音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

第5回 WBU
(World Blind Union:世界盲人連合)
総会報告

山口和彦

 オーストラリアのメルボルンで昨年11月20日から5日間、158の加盟国のうち110か国の代表が集まり、第5回WBU(World Blind Union:世界盲人連合)の総会が開催された。会議では、過去4年間の活動報告とともに21世紀に向けて、失明予防、教育、リハビリテーション、雇用、人権問題など視覚障害全般にわたって熱心に討議された。日本からは代表団6人を含め、42人の視覚障害者と関係者が参加した。

 ”Changing what it means to be blind.”(視覚障害が意味するものを変えよう)を大会テーマに、21世紀を迎えて視覚障害そのものの意味を根本的に問い直そうという意欲が溢れていた。その象徴的なものは、WBUとして初めて女性会長が誕生したことだ。会長に選出されたスウェーデンのキキ・ノードストローム女史は、これまで視覚障害をもつ女性の地位向上を含め障害者問題、性差別、児童虐待などのさまざまな問題に尽力してきた。とくにこれまでアジア、アフリカ、ラテン・アメリカなど貧困から派生した性差別に苦しむ女性障害者や社会的ハンディを受けている人たちには、キキ新会長にかける期待は大変大きいものがある。総会に先立って行われた女性フォーラムでも、各国からさまざまな女性障害者に対する差別、偏見の実情が明らかにされ、その結果、総会の決議事項の中に「視覚障害者女性に対する差別撤廃」という一項目が採り入れられた。
 キキ・ノードストローム新会長のもとに新執行部が組織されたが、第1副会長にアーネ・ヒューズベーグ氏(ノルウェー)、第2副会長にウィリアム・ローランド氏(南アフリカ)、事務局長にエンリケ・サンツ氏(スペイン)が選出された。キキ新会長があいさつのなかで、WBUを一本の木にたとえて、メンバーの一人ひとりがその木に栄養をもたらす大切な葉になるのだと、会員一人ひとりの自覚を強く促していた。

 日本の属する東アジア太平洋地域協議会では、自国の視覚障害者のために積極的に立ち上がろうという若さが感じられた。会長にクア・チェン・ホック氏(シンガポール)、3人の副会長にはモンティアン・ブンタン氏(タイ)、ヤン・ジァ氏(中国)、村谷昌弘氏(日本)が選ばれた。
 アジア地区の再編成に伴い、従来はアジア地区に属していたマレーシアやタイ、インドネシアなどが新たに東アジア太平洋地域協議会に加わることになった。この地域は経済的にも着実に成長し、社会福祉の面でも急速に変貌しつつある国々が集まっているだけに今後、世界から注目されると見られる。
 一方、従来の中東地域にインドやパキスタン、ネパールなどが加わり、西アジア地域協議会が発足したが、東アジア太平洋地域に比較すると経済的にもかなりの落差がある。今後、アジア地域活動のなかで東西格差を是正し共存共栄のためにどのような連携がとれるのか、グローバルな視点が求められているように思われた。
 地域協議会で具体的に討議されたことは、按摩・マッサージなどの職業教育の面で、マレーシアから今年3月にマッサージ・セミナーを開催したいという提案、中国からマッサージの指導者育成のための3か月・6か月コースの研修計画の提案、日本からは沖縄にJICA(海外協力事業団)の援助を得て、トレーニングセンターの開設に向けてのアンケート調査の依頼など積極的な動きが見られた。こうした背景にはマッサージの技術向上を目標に、視覚障害者の指導者養成が急務であること、マッサージが視覚障害者の職業的自立に有効であることが、正当に評価されたと思われる。
 会議終了後、次のような決議が出された。

1.視覚障害をもつ女性の人権に関して

1―1.視覚障害をもつ女性の人権に関していっそうの改善を求める。特に盲少女に対する性的暴力の撤廃を含め大幅な改善を要求する。

1―2.視覚障害女性の教育を受ける権利を保障し、すべての社会的活動に参加できるように要求する。

1―3.賃金格差を撤廃し、障害や性別に関係なく賃金が支払われることを要求する。

1―4.視覚障害女性に対する情報アクセス支援の強化を求める。

2.国連関係に関して

2―1.ユネスコと連携し、視覚障害者の教育に関するプログラムを作成する。

2―2.活動資金を削減された国に対しては、IMF(International Monetary Fund:国際通貨基金)と協調し改善を求めるとともに、各国福祉機関とも協議し、いっそうの改善を申し入れる。

3.人権擁護に関して

3―1.あらゆる人権差別については全面的に反対する。特に子どもに対する人権については、各国の団体を通じ改善要求のキャンペーンを展開する。

3―2.視覚障害者に対し経済的援助を行うとともに、社会的活動を支援する。また、人権擁護の遅れている国に対しては、改善要求のキャンペーンを展開する。

4.労働・雇用に関して

4―1.視覚障害者の雇用問題は大きな社会問題であり、ILO(International Labor Organization:国際労働機関)と協議し、大幅な改善を要求する。

4―2.IT(Information Technology:情報技術)関係の進歩に合わせて、障害者の識字、音声サービス、Eメールなどのコミュニケーションプログラムを推進する。

5.郵便サービスに関して

5―1.視覚障害者のための郵便物については、従来通り無料郵送サービスの実施を要請する。特に国際郵便物について、無料サービスを継続することを申し入れる。
**現在、無料の廃止を検討している国が52か国あると北京会議で報告されている。

6.経済、社会環境の改善に関して

6―1.視覚障害者が社会活動に参加しようとする時、その実現に必要なリハビリテーションを含め種々の社会サービスの充実を要求する。また、これを一市民の権利として認めさせる。

6―2.経済変化により制約された雇用問題については、WBUは各国で実施している雇用対策を調査し、該当国に対し改善を申し入れる。

7.識字点字に関して

7―1.点字の歴史を踏まえ、1月4日を国際点字デーとする。

7―2.各国共通の点字を共通化するために、WBU内に世界点字委員会を設ける。

8.情報アクセスに関して

8―1.すべての公開された情報は、障害の程度(全盲、弱視など)にかかわらず入手できるよう改善を要求する。

8―2.出版物の肖像権、著作権についていっそうの改善を要求する。

8―3.視覚障害者が使いやすい情報機器の開発とアクセス環境の整備を要求する。特に市役所、図書館など公的施設における環境整備の充実を要求する。

9.原住民対策に関して

9―1.地域における誤解、偏見、差別、迫害など不当な扱いを受けている原住民に対するすべての差別の撤廃を求める。

9―2.原住民の教育に関しWBU内に委員会を設け、実情を調査し、該当地域の改善を求める。

9―3.原住民の文化的遺産を評価し、その保存・育成に努める。また、原住民のリーダーの育成に努める。

10.今後の行動計画に関して

10―1.WBUはこれらすべての実現に向かって組織の見直しを行い、行動しやすい環境を整える。

10―2.リーダーの育成のために小児奨学金制度の見直しを行い、このための調査費用の増加を要求する。

11.環境グループに関して

11―1.WBU内の情報収集能力の強化を行う。

 会議に並行して会場には視覚障害者用の機器展、「VISTA 21C」が開催され、点字プリンタ、点字ディスプレー、CCTV(拡大読書機)、DAISY、その他日常生活用具が展示されていた。とくに注目されたのは、今後録音可能なDAISY機器が発売予定があることだ。これによって、現在のテープレコーダーと同じような操作感覚で使える可能性があり、パソコンなどの機械操作が不得手な高齢の視覚障害者にとっても大きな福音である。それも遠い将来ではなく、市場に出される可能性があることはうれしいことである。
 最後に、今大会を通じて痛感させられたことは、インターネットの威力である。これまで情報アクセスの面で大きなバリアがあったが、インターネットの活用により、視覚障害者同士が時空間を超越してコミュニケーションが可能になったことである。デジタル情報が飛び交い、まさにボーダーレス(国境のない)時代に突入してきたことを実感してきた。会議資料も点字、墨字、フロッピー・ディスクが用意され、そのディスクの中には、英語、フランス語、スペイン語が入っていて参加者が利用しやすいように準備されていた。参加者の中でも自分のメール・アドレスを持っている人が予想外に多く、情報の量的拡大と情報取得の時間が飛躍的に縮小された。こうしたハイテクノロジーを活用できる視覚障害者や国とは反対に、それらを使えないために、各種情報にアクセスできないでいる視覚障害者や国の格差はますます広がるばかりである。これは国際間の問題だけでなく、高齢化を迎えた日本の視覚障害者も真剣に考えなければならない大きな課題であると思われた。

(やまぐちかずひこ 視覚障害者生活支援センター)