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児童虐待防止法と精神障害者社会復帰施設

武田牧子

 児童虐待防止法がようやく制定された。私たちの精神障害者社会復帰施設にも、悲しいかな幼少期に虐待を受け、深い傷を負ったまま成人となっている人が増え始めてきた。関心を持ってこの法律の制定への推移を見守ってきた。しかし、行政や学者からのコメントに各機関との連携がうたわれているにもかかわらず、機関の中に精神障害者の社会復帰施設は登場しなかった。「児」と「者」はどこかで線を引かなければならないのは仕方ないとしても、ある日突然「児」から「者」になるものではない。人生の連続した線上にあるのに、私たちは連携の環に入れないのであろうか。もちろんこの法律は必要であるが、これまで虐待を受けてきた人たちへの対応も不可欠である。
 最近入所してきた青年も、生まれて間もなくから驚くべき虐待を受けていた。頭を殴られ何回も病院でCTを受け、母親も兄弟も同じように虐待を受けている。虐待をしていた父親もまた、その父から虐待を受けていたと聞く。
 この悪循環の鎖をどこかで断ち切らなければならない。母親はだれに、どこに相談すればいいのか、相談すべきことなのかも分からなかった、子どもを守ることで精一杯だったと自分の世間知らずを嘆いている。なぜ病院はその事に気づかなかったのか、学校は気づかなかったのか、大いに疑問である。
 しかし、今更責任追及したところで彼の傷が癒えるものではない。これからどう彼の傷を癒し、自信を取り戻し、彼の人生を自分で歩むことができるように支援するかである。しかし、どのような支援が適切か私たちは経験に乏しく、保健所や児童相談所が抱えているのと似通った悩みを私たちも抱えている。これまで分裂病圏の人たちの支援が中心であったが、最近10代、20代の相談が増え、私たちも部外者ではなくなってきた。今は主治医と連携が取れているので不安を抱きつつも何とか支援を行っているが、病院だけでなく他の関係機関とも連携を取り、少しでも有効な支援につなげたい。
 しかし、どう連携を取ればいいのか分からないのが現状である。昨今、どの分野でも連携の必要性が声高に叫ばれている。ぜひ声だけでなく、実効性のある連携を、それも縦割りでなく、行政機関が中心となり連携が取れる仕組み作りをしていただきたい。

(たけだまきこ 社会福祉法人桑友理事長)