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障害者差別禁止法と権利擁護制度の確立

大塚淳子

 「アジア太平洋障害者の十年」最終年には、WHOの障害概念がポジテイブな方向で改正を予定し、わが国は障害者プラン最終年でもある。表題は今の我々に重要な課題である。
 ADA施行後のNY市訪問の機会に、24時間ケアが必要な重度障害者が介助者と共に市庁舎で勤務する姿や、大学で実験助手の手助けで教鞭を執る視覚障害者の姿に驚いたのを覚えている。対照的に、日本で4年前、車いす乗降可能な路線バスに車いす利用者が実際に乗車する場面で、遅々としたバリアフリー化に、それでも感慨深く見ていた横で「たった一人のために金も時間ももったいない」と言う発言があり、愕然とした。政治・経済・産業・環境といった社会情勢はめまぐるしく変化をしている。しかし、いついかなる時代・状況にあっても、人は障害の有無にかかわらずたった一人のかけがえのない存在として、その人らしい生活を豊かに享受するあらゆる権利が保障されなければならない。本来はこの権利保障の実現のために、先の課題への取り組みが理想だが、別の流れがこの取り組みを急務とさせている。
 福祉サービスの供給システムを変える一連の社会福祉基礎構造改革は、当事者の権利性や主体性を尊重し、自己選択・決定によるサービスの消費者として障害者を保護の対象ではなく生活主体者とすると名目に謳うが、その実は行財政改革の断行の産物である。真に生活の主体者となるには、所得や教育・医療などの広範な社会生活の基盤が権利として保障され、さまざまな場への障害者参画、情報の発信受信、意見表明などが伴わないと不可能である。こうした整備なしに市場原理を導入した福祉供給システムへの消費者・利用者としての位置付けは、公的責任による権利保障のための福祉から後退するばかりか、権利侵害を受ける恐れさえあることは、先行した介護保険制度で起きている種々の問題で明らかである。契約社会にあって障害者の自立と存分な可能性の発揮は、ノーマライゼーションの思想に適うが、まずあらゆる生活権に関する機会均等化を法定化し、具体的な差別行為を規定し、禁じることが必要である。それは同時に、権利侵害の訴えを正当に主張できる根拠ともなる。また、権利擁護を展開できる法的なシステムも対等性保障のためには必要である。
 地域福祉権利擁護事業はサービス利用の支援や苦情解決に携わるが法的強制力はなく、また成年後見制度も利用のしずらさから、障害者権利保障の一部でしかないのが現状である。

(おおつかあつこ 陽和病院生活相談室勤務、精神保健福祉士、JD政策委員権利擁護ワーキンググループ委員)