音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

フォーラム2001

知的障害者のホームヘルプサービスを考える

根来正博

ホームヘルプサービスを利用しよう

 知的障害者のホームヘルパーは、これまで「心身障害児(者)ホームヘルプサービス事業」で行われてきましたが、平成12年から「障害児・知的障害者ホームヘルプサービス事業」に変更になりました。

重度者から中・軽度者にまで拡大

 制度の改正により、療育手帳をもっている成人の方ならだれでも利用できるようになりました。ただし子どもの場合は、まだ重度の人しか利用できません。
 制度では、事業の対象世帯及び対象者を次のように表現しています。

(1)障害児

 重度の障害のため日常生活を営むのに著しく支障がある重症心身障害児(者)、知的障害児、身体障害児の属する家庭であって、障害児又はその家族が障害児の入浴などの介護、家事などの便宜を必要とする場合とする。

(2)知的障害者

 日常生活を営むのに支障がある知的障害者であって、当該知的障害者が入浴などの介護、家事、移動の介護等の便宜を必要とする場合とする。

 制度の目的には、「ホームヘルパーを派遣することにより、適切な家事、介護等の日常生活を営むのに必要な便宜をはかることにより、重度の障害児の生活の安定と、知的障害者の自立と社会参加を促進する」とあります。今回の制度改正の特徴は、知的障害者全般に対して必要な支援をホームヘルパーという制度をもとに、自立と社会参加を促すという点にあります。
 ご存じのように、ホームヘルパーの職務には、介護、家事援助、相談、移動の介護等があります。知的な障害をもっている人であればだれでもこの支援を、本人の都合で利用できるようになったのです。グループホームで生活している人も活用できるようになりました。ただし、利用の際には、主にかかわる世話人と役割が重ならないように工夫をする必要があるようです。世話人が生活全般の支援をするならば、ホームヘルパーは介護を中心に担っていくといった関係でしょうか。
 さらに外出時における移動の介護は、「社会生活上、必要不可欠な外出のみならず、余暇活動等、社会参加のための外出をするときにおいて適当な付き添いを必要とする場合とする」という位置付けになり、いわゆるガイドヘルパーとしての役割が大きく期待されるようになりました。
 そのためグループホームで生活する人が土、日の余暇の外出にガイドヘルパーとしてホームヘルプ制度を活用することもできるようになったのです。

サービスを利用する側からの視点で

 とりあえず国の制度としては、間口が大きく広がり地域生活を支える資源として、ホームヘルプサービスに大きな期待が寄せられるところです。ところが、全国的にこの制度を活用できるような状態になっている自治体はわずかしかありません。
 国の施策「障害者プラン・ノーマライゼーション7カ年戦略」では、平成14年までにホームヘルパーの数を45,300人とし、12年度現在では37,200人が確保されているとしています。しかし実際に、それだけの数のホームヘルパーがいるのでしょうか? 答えは残念ながら「いいえ」です。
 制度があっても、実際にはほとんど機能していない状態です。ホームヘルプサービスの実施主体は市町村です。介護保険のおかげで高齢者に向けた事業はすでに各市町村で実施されています。たいていの自治体では、窓口や提供主体が高齢者のホームヘルプや身体障害者のホームヘルプと一元化されており,予算も仕組みもほぼ高齢者対応の仕様になっています。
 身体障害者からの要望が強いところでは、それなりにその人たちへの対応が整っています。しかし、発言力の弱い心身障害児者や知的障害児者にはほとんど提供されていない、というのが実情です。ちなみに精神障害者には平成14年からホームヘルプ事業が法制化されるため、家族会連合会が中心になってマニュアルづくりに取り組んでいます。残念ながら知的障害の分野では出遅れており、手つかずの状態です。
 では、なぜ利用が進まないのかというと、次の2点が考えられます。
 ひとつには、情報が全く行き渡っていないということです。それは利用する方々にというだけでなく、関係の行政にも十分に情報が届いていないのです。
 ある親御さんが、市から委託を受けてホームヘルパー派遣をしているところ(公社)へ行っていろいろ話を聞こうと思ったところ、「知的障害の方へのそういう制度はないです」と言われ、「あるはずだから調べてください」と詰め寄ったという話はよく耳にします。制度があっても使わなければ(使えなければ)無いのと一緒です。
 もう一つには制度が適用できる状態にあっても、担い手となるヘルパーがいない、もしくは対応が適切でなく利用できないというものです。知的障害の人に照らした研修制度が確立していないということもありますが、利用者、サービス提供者、双方の慣れの問題もあるでしょう。
 知的障害の人がホームヘルパーを使いこなすのは容易ではありません。それはホームヘルパーの力量以前に、利用者が対応してくれるホームヘルパーに慣れ、サービスの中身も理解して、安心して利用できるまでに時間がかかるということにあります。一度や二度の利用で使えないとあきらめずに、利用者がホームヘルパーを育てる気持ちで、使い勝手についていろいろと注文をしていく姿勢も必要になっています。もちろんホームヘルパーの養成を適切に行うことが前提で、講座の内容をテキストとともに、実習のあり方も含め練り上げて機能させなければなりません。
 さ細なことかもしれませんが、ホームヘルパーの名称が利用の仕方に影響を与えないような配慮も必要です。「家」(ホーム)以外の場所でも多様なかかわりが必要になるのが知的障害の人々です。かかわる内容も、介護を中心にしたものから見守りが必要な場合、極端に言えば、声かけだけで支援する場合と幅広いかかわりが必要です。
 しかも、この幅のあるかかわりが、一人の人に、同じ日に、すべて必要な場合があるのです。親や関係者であれば「いまさら、何で?」というようなことも、知的障害の人の特性、突き詰めれば個々人の状態を個別に知ってもらう必要があるのです。
 いずれにしても知的障害の特性を踏まえた対応の仕方が大切です。現在は残念ながら特性を踏まえた対応の「ノウハウ」と、その「ノウハウ」を基にマンパワーを養成し、資源として開拓して提供する仕組みがとても貧弱です。何もないならば作るしかありません。個々人の生活にどれだけサービスの中身を寄り添わせることができるかが肝心です。

具体的なヘルパーの活用例

 国の制度が改正される以前から市町村の独自の対応により、柔軟にホームヘルパーを活用している事例はわずかですがありますので紹介します。
 ある市には1日9時間、ホームヘルパーによる支援を受けて一人暮らしをしている人がいます。具体的な介助の内容は、炊事、洗濯、掃除などの家事や市の広報などを代わりに読んでゴミ出しの日を確認するなどの支援です。
 またある人は、毎日10時間、ホームヘルパーを利用します。介助を受けるのは夕方から夜にかけてと朝の時間帯です。食事、入浴、洗濯などはもちろん、介護として危険から守る行為としての見守りです。また、ある人にはコミュニケーション支援も重要です。言葉だけで意志を伝えることが難しい人の場合、本人の意思を他者に伝えるときの通訳と同時に、周りで起きていることをわかりやすく解説し説明する必要があります。また、道順を覚えて一人で外出ができる人でも、駅で電車やバスに乗り換えるのがとたんに難しくなる人もいます。こういう時がガイドヘルパーの役割といえます。
 ガイドヘルパーのかかわりに関しては、ホームヘルパーが定期的なかかわりであるのに対して、ガイドヘルパーは1回ごとのかかわりになります。そして、それが有効であり重要なのです。この特性を押さえたかかわりの実例としては、学齢時に対して行うガイドヘルパーの実践もあります。たとえば、思春期の男子への着替えなどを含めたプールの付き添いがあります。
 繰り返しますが、傍目からは想像もつかない利用にこそ、知的障害のある人への具体的な活用例があるのです。個人の事情にあわせて機能するホームヘルプ事業は、知的障害においても在宅支援の要です。今後、大きく育んでいかなければなりません。

(ねごろまさひろ サービスセンターぱる)