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二次障害考

障害のある人の医療問題としての二次障害について

小佐野彰

1 脳性マヒ者等における二次障害

1.二次障害とは何か?

 脳性マヒ者の二次障害は、変形性頸椎症や股関節変形症等といった症状として現れる。自覚症状としては、まず凝りを感じるようになり、続いて痺れと痛みの順番に現れ、最後に無感覚になってしまう。二次障害を軽く見ることはできない。たとえば、変形性頸椎症では、第三、第四頸椎がやられている場合は、横隔膜の運動が止まり、場合によっては呼吸不全で死ぬことになる可能性もでてくる。
 脳性マヒ者の二次障害については、近年ようやく医学界でも注目されるようになった。それまでの医学界では、専門病院を中心に「脳性マヒは進行しない」ということと「脳性マヒ者は短命である」ということが、半ば定説となっていたのである。しかし、心ある専門家の研究等によって、脳性マヒという障害自体は進行しないが、日常生活における無理の蓄積によって、二次障害という形で、確実に本人の障害は重くなることが分かってきた。

2.二次障害の予防と治療

 二次障害は、不治の病ではない。
 まずは、日常生活における二次障害に対する予防についてであるが、日常生活において、少なくとも2時間ごとに体位変換を行うことが理想である。しかし現実的に、介助者不足等の問題で体位変換がままならない場合は、せめて寝る姿勢において、体の向きを普段とは逆にする等の工夫が必要である。
 脳性マヒ者等にとっては、普段の作業姿勢も重要である。車いすでの姿勢の問題としては、なるべく背骨に体重をかけるのではなく、背中を真っすぐに伸ばして、骨盤の両側にしっかりと体重を乗せるよう自らが気を付けることが必要である。また、コンピューターを活用した作業を行う場合は、あらかじめ1時間ごとにタイマーをセットし、意識的に休養を取るようにすべきである。障害のある人は、無理な努力を強いられてきた歴史の影響と姿勢を変える大変さから集中して頑張ってしまう場合が多いが、無理は絶対に禁物である。
 全身に障害のある人の場合は、週1回程度、定期的にリハビリテーションを受けることが有効だと思われる。現在、わが国においても「障害を持つ市民としてより楽に生活するために、無駄な緊張を取る」ことを目的としたボイタ法やボバース法等が実践されている。その結果、少しずつではあるが、確実に障害のある人に対する二次障害の治療における成果が上がり始めている。これらの治療を受けることによって、普段、自分では動かせない筋肉を理学療法士に動かしてもらい、身体のバランスを調整することが大切である。さらに、鍼灸や指圧、気功等の治療を受けることも有効だと思われる。
 もしも、二次障害になったら、適切な治療を受けることが必要になる。ここで言う治療とは、外科手術のことを指す。もちろん、外科手術とは言っても、以前はやったような、障害の除去や軽減を目的として足の腱を切断するといった手術のことを言うのではない。障害をもった市民として、当たり前に生活を営むことを目的とした外科手術のことである。現在、悲しいことに脳性マヒ者等の二次障害に対して、適切な診断を下せる医療機関はあまり多く存在してはいない。横浜南共済病院は、20年程前から脳性マヒ者等に対して独自の手術を施し、変形性頸椎症や股関節変形症の治療を行ってきた。すでに100症例以上の手術経験があり、ほとんど失敗例がないのである。


2 自分の手に医療を取り戻そう!

1.二次障害を怖がらずに生きよう

 私は、二次障害になることを怖がるあまり、萎縮して何もできなくなってしまうとしたら、それはあまりに悲しいことだと思うのである。確かに、体を動かすと二次障害を招くかもしれない。けれども、自分が主体的に医療と向き合っていれば、怖いものは何もないはずである。もしも、二次障害になったとしたら、適切な治療を受ければいいのであるから、その後の人生を失うことはないのである。私は、二次障害におびえるよりも自分の人生を生きるために、自分を活かせることや好きなことを見つけることが重要だと思う。それは、どんなことでもよいのである。社会運動や政治活動でも、スポーツや娯楽でも何でもよい。社会や他人にどう評価されるかではなく、本当に自分が好きでたまらないことを見つけられたらいいなと思う。

2.定期検診を受けよう

 私は、障害のある人が自分の人生を生きるために、二次障害の予防を目的とした検診を定期的に受けることをお勧めしたい。性能的に言っても、MRIを受けたほうが二次障害検診としては、数段効果が期待できる。大きい病院で、2年に1回は二次障害検診を受ける必要があると思うのである。

3 医療問題全国ネットを形成しよう

 障害のある人の二次障害を含む医療問題の解決に向けて、全国組織を早急に立ち上げる予定である。

〔名称〕

 障害者医療問題ネットワーク(二次障害ネット)

〔目的〕

  • 脳性マヒ者を始めとする全身に障害のある人の二次障害の問題を中心に、障害のある人の医療問題に関して、障害当事者やその家族、行政関係者や医療専門家等が学び会える機会を提供する。
  • 当面、シンポジウム等を企画することによって、障害のある人の医療問題に関する情報交換等を行えるような、全国的なゆるやかなネットワークの形成をめざす。

〔運営主体〕

 当面は、JOY障害者が使える温泉クアハウス推進検討会、特定非営利活動法人自立の家をつくる会、横浜ピアネット、神奈川県障害者自立生活支援センター、障害者の生活保障を要求する連絡会議の相互協力によって運営する。

〔事務局〕

 特定非営利活動法人自立の家をつくる会が担う。
 障害のある人にとっては、二次障害ばかりではなく、定期健康審査の保障や、通院時や入院時における医療機関の無理解等、医療問題が山積している。「二次障害ネット」の取り組みを通して、これらの問題を少しでも前進させていきたい。

(おさのあきら 特定非営利活動法人自立の家をつくる会代表理事)