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資料
アジア太平洋障害者の十年
107の目標
(仮訳)

アジア太平洋障害者の十年の行動課題を実行するための目標

 「アジア太平洋障害者の十年の目標の達成とこの地域の障害のある人々の機会均等化に関する地域フォーラム」(1999年11月22~24日、バンコク)で修正され、アジア太平洋経済社会委員会第56総会(2000年6月1~7日、バンコク)で承認された。
 正式名称は「アジア太平洋障害者の十年の行動課題を実行するための目標」で、「107の目標」は通称である。

1.国内調整(11)

a 重要課題
b 目標 1.1~1.11

2.立法(11)

a 重要課題
b 目標 2.1~2.11

3.情報(3)

a 重要課題
b 目標 3.1~3.3

4.国民の啓発(8)

a 重要課題
b 目標 4.1~4.8

5.アクセシビリティとコミュニケーション(11)

a 重要課題
b 目標 5.1~5.11

6.教育(15)

a 重要課題
b 目標 6.1~6.15

7.訓練と雇用(14)

a 重要課題
b 目標 7.1~7.14

8.障害原因の予防(11)

9.リハビリテーション(9)

a 重要課題
b 目標 8.1~8.11
c 目標 9.1~9.9

10.福祉機器(7)

a 重要課題
b 目標 10.1~10.7

11.自助団体(6)

a 重要課題
b 目標 11.1~11.6

12.地域協力(1)

a 重要課題
b 目標 12.1

1.国内調整

(a)重要課題

 一つの課題は、ESCAP域内のほとんどの国と地域には障害に関する国内調整機関があるが、障害問題の進展が各国内の隅々まで十分には浸透していないことである。第2の課題は、全国レベルとそれに準ずるレベルで調整委員会を永続させ、2002年以降も維持できるようにすることである。

(b)目標

1.1

 障害問題国内調整委員会(NCC)を設立し強化する。NCCは、「十年」の行動課題実施のための、多分野にわたるアプローチの推進に関する報告義務をもち、議会・政府首脳に対して適切な機構を備え、国と地方のすべてのレベルの政府および関連省庁・政府機関の政策決定レベルの代表が参加し、また障害者自助団体や知的障害者親の会、障害のある女性を含むNGOが実質的に参加し、かつ資源の適切な割り当てを受けるものとする。

1.2

 NCC執行委員会を設立し強化する。この執行委員会は、国と地方の政府、関連省庁・機関の代表、および障害者自助団体や知的障害者親の会、障害のある女性を含むNGOの適切な代表者によって構成され、NCCの決定の実施状況を適時にフォローアップし、監視するとともに、NCCの活動を推進する。

1.3

 全国レベルに準ずるレベル(州や県など)に調整機関および執行機関を設ける。そこには草の根運動のグループと組織の参加のための適切な方法を講じる。

1.4

 国内行動計画を作成し、これを目標年次および監視と評価を行う機構を備えた国の開発計画に組み入れる。同時に「アジア太平洋障害者の十年」国内行動計画、とくに本文書に含まれている国内行動の目標実施のために、適切かつ多分野にわたる資源を割り当てる。

1.5

 国内行動計画において、国内で実施される都会と地方の開発計画を含むすべての貧困緩和事業に障害のある貧しい人々の参加を促進する方策を確認し、それを優先させる。

1.6

 貧困緩和およびその他の開発事業への助成基準として、障害のある人の参加を明記する。

1.7

 調整機関および執行機関が効果的に機能するために、これらを適切な資源と設備を備えた法律にもとづく恒久的な組織として強化する。

1.8

 障害のある人々のプラスのイメージを促進する緊急な方策を遂行する。そのイメージには教育、訓練、雇用、スポーツ、芸術、文化的活動および地域生活での彼らの可能性、能力、業績が含まれる。さらに、障害のある人々のプラスのイメージを促進するために、国内のあるいは国際的な障害者の日の設定、また地元のお祭りやメディアなどを活用する。

1.9

 障害にかかわる国あるいは地方レベルでのすべての関係者の間に、効果的なコミュニケーションルートを設立する。これを通じて情報提供、効果的な問題解決、そしてタイムリーで適切かつ多面的な協議、とくに障害者の自助グループと障害者のためのNGOとの間の協議を確実にする。

1.10

 障害のある人々の機会均等化に関する法律とその修正も含めて、障害のある人々のための全プログラム、サービス、法令についての情報を適切に集め、普及・公表する。これは障害のある人が利用できる方法でなされ、また障害のある人々とその家族の識字レベルを配慮した言葉でなされる。

1.11

 障害者とその家族の生活状況に関する正確なデータを集めて定期的に更新するための適切な機構を設立する。そこには事例やその他の情報が含まれ、それらを利用してサービス利用状況や障害のある人々の機会均等化の進展状況についての判断がなされ、政策立案に役立てられる。同時に障害のある人々のプライバシーが守られるよう全個人データは責任をもって使用される。

2.立法

(a)重要課題

 「アジア太平洋障害者の十年」行動課題のなかの「法律」にかかわる目標の見直しによって、次のことが指摘された。多くの国で機会均等化に関する基本法の制定が行われるというある程度の進歩はあった。しかし、婚姻や相続などにかかわる実体法、刑法、民事訴訟法などの手続き法の見直しでは、ほとんどあるいはまったく進歩がなかった。

(b)目標

2.1

 相続、婚姻、財産などの法律や、刑法、民事訴訟法などあらゆる実体法と手続き法およびさまざまな問題に関する政策規定を調査・確認する適切な機構を設立する。

2.2

 実体法および訴訟法を改正し、障害のある女性や知的障害のある人々を含め、障害のある人々に対して平等な法的保護を与える条項を盛り込むとともに、彼らの完全参加や機会均等を制限する条項や差別的な条項を撤廃する。

2.3

 障害のある女性や知的障害のある人々を含め、障害のある人々の権利を守り、彼らのための肯定的行動を促進し、さらに差別的な行為や、建築およびコミュニケーションの障壁を取り除くための効果的な執行機構が組み込まれた基本法を制定する。

2.4

 貧困生活を送る重度障害のある人々とその家族、および主要な稼ぎ手が障害者となり、扶養家族を支える収入源がない人たちを対象に、財政支援を行う国の社会保障制度を導入する。

2.5

 関税に関する法律を見直し、障害のある女性を含む障害のある人々の生活の質を向上するために必要な用具と資材、とくに教育、就労、スポーツ、レジャー、文化活動および日常生活に必要な用具と資材を含めて、車両、福祉機器、医療品の輸入関税免除を導入する。

2.6

 税制に関する法律の見直しを行い、障害のある人々への優遇措置、障害者の雇用主への優遇措置、および国産福祉機器の免税などの製造業者への優遇措置を導入する。

2.7

 職場、公共の場、交通機関、家庭での健康と安全を促進するために交通法令と産業/労働法令を含む法律/規則を制定または改定する。また、障害のある利用者のニーズにとくに注意しつつ、業務用、家庭用、個人用の輸送機関、設備、器具、その他の品目の安全基準を設ける。

2.8

 関税免除品リストの定期的な見直しのための機構を設ける。

2.9

 既存の無料司法扶助サービスの対象に障害のある人々を含めるか、または障害のある人々のための無料司法扶助サービスを発足させる。

2.10

 障害のある人々の権利を守るための(オンブズマンなどの)執行の仕組みを基本法に設け、さらにその効果的な執行のための基準と規則を告示する。

2.11

 著作権にかかわる法律を修正し、教育的、情報的、そしてレクリエーションの資料を障害のある人々が利用する権利を守り、そのような資料を書き換え、転移、翻訳、再生するための規定を定める。

3.情報

(a)重要課題

 正確で定期的に更新される情報の入手は、権利擁護にとって、また障害のある人々のためのサービスの企画と実行のために、極めて重要である。ESCAP域内の多くの国と地域で情報システムを開発するにあたって、障害問題に関するデータベースの設立のための資金不足とさまざまなレベルでの中核機関の欠如とが、大きな障壁となっている。とくにこの問題は地域レベルで深刻である。さらに、情報は地方レベルで入手できなければならない。簡単で、共通かつ役立つ障害の定義がないために、使いやすく正確で比較できるデータの収集をめぐる問題をいっそう困難にしている。2000年2月にニューデリーで開かれた障害者統計に関する研修ワークショップは、障害の定義の国際的な改定の動きと関連して、この地域で障害の定義を議論するはじめての場であった。

(b)目標

3.1

 NGOと自助組織、そして国と地方の障害担当との協調体制の中で、障害の状況に関して定期的に最新情報に更新するデータベースを設立する。それには、障害のある人々の人口統計的データ、教育レベル、雇用状況、住居、家族構成、登録障害者団体への入会状況を含む社会・経済的側面などが含まれる。そして、データベース設立の目的は、
(a)さまざまな省庁と組織がもっている障害に関する利用可能な情報を索引すること
(b)障害のある人々とその家族に分かる言語とコミュニケーション方法とを用いて、情報を地域レベルの組織に適切な方策をもって広めること

3.2

 国の統計局の能力を強化する。アジア太平洋地域での比較を促す共通の役立つ障害の定義を開発適用する。さらに、全国レベルの障害関連調査の実施を提唱する。

3.3

 「アジア太平洋障害者の十年」の行動課題と修正目標の実行を促すため、これらを各国語と地方言語に翻訳する作業をすぐに行う。そしてマスコミ、地域メディア、政府機関、ボランティア団体を通じてその翻訳を普及させる。

4.国民の啓発

(a)重要課題

 障害のある人々の平等な参加を制限する重要な要因は、彼らが社会の完全なメンバーとして機能することを妨げる認識と習慣が広く行き渡っていることである。しばしば、障害のある人々の能力は認められないままである。彼らの可能性を十分に伸ばす機会は限られている。これを改正するためには、完全参加と平等のためのすべての啓発キャンペーンが、障害のある人々の能力を強調し、生産的な市民であり主流の開発過程に参加する完全な権利を持つ社会のメンバーであることの価値を強調することが重要である。
 政府の役人、とくにこれまで障害者問題を扱ってこなかった省庁の役人の認識を高める必要がある。とくに、障害自体が開発の課題であるということとともに、社会の主流の開発過程に障害者が完全参加する権利を持っていることを理解する必要がある。
 「障害のある人々」や「障害者」という用語は同義語的に使われてきたが、これはESCAP域内での用語法と好みの多様性の反映である。

(b)目標

4.1

 民間や地域メディアを含む全国そして地方の出版物と電波を通じたマスコミが、障害のある人々への国民の認識と態度を改善するような、通常の正確な記事によって「十年」に関連した話題を取り上げることに、直ちに着手する。

4.2

 青少年のための事業を実施するすべての教育・訓練機関、政府機関、NGOは、すべての青少年のために企画された活動に障害のある青少年が参加できるようにするための方法を明確にし、実施するよう促す段階的行動をとる。

4.3

 文部省とその他関連する全省庁により、それぞれの国や地域で使われているさまざまな様式の教育と機能的識字教材のすべての見直しを直ちに開始するよう促す。そして障害のある人を傷つけるような内容を取り除き、彼らが地域生活の主流に溶け込むのをサポートするイラストや説明を加えることを促す。

4.4

 アジア太平洋地域における障害のある人々の完全参加と平等を促進する初日カバーおよび記念切手の発行の即時実行を促す。

4.5

 情報とメディアの政策およびプログラムに障害問題を含め、障害分野のために適切な時間とスペースを取るよう主張する。さらに、各種のパフォーマンス、とくにコメディー、映画、漫画などを通じて障害のある人々に対する否定的イメージや不正確なイメージを描写することを禁ずるよう主張する。

4.6

 障害のある人々に対する国民の認識を高め、態度を改善するためのマスコミの努力に関する資料収集のため、政府の省庁およびNGOが報道紹介サービス(新聞切り抜き集の発行など)を実施するよう促す。

4.7

 アジア太平洋地域レベル、国レベルおよび国に準ずるレベルで、障害のある人々の才能と願いを目立たせる国民啓発キャンペーン活動の一部として、障害のある人によるあらゆる文化的活動(芸術と舞台芸術を含む)とスポーツを推進する。

4.8

 公務員および全部門の専門技術者の養成カリキュラムおよび現任訓練カリキュラムに、主流の開発問題として障害を位置づける。これは、障害問題における多面的協力を促進し、すべての主流の開発活動への障害のある人の統合を推進するためである。

5.アクセシビリティーとコミュニケーション

(a)重要課題

 障害者が自由に移動する手段を確保することは、主流の開発過程に完全参加する能力、自尊心そして自信を築くための本質的要素である。教育、訓練、雇用などの事業や障害に係わる決定は障害者が移動できない場所で行われている。
 移動の自由は相互に関係する三つの主な要素、つまりアクセシビリティー、コミュニケーション、そして福祉機器から構成される。
 ESCAP域内の国と地域は、障害者の物理的環境へのアクセスと効果的なコミュニケーションシステムの利用の面でさまざまな達成水準にある。政府機関、自治体、NGO、さらに個人のレベルを含むすべてのレベルで、情報交換とネットワーク形成が非常に重要である。
 もうひとつの重大な課題は、バリアフリー機能を既存の公共交通システム、建築物その他の既存のインフラに体系的計画的に導入することである。
 もうひとつの重要な分野は、訓練と雇用のための場所の物理的アクセスを改善するために、職場のレイアウト、道具、設備と機械の改善の対策を調査し評価することである。
 自国に手話のない地域での手話開発の可能性を緊急に検討する必要性がある。さらに、アジア太平洋地域で多様な言語を使用する人々の間のコミュニケーションを容易にするための、基本的なサイン(手話)のセットを決定することの実行可能性についての議論が残っている。

(b)目標

5.1

 交通機関、教育施設、住宅、レクリエーション施設など公共的な建築物や施設のすべての新築、修繕、拡張時の設計および計画に、バリアフリー機能を基準要件として組み込むことをただちに始める。この基準には効果的な実施を確保する方策が、とくに公立施設の新・改築のために含まれるべきである。

5.2

 すべての障害者のために、歩道にスロープを設けたり適切な信号や施設を用意するなどにより、建物の外部環境をアクセシブルにすることを直ちに実行に移す。

5.3

 本線と幹線ルートを手始めに、大量交通機関とサービスに、バリアフリー機能を導入するための取り組みを直ちにはじめる。さらに大量の公共交通機関の改造と拡充に際しては、計画段階の始めよりバリアフリー機能を組み込むための取り組みを直ちにはじめる。

5.4

 建築家、エンジニア、および都市計画・農村計画担当者の訓練カリキュラムにバリアフリー設計を促す取り組みを直ちにはじめる。

5.5

 既存の建築関係規則に障害のある人のための環境改善を組み入れるための取り組みを直ちにはじめる。

5.6

 ESCAP域内の各政府と障害問題にかかわるNGOの間に、アクセス・ネットワークを形成し強化する。その目的は、とくに技術開発、基準、手続き、経験と資源についての情報交換を促進することである。

5.7

 障害のある人にとって、職場のレイアウト、道具、設備、機械、そして器具をより使いやすくするための研究を直ちに進める。

5.8

 標準の国内手話の開発に向けての取り組みを直ちにはじめる。同時に手話通訳者の資格の制度化の取り組みも直ちにはじめる。

5.9

 テレビ番組(とくにニュースとドキュメンタリー)および主要な公共サービスと施設、とくに警察、病院、裁判所、金融機関における手話通訳サービスの利用の権利の保障に向けて取り組む。さらにほかの公共の場所でも話し言葉に代わるコミュニケーションの方法を提供する。

5.10

 一般の印刷物を読むのが困難な人や朗読サービスを必要な人のために、点字、拡大文字、コンピューター・ディスク、カセットテープ、その他の適切な媒体を利用する権利を保障するために取り組む。

5.11

 すべての障害グループに役立つよう、字幕と音声描写を導入しその普及に努めるとともに、コンピューター機器、インターネット、ラジオ、電話、ファックス、その他情報や娯楽のための視覚メディアを利用しやすいように改善する。

6.教育

(a)重要課題

 障害のある子どもと若者の教育のための、政策とプログラムの開発と実行は不十分である。多くのESCAPの国と地域では、何らかの教育を受ける機会をもっているのは障害のある子どもの5%以下に過ぎない。さらに統計の示すところによれば性別格差があり、少女のほうが教育機会が少なくなっている。多くの障害のある子どもや若者は、社会の片隅に押しやられている。これらの子どもと若者は二次的な不利益を蒙っているといえる。
 学習障害をもっている子どもは多くいるが、そのことが理解されていない。このため教育から落ちこぼれ、さらに社会・経済問題につながる。学校に残っても教育的ニーズは満たされていない。
 障害のある子どもと若者は、適切な形での教育、情報、レクリエーションの資料をほとんどあるいはまったく利用できない。障害のある子どもや若者がそのような資料を利用できるようにするには、新技術の活用が不可欠である。このため著作権の問題が、関係する国連組織の部局とその他の国際組織、および著作権の所有者、製作者(例、作詞者、音楽家、作家、ソフトウエア作者)、資料生産者などの代表者による首脳会議で緊急に取り上げられ、そのような資料を障害者が利用できるよう明確な約束が確認されねばならない。この問題はまた国内レベルでも取り上げられなければならない。
 教育の考え方と実践をめぐって、近年大きな変化があった。障害のある子どもや若者が兄弟や仲間とともに、地域の学校やインフォーマルな教育活動に参加する権利をもつことが認められるようになった。教育プログラムは、多様なニーズをもつ子どもたちに、さらにより責任をもったものにならなければならない。同時に、家族と地域の役割も強化される必要がある。21世紀の初期には、かなり多くの障害のある子どもと若者が、分離された場所ではなく、統合された場所で教育を受けると予想される。

(b)目標

6.1

 ESCAP域内の各国・地域における障害のある子どもと若者の就学を勧め、障害のない子どもとの就学率の格差を縮める。それを、オープンスクール、通信教育を含むフォーマル、インフォーマルな教育制度を通して達成する。

6.2

 「すべての人に教育を」を実現するため、すべての教育政策、計画、事業に障害のある少年、少女、女性、男性を含め、これらに十分な資金配分と適切な技術支援を行う。資金配分にあたってはまた、統合教育の場で障害のある子どもと若者の効果的な教育成果が得られるよう、必要かつ十分な支援提供ができるようにすべきである。

6.3

 障害のある子どもと若者の効果的な教育成果を上げるため、適切な補助教員、福祉機器、および設備を確実に供給する。

6.4

 農村部と都市部の両方で、障害のある子どものための早期療育プログラムを、その家族や地域社会も積極的にかかわれるようにしながら導入し、発展させる。また、障害のある子どもの、一般の幼稚園・保育園への統合を促進する。

6.5

 障害のある子どもと若者を含め、すべての子どもと若者の就学継続率を段階的に上げる。

6.6

 障害のある子どもを含め、多様な能力をもつ子どもへの効果的教育を確実なものにするために、教員養成訓練および現任訓練のプログラムを強化する。

6.7

 障害のある子どもと若者を含めたすべての子どものための総合教育カリキュラムを導入し、そこには科学、数学、技術、職業前教育および職業教育を確実に組み込む。

6.8

 障害のある子どもへの効果的教育を容易にするために、教育方法と教材の改造を推進する。その際、知的障害、盲ろう、重複障害、自閉症、学習障害、行動障害、言語、コミュニケーションに問題のある子どもと若者の教育にとって適切なものを確実に含むこととする。

6.9

 教育制度の焦点を見直し、障害のある子どもと若者のために、学科中心から生徒中心のアプローチへ変換させる適切な政策、法律を開発する。

6.10

 障害のある子どもと若者の効果的統合教育を促進するため、補助教員、福祉機器、その他必要とされる援助を含め、支援の機構と体系を強化する。

6.11

 障害のある子どもと若者へ統合教育の機会を提供するにあたって、家族や地域社会の参加を推進し、支える。

6.12

 教育プログラムに、障害のある子どもと若者を統合する方向に政策担当者、行政の管理および技術職員、および学校管理者と教員を意識づける。

6.13

 教育担当省庁が、障害のある子どもと若者の教育に対する責任を負うことを奨励する。

6.14

 早期幼児教育から、初等・中等教育への移行を適確にし、さらにそこから職業前訓練を含めた援助を伴う卒後活動への参加、そして第3次教育(高等教育)と雇用への参加を確保する。

6.15

 障害者が、教育、情報、娯楽に関するデータを利用できる形で入手できる権利を主張する。ここには、一般に著作権法で規制されている資料の録音、転写、翻訳、再生、活用の権利が含まれる。

7.訓練と雇用

(a)重要課題

 経済の国際化、そしてオートメーション、情報工学、新しい福祉機器の発展などの技術進歩は、アジア・太平洋地域の障害のある人々の雇用の見通しを変えた。これは時に新しい選択範囲を広げることにもなったが、しばしば雇用機会を減じることにもなった。
 これまで公的機関は、障害のある人々にたくさんの雇用機会を提供してきた。しかしESCAP域内の多くの国と地域においては、公的機関が縮小され、その機能の一部を民営化している過程にある。この傾向は、求職障害者の雇用機会の確保に大きな問題となっている。このため、民間セクターで職を得るか、自営業を推進するかの選択が求められている。さらに、障害のある人々の雇用機会を広げるために、経済組織のすべての分野が直ちに開放される必要がある。
 障害のある人々への技術訓練は、伝統的に専門センターで提供されてきた。これら訓練コースで身に付けられた技術は、しばしば時代遅れで労働市場の需要を反映していない。障害者にとって、障害のない人が訓練を受けている一般のトレーニングセンターにおいて新しい雇用機会を広げることがますます強調されるようになっている。それにより雇用につながる技術を取得することができる。

(b)目標

7.1

 障害のある人々が参加できるような一般の訓練プログラムを作り、そして必要な場合、参加条件や適格基準を改訂する。その際、男女平等に留意し、低収入・貧困家庭出身の障害のある人々の参加に注意を払う。

7.2

 カリキュラムと支援サービス(物理的にアクセスしやすい訓練場所と設備、点字テキスト、手話通訳、訓練助手など)を開発、強化する。その目的は、障害のある人々が、すべての職業前訓練、職業訓練プログラムおよび見習いプログラムに完全参加でき、その後農村部・都市部での有給雇用や自営業に結び付けるようにするためである。

7.3

 障害のある人々の公的および民間セクターでの雇用と昇進のための国の目標を設定する。そしてこれらの目標の達成を推進する政策を策定する(たとえば義務的割り当て雇用、雇用主への雇用奨励制度、雇用主と被雇用者を対象とした特別キャンペーン活動、雇用主に対する技術援助など)。

7.4

 公的および民間セクター、障害者組織、その他のNGOの代表を含む協調機関を設立し、フォーマル、インフォーマルな部門での新しい雇用と自営業の機会の情報を継続的に収集する。また、これら雇用機会に直結する技術トレーニングを実施し、旧式のトレーニングは廃止する。

7.5

 障害のある人々のための、男女平等を基本とした訓練および職業紹介の年次目標を設定し、遂行する。なお、この目標はすべての省庁(たとえば、雇用、人的資源開発、農村開発に責任のあるもの)、政府の開発計画、雇用主組織と労働者組織、および障害のある人々の組織の共同行動のための目標とする。

7.6

 重度障害のある人々や支援環境を必要とする人々のために、適切な訓練と雇用の機会を提供する(たとえば、生産センターの設立、自営業や援助付き雇用のためのサポートや福祉機器の提供、必要な場合の住宅の準備などを通して)。

7.7

 すべての農村部および都市部での、貧困の緩和事業、フォーマル、インフォーマルな部門での収入創出事業、そして自営業推進の事業において、障害のある人々の平等な参加を確実なものにする手段を導入する。

7.8

 起業技術訓練(この技術の中には、事業機会の調達、事業計画の策定、経営や簿記の技術が含まれる)、マーケティングや生産のための支援サービス、および無利子や低利子の融資の利用のための国の制度をつくり、その効果的実施を図る。

7.9

 農村部あるいは都市部においても、(職業紹介サービス機関を含めた)公的および民間機関やNGOが、就職させるべき障害者あるいは自営業を支援すべき障害者を見いだす。

7.10

 障害のある人々の訓練や雇用を(たとえば環境改善、支援サービスや福祉機器の提供などを通して)進めるための資金を、重度の障害のある人々のためにも使用する。

7.11

 すべての法、政策、雇用に関するとりきめにおいて、(求人、昇進、解雇、人員削減などでの)障害のある労働者の権利を擁護する。

7.12

 アジア太平洋地域の発展途上国およびもっとも発展の遅れている国と地域の障害のある人々の訓練と雇用のために、人間工学、職場の改善、安全機器、その他の重要なテーマに関する調査研究を実行する適切な機関を確定し、委任する。そして、サービス提供者、利用者グループ、新しい雇用機会確認の協調機関、および他の関係機関との協議を通じて、改革を奨励し、調査テーマを確定する。

7.13

 訓練と雇用に関する法律が効果的に施行されているか、また政策が効果的に実行されているか、そして関連する「十年」の目標が達成されているかどうかをモニターし評価する機構を、障害者の積極的な参加のもとに設立する。

7.14

 国際レベルでも、国、地方、州・県、地域レベルでも、障害のある人々の雇用に関連する既存の用具や設備に関する情報を確認し、収集し、普及させる情報センターを設ける。

8.障害原因の予防
9.リハビリテーション

(地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)、保健と社会開発)

(a)重要課題

 アジア太平洋地域の農村部やスラムに住む障害のある人々の大多数は、いかなるリハビリテーションサービスも利用できていない。とくに時間と費用がかからないですむ点において、またサービスそのものがない。多くの国と地域では、予防、リハビリテーション、そして障害のある人々の生活の質を高める施策についての包括的国家戦略をもっていない。
 障害問題が、政府の資金割り当てや計画展開において高い優先順位を得るためには、信頼できる包括的なデータが必要とされる。しかし、主にデータ収集の問題が解決されていないため、障害に関するデータは非常に限られている。
 また、いろいろな開発分野の人材を支援するための、専門技術、情報資料、訓練資材や訓練プログラムも不足している。これは、予防事業やCBRなどのサービスの発展にとって重大な支障となっている。これらのニーズに答えるために、資源を分け合うことを通じて、もっとたくさんの資金とその他の援助を確保することが必要である。
 予防の努力とCBRが支えられるよう、さまざまな分野での政策・計画が強化される必要がある。これらは、障害のある人々とその家族、地域社会の協調した努力を生かしつつ適切な保健、教育、職業、社会的サービスを届けるアプローチである。
 また、心理社会的問題(精神疾患)のある人々は、ESCAP域内の多くの国と地域でますます増加しつつあり、かつあまりサービスを受けていない。そして、ESCAP域内で人口高齢化が急速に進んでいる状況下、とくに障害のある高齢者のためのプログラムが必要である。

(b)障害原因の予防に関する目標

8.1

 五つの最も大きな予防可能な障害原因および喫煙、アルコールや他の薬物依存の予防に関連し、またそれらの予防に焦点を当てた教育キャンペーンを開始する。その際、男女の区別を明確にした人口統計データも活用する。なお、このキャンペーンは問題を取り上げているものであるが、障害のある人々の尊厳を支持するべきである。

8.2

 ヨード欠乏症、ビタミンA欠乏症、ポリオ、ハンセン病を、主要な国民保健問題としないようにする。

8.3

 すでに進められている優れた障害予防の努力を疎かにすることなく、8.2以外の他の三つの予防可能な障害原因の発生率を大幅に減少させる。

8.4

 対人地雷の製造、使用、販売を禁止する国際キャンペーンに正式に参加する。すでにこのキャンペーンの結果、対人地雷の使用、備蓄、製造、移転の禁止とその廃絶に関する条約が成立している。

8.5

 もっぱら失明させることのみを目的としたレーザー兵器の製造と販売を禁止するキャンペーンに直ちに取りかかる。

8.6

 道路安全、安全デザイン、建築物や設備の使用、個人利用のための防護用具の強制使用、および低賃金のため自費ではそうした用具を買えない労働者のための雇用主による提供、などの法律の開発と実行に着手する。

8.7

 発達障害の危険性をもつ新生児の超早期発見の制度を開発する。

8.8

 幼児の障害に関する早期の介入サービスを、政府、NGOを通して推進する。

8.9

 子どもの障害への早期発見・早期介入にかかわっている草の根のスタッフに対して訓練の機会を提供する。

8.10

 心理社会的問題のある人々への予防、早期発見、介入サービスのための特別な対策をはじめる。

8.11

 加齢に関連した障害の早期発見とその管理のためのサービスを始める。そして、障害のある高齢者の生活の質の向上のための活動を推進する。

(c)リハビリテーションに関する目標

9.1

 障害関連の課題やサービスにかかわる活動のすべての過程において、障害のある人々とその家族の参加を大きく増進させる。

9.2

 予防、リハビリテーション、そして障害のある人々の生活の質の向上のための施策を示す包括的国家政策を開発し、決定する。その政策では、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)を好ましいアプローチとして位置づける。

9.3

 貧困の緩和、保健、住宅、交通、人的資源開発、労働、教育、コミュニケーション、文化、旅行、政治的活動、災害対策事業などの一般のプログラムに、障害の問題を含める。とくに障害のある女性・少女に留意する。

9.4

 CBRプログラムをサポートするすべての政府およびNGOの活動の調整を充実する。

9.5

 保健、教育、および社会開発分野に従事する人々の訓練カリキュラムの中に、予防とリハビリテーションの課題を組み込む。障害のある人々の生活の質の向上にかかわるその他の専門職の訓練に、障害問題を取り入れることに着手する。

9.6

 CBR事業を支援するため、1978年のプライマリーヘルスケア(初期医療)に関するアルマアタ宣言で強調されているように、すべてのプライマリーヘルスケアの事業に、リハビリテーションサービスを組み込む。

9.7

 政府とNGOを含め、専門家、資材、よい実践に関して、国と国との間で交流する取り組みを促進し、支援する。

9.8

 障害やリハビリテーションに関する実践研究や革新的なアプローチを開始、推進する。

9.9

 貧困状態と確認された障害のある人々のための社会保障施策を適切な方法で推進する。

10.福祉機器

(a)重要課題

 障害のある人々の機能的自立を確実なものとすることは、彼らの開発事業や社会活動への完全参加に不可欠である。障害のある人々やその家族が適切な福祉機器を買うことができ、使えることは、彼らすべての権利である。また福祉機器の効果的な使い方を障害者に訓練することも必要である。
 農村部・都市部の障害のある人々にとって、その土地の文化に合った、手に入れやすい価格の、国産福祉機器の調査研究と開発が必要とされている。
 低コストで適切な福祉機器の生産・供給システムが開発、強化され、大多数の障害者のニーズに対応する必要がある。

(b)目標

10.1

 福祉機器の生産、供給、修理と保全を確実なものとするため、助成制度を含めた継続性のあるシステムと手順を構築するよう、早急に行動を起こす。その際、すべての障害者のニーズ、とくにもっとも無視されているグループのニーズに注意を払う。

10.2

 福祉機器およびその製造、修理、保守に必要な部品、材料、備品のとくにESCAP域内からの輸入に対する関税およびその他の税を免除するため、関税を管轄する省局と協働する。

10.3

 福祉機器およびその製造、修理、保守に必要な部品、材料、備品のとくにESCAP域内からの輸出入に関する通関手続きの簡略化に早急に取り組む。

10.4

 とくにその地方の資源を使った、その土地に合った(国産の)福祉機器の研究、革新、改良を奨励する。その際、これらの活動における指導的な機関と協働し、またこの目的のために資金、従事者、設備を提供し、さらにこれらの課題に関する国と国との間の情報交換を促進する。

10.5

 障害のある人々のための質の良い規格の福祉機器を供給するため、適切かつ継続的な地方の技術の開発を直ちに奨励する。

10.6

 NGOと民間事業主が福祉機器の研究、国内生産、供給、保守を行うことを、税の減免や助成金を通して、強く奨励する制度の創設に直ちに着手する。

10.7

 ニーズが最も高い地方レベルでのサービスを向上させるため、その土地に合った(国産の)福祉機器技術に関するスタッフ訓練を促進する。

11.自助団体

(a)重要課題

 障害のある人々の完全参加と平等を実現させるためには、障害のある人々自身が、自分たちの生活に直接影響するすべての課題に関する国の政策形成に、主要な役割を果たさなければならない。自助団体は、障害のある人々が彼らのニーズや希望を協調して声に出す手段である。自助団体間での調整と協議の不足は、この役割の効果を減らすこととなる。自助団体の全国フォーラムは共通の立場の形成を促進し、彼らの主張を強化する。
 ESCAP域内のいくつかの国と地域では、障害者の自助団体の役割への理解が欠けていた。このため、これらの国々では障害者の自助団体はまだ存在していない。もうひとつの課題は、障害者の組織において障害のある人々の組織・運営能力が低いことである。そのため地域社会で自信をもって効果的な活動ができないでいる。いくつかの場合、自助団体の形成と強化を助成する環境にないことが重大な障壁となっている。
 とくに片隅に置かれているのは、スラムや農村部の障害のある人々、障害のある女性や少女、心理社会的な障害のある人々、精神医療の利用者、HIV感染者、ハンセン病患者である。障害の種別を超えた組織が、このような弱い立場に置かれているグループの問題を取り上げ、適切な彼らをメンバーに加え、またそれぞれの団体や組織を形成するよう奨励する必要がある。

(b)目標

11.1

 障害のある人々の自助団体の全国フォーラムを設立し、強化する。ここには農村部の自助団体を含めるとともに、とくに障害のある女性・少女、心理社会障害のある人々、精神医療の利用者、知的障害者、HIV感染者、ハンセン病患者などの片隅に置かれてきた人々のグループや組織を含める。

11.2

 農村部に住む障害のある人々に焦点を当てた、さまざまな障害グループの自助団体を形成する。これは相互支援、権利擁護、あるいは施策やサービスの照会を行ったり、また農村および都市の開発問題に携わるNGOと協調する。

11.3

 「アジア太平洋障害者の十年」の行動課題の実施を促すため、国内調整委員会の管理のもとに、障害のある人々の自助団体と政府省庁、市民団体・民間セクターとの間の協議を増やすことをとくに目的とした機構を設立する。

11.4

 障害のある人々の自助団体の設立や発展を支援するため、必要な資金割り当てを伴う国の政策を確立する。これはすべての地域を対象とし、とくにスラムや農村部を重視する。

11.5

 障害のある若者や女性を含めすべての障害のある人々を対象とし、彼らが力をつけて、地域で働く技術を備え、自信をもてるよう自助団体の指導性と運営に関する訓練トレーナーに育成する能力形成プログラムを開発する。

11.6

 すべての障害関係者に自立生活という理念を導入する。そして、障害のある人々自身の生活における自己決定・自己管理を尊重する手段を導入することにより、地域における自立生活の達成を促進する。

12.地域協力

(a)重要課題

 「アジア太平洋地域における障害のある人の完全参加と平等の宣言」に最近、調印国として参加した太平洋地域の国々を含めて、ESCAP域内の小さな国々は、「十年」の行動課題の実行のための目標を遂行するために、援助とくに財政援助を必要としている。

(b)目標

12.1

 「アジア太平洋地域における障害のある人の完全参加と平等の宣言」に、最近調印した国を含む小さな国々は、必要な財源と技術援助を求めて、国連開発計画と国連機構内の他の関係国にアプローチする。その目的は、各国が政策の開発と施行の能力を強め、それを通じて障害問題に対する国民の理解を高め、さらに前記の諸目標の中から、各国・地域で決める優先的開発領域への障害のある人々の参加を達成することにある。

(この日本語仮訳は、日本社会事業大学の松永千恵子、松尾縁、佐藤久夫氏らによるものです。)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2001年6月号(第21巻 通巻239号)