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フォーラム2001

障害をもつ人と選挙
―ある電子投票機をめぐる視覚障害者の問題提起から―

三崎吉剛

1.わが国の公職選挙法と障害者の投票行動における問題

 重度の障害をもつために公職選挙へ投票意思があっても投票できない人がいる。
 第2東京弁護士会のホームページ(http://www.dntba.ab.psiweb.com/news99/shougaisha-sympo2.html)には、「障害者の参政権問題を考えるシンポジウム『障害者の人権を考える2-参政権の実質的保障をめざして-』」が紹介されている。現行の郵便投票制度が「自署」を条件とするため、手が不自由で書けない人は投票ができないことや、点字が読めない視覚障害者向けの選挙公報の音訳テープ化が認められない問題などが取り上げられ、公職選挙法は障害者の選挙権の行使を阻害しているなどの厳しい制度批判が相次いだ。このシンポジウムは日弁連などが主催したものである。
 日本ALS協会は、投票の権利侵害で裁判を起こしている(http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Ayame/7401/sennkyo2.htm)。
 ALSは進行すると意思は明確であるが、センサーを使ってのコンピュータによる文章作成も困難になる。車いすでの外出は命がけであろう。視線によって文字盤を見つめている場所を読みとれるのは、普段介護している人に限られるということも推察される。
 日本の「公職選挙法」(http://www.houko.com/00/01/S25/100.HTM#s060)の一部を引用してみる。

(不在者投票)
第49条(前略)
疾病、負傷、妊娠、老衰若しくは身体の障害のため若しくは産褥にあるため歩行が困難であること又は監獄、少年院若しくは婦人補導院に収容されていること。
(中略)
2 選挙人で身体に重度の障害があるもの(身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第4条に規定する身体障害者又は戦傷病者特別援護法(昭和38年法律第168号)第2条第1項に規定する戦傷病者であるもので、政令で定めるものをいう。)の投票については、前項の規定によるほか、政令で定めるところにより、第42条第1項ただし、第44条、第45条、第46条第1項から第3項まで、前条及び第50条の規定にかかわらず、その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし、これを郵送する方法により行わせることができる。

 とあり、代理人による郵便投票を認めていない。投票所においても「親族」は認めていない。
 スウェーデンの法規(http://www.senshu-u.ac.jp/~thj0090/nval14.html)では、次のようである。

(投票代理人)
第3条 投票代理人となり得る者は選挙人の配偶者、内縁配偶者、子、孫、配偶者の子、内縁配偶者の子、父、母または兄弟姉妹でなければならない。更にまた投票代理人は職業的にまたはそれに類する方法で選挙人の世話している者もしくはその他の方法で日常生活の世話をしている者もまた投票代理人となることができる。
投票代理人となる者は満18歳に達している者でなければならない。

 言語障害やその他の運動障害で意思表示をすることが困難な人の意思を理解することができるのは、普段付き添っている人に限られることも大いにあるだろう。あくまで推測であるが、スウェーデンの選択は、このようなことへの考慮によるものではないだろうか。

2.ある電子投票機のバリア

―99年埼玉県川口市にて―

 現状の投票システムをそのまま電子的に置き換えると新たなハイテクバリアが発生する。
 今回紹介する電子投票機は、株式会社政治広報センター(http://www.seiji-koho.co.jp/)が企画しているものである。1999年4月11日に埼玉県川口市で行われた模擬電子投票のデモには、問題意識をもった視覚障害者とその関係者が雨天にもかかわらず20人近くも集まった。そこで見たものは、参加した視覚障害者関係者が予想したものとほぼおなじ、弱視者、全盲者には使用できないと言い切ってよいものであった。
 写真はその電子投票機である。政治広報センターより提供していただいた(写真のモデルは2001年ものである。液晶タッチパネルで候補者を選択する外部仕様は1999年のものと変わっていない。2001年モデルでは、これにヘッドホーンによる音声ガイドや各種スイッチなどが付加された)。
 投票者は会場で、本人確認後、投票機の鍵の役割を持つ電子カードを渡される。投票者は音声を使用するなどのインターフェースをこの電子カードを選ぶことで利用できる。本体にICカードを差し込むのであるが、実はこの段階で、カードの裏表の触覚による識別ができず、残念ながらバリアが存在した。次に、液晶パネルに表れた選択肢、被選挙人の人名などにタッチして選択するのであるが、この段階で弱視や全盲の人は投票行動に無理が生じる。

3.視覚障害者と開発者による直接の対話

―インターフェースの改善と問題点―

 インターフェースの改良の実際は、障害者と開発担当者が共通の語彙(い)で話し合える場を設定するしかない。川口での実験の直後の1999年4月17日、政治広報センターの呼びかけで、実験に参加した視覚障害者等との意見交換の場がもたれた。5月17日には、実際に機械の設計を担当する技術者も交えた会合が実現した。改良点として、押しボタン式のキー、音声出力、文字拡大などのほか、上肢障害者のためのガイド付きキーボード、足や頭で操作するマウス、呼気スイッチなどが出された。国会内投票機デモの場でも同様の話し合いが繰り返され、2001年に全国の障害者関係施設での改良機のデモとなった。
 視力障害の人には、ヘッドホーンによる音声ガイドと数字キーによる選択機能がついた。テンキーはタッチパネルの操作が困難な上肢障害の人のために数種類用意されていた。しかし、多数の候補者を音声で読み上げ、選択するということの問題点も指摘されている。また、これをALSの人に使用してもらうために、センサーをもっていっても、操作姿勢を含めたリハビリ工学的「フィッティング」をしなければ使用できない可能性も大きい。

4.再び問題の本質へ

 この問題を初めに指摘した福井哲也氏は、雑誌『トロンウエアvol.58』(1999年8月パーソナルメディア社)で、「今、ユニバーサルデザインという言葉がとてもはやりです。だれもが使いやすいように最初からデザインすること、それがユニバーサルデザインの意味するところだと言われています。しかし、電子投票の「機械」だけを取り出して、そのユニバーサルデザインを論じていると、泥沼に足をとられてしまうような気がするのです。そうではなくて、「選挙」というシステム全体をいかにユニバーサルデザインにしていくのか、それが私たちの本当の課題ではないかと思いました」(http://member.nifty.ne.jp/ymisaki/densitohyo.htmに全文収録)と指摘している。
 電子投票が公職選挙で使用されるためには、公職選挙法の改正が必要である。大所高所に立った改正が望まれる。
 なお、電子投票をめぐる問題の経過や討議の詳細については、次のホームページを参照していただきたい。
「視覚障害教育の現場から」
  URL:http://member.nifty.ne.jp/ymisaki

(みさきよしたけ 東京都立八王子盲学校教諭)