音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

雇用の現場から

小柳忠章

柔軟な助成金制度の運用

 厚生労働省の創設に関して、今までの経験からいくつかの提案をしたいと思います。
 障害者雇用の実態という点では、雇用するうえでさまざまな補助金制度がありますが、実態に合った運用ができているかどうか疑問があります。
 助成金をもらうには、ハローワークを通して雇用しなくてはなりません。中小企業の会社などでは、知り合いの紹介や親戚を採用することが多いのですが、こういった制度を知らない人が意外と多いのです。今、私のところで働いている障害のある社員は、大学の先生の紹介で入りました。頸椎の5、6番をやられている重度障害者です。新卒ですから、もちろんハローワークを通していません。ですから障害者雇用に関する助成金が受けられません。もし助成を受けるなら、一度解雇して再雇用することになりますが、なぜ解雇しなくてはならないのか、疑問が残ります。
 障害者雇用が今一歩進まない状況は、助成金に関する積極的なアナウンスをしていないため、といった理由もあると思います。
 彼は現在、在宅勤務です。幸いインターネットが発達して、通常はインターネット上で書類や成果物などをやり取りしていますが、必要なときは打ち合わせのためにお客さんのところに出かけて行きます。彼は運転ができないので、「迎えに行きますよ」と言っても、「大丈夫ですよ」と弟さんがアルバイトを休んで自分が運転をしてお兄さんを乗せてくる。そういう家族的な犠牲を払わないと障害者が働けない現実があります。重い障害者を雇う場合でも、補助金が出る期間が2年くらいと決められています。
 以前、障害者雇用に関する助成金制度を調べてみたことがありました。たとえば通勤にかかる補助では、本人が車を運転して通勤する場合は車を買う補助金が出ますが、本人が運転できないと対象外になります。
家族が送り迎えするとしても、それは対象外です。自分が運転できない場合、通勤補助者に対する補助金があります。ただ期間が1か月間で、通勤の時間も決めなくてはなりません。5人以上雇うと通勤用のバスを買う助成金が出ますが、そうすると逆に制度を悪用しようとする人も出てきます。今までは本当に弱者に光があたるような施策ではなくて、うまくこの法律を利用して儲けてくださいと、どこか違う方向に顔が向いてしまっているのです。
 現在の助成金制度は、いまクローズアップされている重い障害の人や知的障害者、精神障害者の人たちが働き続けるには厳しい内容になっているのです。現状に合った改正を望みます。

社会全体の考え方を変える

 また、障害者雇用を進めるには、雇用する側だけの問題ではありません。その人が働いて社会のどの場面で役に立つかとか、そのサービスを受ける側が障害者を受け入れられるかどうかという問題もあります。
私たちは仕事の都合で、お客さんの所に行かなくてはならないとき、わざわざ「車いすの人が行ってよろしいですか」と聞かなくてはならないのです。理由は来てもらっては困る、という人がいるからです。一流企業と言われる会社でもこういうことがありますので、障害者理解の推進が必要だと思います。
 たとえば、数千人規模の大きな工場があって、新しい建物のエレベーターには障害者用のスイッチが付いていて、スロープも付いているのに障害者がいません。これは建物を造るときに、こういった設備が整備されていないと認められないので、という理由からです。会社でも障害のある人を受け入れようという気持ちがないからです。ただ雇用率などの数字を達成させるだけでなく、受け入れる会社や社会の人々への啓発活動も必要ではないでしょうか。

いろんな人がいて当たり前の社会

 今、家にいる人たちが働きに出られるような環境が整えば、相乗効果として自然と働く機会が出てくると思います。たとえば電動車いすの人は、そのままタクシーには乗れません。電動車いすの人がそのまま乗れるようなタクシーを規格化したりすれば、もっと行動範囲が広くなるでしょう。今は駅にエレベーターが付いていても、駅に行くまでのアクセスができていないことが多いのです。
 ですから一部の法改正をしてもだめで、生活にかかるすべてについて徹底的に法改正をすると別の意味で雇用ソースができると思います。まちづくりにしても障害のある人だけでなく、みんなが使いやすいという考え方に立って考えることが必要で、たとえば建設省(現国土交通省)と厚生労働省が連携して、必要のない公共施設を造るかわりに舗道を整備することも必要です。
 今は、経済競争もかなり熾烈になっていて「勝ち組み」「負け組み」といった言葉も聞かれ、勝った人だけで経済をやっていきましょうといった雰囲気があります。いろんな人がいて当たり前になっていけば、今のような経済運営そのものも見直さなくてはならなくなると思います。
 厚生行政と労働行政が一つになったので、いままで壁があってやりにくかったことが、やりやすくなればいいと思います。障害が重くても働ける、働き続けられるような整備が進むことを期待します。

(こやなぎただあき 株式会社アドバンスト・ソフト)