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北米における権利擁護とサービスの質に関するシステム 連載18

ADA第二章及び第三章における10年の歩み
―主にDOJ(連邦司法省)の取り組みから―
その1

北野誠一

はじめに

 前回はADA第一章雇用差別に対するEEOC(平等雇用機会委員会)の取り組みを見てきた。今回はADA第二章公共サービスと移動交通サービス第三章民間サービスに対するDOJ(連邦司法省)の取り組みについて見ておきたいと思う。
 まずDOJがADA10周年を記念して出した“ADAの施行―10年間の進歩を振り返って―”(注1)の中から、いくつかの事例を取り出して検討し、次にDOJの調査や調停のシステムとその問題点を明らかにしておきたいと思う。

DOJが関係したいくつかの事例から

 DOJの10周年のハイライトからいくつかの事例をピックアップすることによって、全体としてADAが障害者の日常生活にどのような影響を与えているのかを見てみたいと思う。

1.欠格条項の撤廃

事例1
 視覚障害者であるキャロウェイさんは、コロンビア特別区の法律が視覚障害者を陪審員から除外していることをコロンビア特別区(ワシントンD.C.)最高裁に訴えた。その結果、裁判所はその訴えを正当と認め、3万ドルの賠償金を言い渡した。

事例2
 DOJの訴えのもとに、連邦裁判所はバージニア州弁護士試験委員会に対して、過去5年間精神療法や心理療法を受けたことがあるかどうかを、弁護士試験受験者に聞くことを止めるように命じた。

2.公共サービスにおける障害者に対する特別扱いや合理的配慮に関する差別の禁止

事例3
 これはカリフォルニア州オークランド市警察における出来事である。ある聴覚障害者が、友人から借りた車を盗難したと疑われ、手話のできる係員もおらず、TTY(TDD・聴覚障害者への電話通信デバイスとも呼ばれている聴覚障害者と健聴者の双方向電話通信を可能にするシステム)もなかったがために、7時間も留置されてしまった。オークランド警察は、その後協定書を交わして効果的なコミュニケーションを提供すること、TTYの購入とそれを取り扱うことができるよう職員をトレーニングすることと等を約束した。

3.民間サービスにおける障害者に対する特別扱いや合理的配慮に関する差別の禁止

事例4
 トレセックハーン不動産会社は、DOJと協定書を交わして、バージニア州のNPO法人であるエンディペンデンスセンターが障害者を支援するセンターであることを知っていて、不動産物件の賃貸を拒否したことは、ADA違反であったことを認めた。今後このようなことを起こさないように、職員のトレーニングを行うと共に、センターに55万ドルの賠償金と連邦政府に1万ドルの罰金を支払うことをで合意した。

事例5
 レンタカーのアメリカ第2の大手であるアビス社は、1994年にDOJと協定書を交わし、8時間前に連絡があれば、主要な空港の営業所に身体障害者用の手動レバー式のレンタカーを準備することを約束した。さらに1999年には、営業している36のすべての空港のアビス配下の空港シャトルバスは、リフト付きのバスを配備するとの協定をDOJと交わした。ちなみにその時点では全車両286台のうち6台しかリフト付きバスはなかったが、今後153台まで増やす予定である。

事例6
 発達障害と視力障害とてんかん症状を併せもつジェレミ君(9歳)の学童保育を拒否した大手児童ケア業者のキンダーケアーは、ADA違反で両親から訴えられた。DOJはその裁判に両親の側に立って介入した結果、和解協定となり、州の補助金による補助員をつけて、キンダーケアーが学童保育を行い、補助員のいるときは同年齢のクラスで学童保育を受けることができることで合意した。

4.障害者が他の市民と同様にその市民生活をエンジョイする権利の侵害の禁止

事例7
 フロリダ州ディズニーワールドとカリフォルニア州ディズニーランドは、肢体障害者に対するバリアフリーと適切な対応で有名であるが、聴覚障害者に対する効果的なコミュニケーション保障については苦情が多かった。そこで1997年にDOJと包括的な協定書を交わして、以下のことを取り決めた。
1.2週間前に連絡があれば、特別なアトラクションのすべてに手話通訳を付ける
2.予約がなくても、特別な乗物やショーの入り口に文字案内や説明をつけたり、パンフレットの用意をする
3.予約がなくても、特別なショーや出し物にはローテーションで手話通訳を付け、その予定表をあらかじめ知らせる
等々である。

事例8
 ニューヨークの連邦法務官とニューヨークヤンキースは1999年に裁判上の和解を行った。かつて44組の車いす用シートと介助者シートしかなく、しかも8段階の料金の設定のうち、車いす用には安い料金は設定がなく、12組は最も高い料金設定であった。
 和解の結果、400組の車いす用シートと介助者シートが用意され、さらに車いすから移動可能な通路席を300席用意し、それもスタジアムの1か所に固定することなく、さまざまな場所に設けることで合意した。もちろん障害をもたない市民と同じ方法でチケットを販売するゆえに、安いチケットも手にはいることになった。またチケットブース、トイレ、場内売店、レストラン等もすべてアクセシブルとなった。
 このように、アメリカの障害者へのADAの影響は、その市民生活全体に及んでいるわけだが、次にその中心的機関としてのDOJについてみてみたいと思う。

ADA施行におけるDOJの役割とその問題点

1.ADA施行におけるDOJの組織構造

 DOJにおけるADA施行に関係している部局の組織図は、以下の図の通りである(注2)。これらの役割とその問題点については次回に詳しく考察したいと思う。

(きたのせいいち 桃山学院大学)


(注1)
 Enforcing the ADA :Looking Back on Decade of progress (DOJ 2000) この報告書はDOJのホームページ(www.usdoj.gov/)でダウンロード可能である。

(注2)
 この図はDOJのCivil Rights Division Directory (DOJ 2000)や全米障害者(NCD)のPromises to Keep (NCD 2000)等を参考にした。

図 DOJにおけるADA施行に関係する部局の組織図

図 DOJにおけるADA施行に関係する部局の組織図