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107項目とアジア太平洋障害者の十年後の展望

高嶺豊

 アジア太平洋障害者の十年の行動課題を推進するために73項目の目標が、1995年のESCAP地域会議で採択され、その後ESCAPの52回総会で承認された。この目標は、国連・障害者の十年の反省に基づいて設定された経緯がある。国連の十年の修了の評価の時に、十年で具体的に何が達成され、何が未達成なのかの評価基準がなく、体系的な評価がほとんどできなかった。そこで、国連・障害者の十年の轍(てつ)を踏まないために、アジア太平洋障害者の十年では、具体的な目標が12の領域にわたって設定されたのである。
 目標は初めにESCAP事務局で最初の草案が作られ、域内の政府や障害者に関するさまざまな団体の意見が取り入れられ、修正された。それが、アジア太平洋組織間委員会(RICAP)の障害者に関する小委員会の中で検討された後、95年の地域会議に提出され多くの政府、民間組織、国連機関の代表によって討議され、採択された。このように、目標の設定には大勢の関係者の参加があったことが特筆される。
 同様に、1999年11月にバンコクで開かれた地域会議で、修正強化された107項目の目標の協議にも地域から大勢の関係者が出席した。73の目標が95年に制定されてからすでに4年が経ち、その間アジア太平洋地域の社会・経済的な状況が変化し、障害者分野でも、新たな傾向や変化が見られた。それらの変化を反映するために、目標の修正強化が99年になされたのである。
 たとえば、教育の領域では、インクルージョンの傾向が強まり、その関連の目標が強化された。また、インターネットなど、情報通信技術の発達により、情報へのアクセスが容易になった反面、障害者にとっては、情報がさまざまな形態に加工される必要があり、著作権の問題が生じてきた。そこで、障害者の情報アクセスへの権利と著作権の問題が目標として新たに含められることになった。目標達成年もすべての項目について、十年の最終年である2002年と定められた。
 アジア太平洋障害者の十年のガイドラインとして、行動課題と具体的な目標が設定されたことで、障害者問題への各国の取り組み姿勢が大きく変化したと言われている。すなわち、障害者問題を単なる社会福祉問題としてみるのではなく、多くの分野にまたがる多部門的開発問題として捉えられるようになった。これは、国が地域会議で発表するカントリーペーパーにもよく反映されている。ほとんどの国のペーパーが、12の領域に従って整理されているのである。カントリーペーパーを一つ作成するためにも、建築物や交通のアクセス、情報通信のアクセスなどに関しては、建設、運輸、通信関連の省庁から、教育、雇用や訓練に関しては、教育、雇用関連の省庁から情報を集める必要があるため、各省庁の協力と調整が重要になっている。
 さて、アジア太平洋障害者の行動課題推進のための目標は、99年に新たに24項目が追加され修正強化されたのであるが、達成期限を2002年に設定しても、多くの項目が最終年までに達成できる可能性は少ないとの認識はあった。
 2000年に日本で行われた障害者団体役員11人による、日本の現状に対する107項目の評価においては、平均達成率50パーセントとの報告がある。日本でこれだけの達成率であれば、他の開発途上国の達成率はさらに低くなると思われる。そのため、99年の地域会議においては、107項目の目標は、2002年のアジア太平洋障害者の十年の枠内にとどまることなく、次の十年後の行動目標としての役割があるとの認識が示された。これは、十年がすでに2年弱しか残っていないとの認識と、十年終了後の障害者問題の取り組みの枠組みを考える動きと関連して出てきた。
 さらに、107項目の目標の取り扱いについては、2000年12月にバンコクで開かれた、アジア太平洋障害者の十年2000年キャンペーンで採択されたバンコク宣言に、次のようにうたわれている。
 「アジア太平洋障害者の十年の行動課題を実施するための目標が、2002年の最終年に見直され、改定され、さらに強化され、アジア太平洋障害者センターの行動計画となることを確認する」
 昨年3月に北京で開かれた、障害に関する世界NGOサミットで、障害者の権利に関する国際条約の採択を促す北京宣言が採択された。今後、アジア太平洋地域でも障害者問題を人権問題と捉える動きが活発になってくることは間違いない。アジア太平洋障害者の十年の終了後の枠組みがどのようなものになるにしろ、行動課題と107項目の目標は、障害者の権利に関する項目が補強され、今後もこの域内の障害者問題解決のガイドラインとしての役割を果たしていくことであろう。

(たかみねゆたか ESCAP社会開発部障害者プロジェクト専門官)