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地方在住者とデジタルディバイド

佐藤由紀子

 今やだれもが知る感のある「IT革命」という言葉、革命とは少々大げさな気もするが、1年半前に思い切ってパソコンを購入し、インターネットやE-mailを始めたとたん、私の生活には確かに革命が起きた。
 全盲の私は世の中に大量にあふれる紙に印刷された一般文字情報に自力でアクセスできない。無論、点訳・音訳サービスは利用しているが、通販カタログや新聞のテレビ番組表等、雑駁(ざっぱく)ではあっても暮らしに密着したものほど読めないのが現実であった。ところが、音声ブラウザを用いてインターネットにアクセスすれば、自力で無限の情報に直接触れることも可能になる。盲導犬同伴でのイタリア個人旅行を計画中の私は、イタリア国内の盲導犬関係のサイトを検索し、いくつかの質問を書き込みし、先方から大変協力的なお返事をいただくことができた。原稿や会議資料等、普通文字の使用の面での晴眼者とのバリアも格段に低くなった。この4月からは機器購入にあたり国からの補助も出るようになり、視覚障害者の間にITが急速に普及していくのは間違いないと思う。
 しかし、音声ソフトという特殊な使用環境で、これからパソコンを始める地方在住の視覚障害者にとって最大の問題は、適当な指導者がいないことだ。書店にズラリと並ぶ入門書や、企業・自治体主催のパソコン教室は、「画面を見て操作できる人」を対象にしている場合がほとんどで、視覚障害者を主な顧客とし、個人レッスンや教室を開いている業者はごく一部の大都市にしかない。結果、購入をためらう人や、購入はしたものの使いこなせない等のケースも見受けられる。「国民のだれもがインターネットにアクセスできるように」との主旨で今年度、日本中で行われる「IT講習会」も、小さな自治体になればなるほど障害者対象の講座は予定されていないようだ。
 社会のIT化は今後ますます促進されるであろう。単独での外出が難しかったり自力での文字の読み書きが困難な障害者にとって、ネット社会のもたらす福音は健常者のそれよりはるかに大きい。そして、ネットの最大の長所は、その利便性にほとんど地域格差がないことである。福祉やボランティアサービスの薄い地方在住の障害者にこそ、ITの基礎技能の習得は、生活の質を向上させるビッグチャンスである。
 今後、地域格差から新たなデジタルディバイドが生じたのでは、何やら本末転倒な気がしてならないのだが、読者の皆さんはどうお考えだろうか。

(さとうゆきこ 茨城県在住・主婦)