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障害の経済学 第13回

厚生労働省の発足に期待する

京極高宣

はじめに

 平成13年1月6日には省庁再編で、厚生省と労働省が統合化され、厚生労働省(坂口力厚生労働相)が登場します。この厚生労働省の発足は、我々がこれまで検討してきた障害者の労働と福祉が統合するうえで、近い将来、極めて意義深い結果をもたらすものと思われます。もちろん、発足後直ちに実現できないことも少なくありませんが、逆にすでに実現済みのこともあり、このあたりの分析は、21世紀の障害者施策のあり方では欠かせないものでしょう。

1 障害者の生活支援と就業支援の総合化

 平成11年度から試行的事業として、「障害者就業・生活総合支援事業」が実施されていますが、これは知的障害者の生活支援と就業支援を総合的に行うものです。平成12年度からは精神障害者を対象に加え、また平成13年度からは身体障害者も対象に加え、市町村の障害者生活支援事業を強化することになり、いよいよ平成14年度からは、3障害合わせて、本格実施、全国展開の予定となります。
 さて、この事業の内容を具体的にみていくと、厚生行政においては、生活支援体制を受け持ち、知的障害者生活支援センター(生活支援ワーカーの配置)などを行い、在職者か就業希望者に相談・助言を行うと共に、知的障害者通勤寮を整備し、養護学校生を短期間受け入れ、生活訓練を行います。また、労働行政においては就業支援担当職員や指導員を配置した障害者雇用支援センターを運営し、在職者の職場定着支援や就職希望者の職場実習を通じた就職支援などを行います。こうして、従来ややもすると、厚生行政と労働行政が連携をとれずにバラバラにやっていたことが、障害者の就労にとって連携がとれた総合的な効果を発揮することが可能となります。
 特に平成14年度以降は厚生労働省の発足で、障害者雇用支援センターと障害者生活支援センターが合併されて、障害者就業・生活支援センター(仮称)として本格実施され、生活支援の担当職員と就業支援の担当職員が同じ厚生労働省の職員としておのおのの機能を発揮して、先に述べたとおりの役割を果たすことになります。平成13年度には、合計で25か所のセンターが設置されますが、平成14年度以降はさらに計画的に広域市町村で展開されることになります。

2 情報機器の活用によるモデル事業等

 最近、情報・通信技術の発達により障害者の在宅就労や雇用機会の拡大が期待されることから、重度障害者に対するパソコン等の活用訓練を行い、併せて日本障害者雇用促進協会を通じて習得した能力に応じて機能向上のための指導を行い、自宅で仕事につける可能性を高める事業を厚生行政と労働行政が連携してモデル事業を実施します。
 内容的には、厚生行政では1.パソコン等の活用訓練、2.市町村障害者社会参加促進事業へのパソコン訓練を、また労働行政では1.インターネットを通じた機能向上指導、2.職業意識の向上のための集合指導、3.在宅就労への円滑な移行の促進を行います。平成13年度では、全国で10か所で行うことになっています。
 またグループ就労を活用した精神障害者の雇用促進のモデル事業(仮称)も厚生行政と労働行政が連携して行っており、厚生労働省に引き継がれます。
 この事業においては、精神障害者の雇用促進に熱心な社会復帰施設(精神障害者地域生活支援センター)が事業所と請負契約を締結し、グループ就労指導員付きで数人の精神障害者のグループを就労させます。それによって、疲れやすい、緊張しやすい、作業効率の波が大きいなどの精神障害者のマイナス面をカバーできることが少しでも可能となるのです。

むすびにかえて

―企業等の事業所における授産活動の推進による障害者の就職の促進―

 障害者の授産施設は入所者が長期に滞留し、待機者の新規受け入れも困難な状況がありました。そのため、授産施設が企業から一定の労務委託を受け、施設外授産指導員を配置して施設外授産を行い、その修了者を都道府県の障害者重点公共職業安定所が障害者就労支援ワーカーの協力で、企業への就職を促進し、授産施設からの退所を推進する事業が平成13年度より開始されます。こうした厚生行政と労働行政との連携は、発足後の新たな連携施策ではなく、平成13年1月の厚生労働省の発足に向けて、すでに準備されているものです。
 いずれにしても、これまでみた新たなモデル事業は、厚生、労働両省による従来の縦割り行政を乗り越え、障害者の一般雇用や在宅就労の促進にとって極めてプラスに働くと思います。
 せっかくの行政努力が厚生、労働両省の縦割りで十分に発揮できなかった過去と比べて、天と地との差があるのではないでしょうか。障害者の就業支援と生活支援への巨額な予算措置もそれによって効率的に生きてくることは間違いありません。こうした連携は今始まったばかりで、おそらく21世紀の前半の早い時期に、さらに創意工夫がなされていくと予想されます。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)