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列島縦断ネットワーキング

熊本
熊本ユニバーサルデザイン国際シンポジウム

―熊本県における取り組み―

沼川敦彦

 熊本県では、去る1月23日、24日の2日間にわたり「熊本ユニバーサルデザイン国際シンポジウム」を開催しました。
 昨年6月にアメリカで開催された第2回ユニバーサルデザイン国際会議で中心になったメンバーの方々を中心に、国内外から11人のユニバーサルデザインに関する専門家を講師に迎えた全国初の試みには、北は北海道から南は沖縄まで、企業、各種団体や学校、行政関係等幅広い地域・分野から約千人もの参加者が集まりました。それは、わが国でのユニバーサルデザインへの期待と関心の高さの証左といえるのではないでしょうか。
 ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、障害の有無などに関係なく、できる限りすべての人が利用しやすいまち、もの、サービスや環境等をデザインしようというものです。米国で提唱され、1990年のADA法(American Disability Act=障害をもつアメリカ人法)の制定以降、急速に広まった考え方ですが、わが国でもここ数年メディア等で取り上げられ、目にすることも多くなってきました。その背景には、障害者の社会参加の促進とともに、世界に類を見ないスピードでのわが国の高齢化の進展が挙げられます。
 特に、全国平均の7年先を行く高齢化先進県である本県では、あと数年のうちには4人に1人が、25年後には3割が65歳以上の高齢者という状況で、高齢者を特別な存在と考えるのではなく、県民全体の中での個性と捉える時期にきていると考えており、また、そのことが一般に障害者といわれている方々、その他一時的に障害や何らかの不便を感じている方々も含めた真のノーマライゼーションの実現につながるものと考えています。
 その意味で、昨年4月から潮谷県知事のリーダーシップのもと、ユニバーサルデザインをこれからの社会システムを構築するうえでの基本理念と捉え、県全体の運動という形で県内のさまざまな分野にこの考え方や、理念というものを幅広く、またさりげなく取り入れ、だれもが暮らしやすく豊かな熊本づくりを進めていくこととしました。
 そのため、一人でも多くの方々にユニバーサルデザインの考え方をご理解いただき、県民や企業・団体、行政等とのパートナーシップによって、それぞれの立場で熊本なりのユニバーサルデザインの推進に向けて何ができるか、その可能性と未来像を一緒に考えていただけるよう、今回のシンポジウムを開催したところです。
 シンポジウムの1日目は、熊本市内のホテルを会場に、午前中は米国ノースカロライナ州立大学のモーリー・ストーリーさんから「ユニバーサルデザインとは何か?」という基調講演と、デザイン・ムーア株式会社社長のパトリシア・ムーアさんから「加齢するということ~シニア体験を通して~」という記念講演がありました。
 その中で、ストーリーさんは、「ユニバーサルデザインとは、あらゆる年齢・能力・状況などすべての需要を満たすよう努めるものであり、この目標を達成するのは困難だが、それでもなおめざす価値があるもの」ということを、ユニバーサルデザインの7原則に照らし合わせた事例も交えて話されました。
 また、ムーアさんは、26歳当時にデザイナーが、高齢者や障害者の環境やニーズに配慮せずにデザインしていたことに不満を抱き、3年間高齢者に扮して生活した実体験に基づき、「だれもがいずれは老いて行く過程でユニバーサルデザインを必要とする時が来るが、その時に利用できる『もの』を創り出すためには、ユーザーと製品と環境との適切なインターフェイス(調和)を創り出すことが大切」とアプローチのヒント等を話されました。
 午後からは、「熊本県でのユニバーサルデザイン推進に向けて」と題して、国内外のゲストを講師に、ものづくり・まちづくり・ソフトづくりの3セッションで、計10テーマ、21グループに分かれ、ワークショップを行いました。
 この中では、「ユニバーサルデザインでものづくりだけが進んでもダメ。すべての人がその心を持ったものづくりをすべき」「ユニバーサルデザインのカギは消費者が握っている。メーカーが商品をつくる時、消費者がどうかかわっていけるかがポイント。改善し続ける姿勢が品質を向上させる」「アンテナショップがほしい。それとともに、日常的な場にユニバーサルデザイン商品を取り込んでいくことが大切」「建築物においては仕様を規定するのでなく性能を規定すべき」など、さまざまな意見が出され、各自がユニバーサルデザインを自分のこととして捉え、熊本県をその視点で見つめ直す絶好の機会となりました。
 また、2日目は水俣市と菊池市に会場を移し、それぞれの地域でのユニバーサルデザインを考える視点でシンポジウムを行いました。
 「地域づくりとユニバーサルデザイン」と題しての基礎ガイダンスでは、水俣市はアダプティブ・エンバイロンメンツのバレリー・フレッチャーさん、菊池市はコモン・プレース・デザイン代表のロベルタ・ナルさんにお話しいただき、午後からはそれぞれの会場で地域に応じたテーマごとのタウンウォッチング等も交えたワークショップが行われ、参加者による活発な意見交換がありました。
 これらの詳しい内容は、本県がインターネット博覧会のパビリオンとして参加しているホームページ『ユニバーサルデザイン(UD)・ネット』(URL:http://www.inpaku.go.jp/kumamoto/)でもご覧いただけます。
 今回のシンポジウムを通して、ワークショップを取り入れた参加型の手法は、ユニバーサルデザイン推進に向けて非常に有効であると講師の方々から高い評価をいただくとともに、今後、ユニバーサルデザインが企業や自治体等で加速度的に取り組まれ、社会に浸透していくものであるという確信も得ました。
 本県での取り組みは、まだ緒についたばかりですが、今回のシンポジウムを大きな一歩として、だれもが暮らしてよかった、訪れてよかったと思える熊本づくりに向けて、着実な歩みの中にも時代を先取りした熊本なりのユニバーサルデザインの取り組みというものを県民の方々と一緒に考え、運動という形で進めていきたいと考えています。
 最後に、今回のシンポジウムへの水俣市、菊池市、財団法人熊本開発研究センターと、ユニバーサルデザインフォーラムのご協力に深く感謝いたします。

(ぬまかわあつひこ 熊本県企画開発部企画調整課パートナーシップ企画室)

ワークショップ「熊本県でのユニバーサルデザイン推進に向けて」セッション別小テーマ一覧
セッション名 小テーマ名 内容 国内講師(敬称略) 海外講師(敬称略)
A ものづくり 地場産業へのUD導入 地場産業の育成・活性化にUDの視点を活かす(伝統工芸のUD/県産資源・人材を活用したUD製品開発/UD関連新規事業開発/他) 川原啓嗣 パトリシア・ムーア
県内でのUD商品普及 流通環境整備/消費者教育/広告・販促/マーケティング/他 中川 聰
B まちづくり 公共施設・建築におけるUD 不特定多数が利用する建築物(庁舎、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、他) 古瀬 敏 ロベルタ・ナル


バレリー・フレッチャー
住まいにおけるUD 宅地/住宅/住宅設備/インテリア/他
川内美彦
移動におけるUD 交通手段/道路交通/他
消費環境におけるUD 商店街/店舗/売場/他 清水忠男
憩いの場におけるUD 市街地の公園/森林公園/海浜公園/川縁/他
C ソフトづくり こころのUD 人材教育/学校教育/生涯教育/他 野村一路 モーリー・ストーリー
公共サービスにおけるコミュニケーションのUD 広報/メディア/展示・掲出物/接客/他 関根千佳
WebにおけるUD コンテンツデザイン/PC活用促進/他