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障害の経済学 第16回

障害者の所得保障
その1

京極高宣

はじめに

 障害者の自立生活にとって最も基礎的で、かつ経済学的に位置付けなければならないものとは何か。それは、いうまでもなく所得保障です。しかしわが国における障害者の所得保障に関しても、歴史的にはある意味では彌縫(びほう)策として各種制度が誕生してきた経緯もあり、必ずしも国民に明確に理解されない複雑な内容となっています。そこで今回は、障害者の所得保障について触れてみることにしましょう。

1 生活保護中心の時代から障害年金中心の時代へ

 戦後、日本の障害者所得保障はいうまでもなく、生活保護制度が中心でしたが、当初の基準に、障害者加算が段階的に加えられて障害者の所得保障は充実していきました。
 その後、障害児には、何ら親への所得保障はありませんでしたが、特別児童扶養手当制度が創設され、中度以上の障害児をもつ親に一定の所得制限の下で手当が支給されるようになりました。しかし、親亡き後の対応については、公的支援策はしばらくの間存在せず、障害年金が確率するまでは国や都道府県がいくらか関与しますが、基本的には自助的な扶養保険がそれに対応しました。
 さらに、昭和39年にいわゆる手当法(「特別児童扶養手当等の支給に関する法律」)により福祉手当支給制度が昭和50年から実施され、特別児童扶養手当への上乗せが可能になりました。また昭和60年の国民年金法等の一部を改正する法律で手当法が改正され、従来の福祉手当制度を廃止して、児童と成人を問わず、重度の障害をもつ者への特別障害者手当等が誕生しました。
 この間、国民皆年金が昭和30年代に確立し、国民年金に障害基礎年金が定められ、2級の身体障害者には、老齢年金と同額の障害年金が支給されるようになりました。なお1級の障害年金は2級の1.25倍とされました。また厚生年金には、障害厚生年金が定められ、障害基礎年金に一定の加算が行われるようになりました。

2 現在の障害者所得保障

 昭和61年4月からは、重度障害者に関しては、障害基礎年金プラス特別障害者手当が、また重度障害児に関しては、特別児童扶養手当プラス障害児福祉手当という体系が整備され、障害者の所得保障は格段の高い水準にまで引き上げられました。また多くの地方自治体には、すでに制度化された扶養保険のほかに、障害年金が誕生する以前からの単独事業としての特別児童手当等が必ずしも見直しをされず存続することになり、東京都などでは全国的にみても、きわめて高い障害者の所得保障が実現することになりました。
 平成13年4月からは、年金や手当の引き上げがなされ、図のような体系となってます(図1、2参照)。

図1 重度障害者の所得保障
図1 重度障害者の所得保障

図2 重度障害児の所得保障
図2 重度障害児の所得保障

むすびにかえて

 以上、概観したように、わが国における障害者の所得保障は、重度の障害をもっている人に関しては、それなりの高い水準のものとなっており、また各種の税控除やJRの割引などの経済負担の軽減措置も含めると、国際的にもある程度みるべき水準となっているかもしれません。
 しかしながら、中程度の障害者の所得保障や就労支援策が必ずしも十分ではなく、精神障害者への対応に著しい立ち後れがあり、依然として生活保護に依存した状態であり、また、税制度があまりにも複雑で国民に分かりにくいなどの改善すべき問題点も残されていることは明らかです。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)