の療護施設で介護職として働いていた時に、介護とは何か、施設とは何か、自らの人生等、苦悩の最中にあった時に、当時の上司、田中豊園長の紹介でこの施設で長期研修をさせていただきました。
 ここでは利用者を「住人」と呼んでいました。食事は食堂で職員も含め、体調の良くない方以外は、ほぼ全員がゆったり食事をされています。職員はたまたま、隣に介助が必要な方がいた場合に介助をしています。知的障害の方もおられましたが、歩行等が可能でしたので重度の身体障害の方の配膳を手伝っていました。身体障害の方は隣に座った職員の介助を受けていましたが、知的障害の方は配膳が済んでも落ちつかない感じでした。職員が食事を勧めても食べないでいましたが、身体障害の方が声を掛けられ、「Aちゃん、おいしいから一緒に食べよう!」と勧めるとうれしそうに食べはじめていました。
 施設創始者の皿井寿子先生は、身体障害や知的障害が問題ではなく、人間はお互いに助け合い、その人間のもつ可能性を限りなく追求しようという思想の方でした。
 芦屋にある特別養護老人ホーム「きらく苑」は、玄関の脇にお酒の自動販売機があり、夜の晩酌も基本的には自由です。施設によっては管理的抑圧的な態度や介護をされる職員もいますが、この施設は、人間である以上、尊厳ある生、生きてきてよかったと思ってもらえる介護を考えています。痴呆性老人が徘徊されるのを「問題行動、異常行動」という捉え方ではなく、人間として当然の外に出たいという要求として捉え、「お散歩でっか」と考え、地域と一体となって、自由を最大限に保障しようとしています。

3.真のノーマライゼーション理念の具現化を

 介護保険制度や社会福祉基礎構造改革、法の改正等により利用者主体、サービスの選択権、対等の関係性等が新世紀の福祉実践の中核になろうとしています。また、介護の理念としての本人の意思尊重、自立支援等の思想は長く障害者福祉の理念であり、ノーマライゼーションも障害者福祉の理念です。新世紀はユニバーサルデザインも含め、共生社会、真のノーマライゼーションの具現化ではないでしょうか。そのためにはさらに社会改革が必要でしょう。

4.ところで、あと15年先って私は…

 原稿依頼を受けた時、15年くらい先を考えて、障害のある方の介護について書くように言われました。原稿依頼を受けた時は人ごとのように思っていましたが、よく考えてみると、その頃は私も介護を受けているのかもしれません。「亀山! 何でお前はこんなに重いんだよ! 少しは職員に感謝しろよ! お前のウンコは何でこんなに臭いんだよ!…」そんなことを平気で言うような介護職員を養成しないように、素敵な心配りのできる、相手の痛みを共有できる、そして介護を通じて喜びを共有できる、そんな社会の実現も考えられる介護福祉士を養成していきたい。
 そのような21世紀の介護をめざして……

(かめやまこうきち 淑徳短期大学教授・介護福祉士)