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企業の社会貢献活動の現状と新たな動向

伊藤一秀

1 社会の一員として社会貢献活動に取り組む

 日本企業は企業活動の国際化、社会の価値観の多様化等を背景に、80年代後半から従来の付き合い寄付や陰徳とは違う形で体系的かつ組織的に社会貢献活動に取り組み始めました。それから10年余り、内外の激しい環境変化と厳しい経済情勢にもかかわらず、企業の社会貢献活動は定着化するとともに、担当者の工夫などによりその活動は多様化しています。以下にその現状と新しい動きについて報告いたします。

 経団連では企業の社会貢献活動推進のために、環境整備に取り組む社会貢献推進委員会と実践・情報提供の経団連1%クラブの二つの組織を設けています。そして、活動の一環として、91年より毎年、経団連会員企業ならびに1%クラブ法人会員を対象に、「社会貢献活動実績調査」を行っており、その結果を公表するとともに、3年ごとに各社の事例も紹介した「社会貢献白書」(最新版は1999年)を出版しています。
 2000年の秋に行った調査(回答数324社、回答率30.9%)によると、企業が社会貢献の目的で支出した99年度の「社会貢献活動支出額」は、回答企業309社の総額で1246億円、1社あたり平均額は、対前年度5.5%増の4億300万円でした。90年代を通して見ても、社会貢献活動支出額の1社平均額は、おおむね4億円前後で推移しており(表参照)、80年代の後半に本格化した企業の社会貢献活動は、10年余を経た現在、厳しい経済環境のもとにありながらも定着化してきていると思います。

表 社会貢献活動支出額

  93年度
(398社)
94年度
(404社)
95年度
(367社)
96年度
(405社)
97年度
(376社)
98年度
(360社)
99年度
(309社)
合計額 1,494億円 1,542億円 1,454億円 1,620億円 1,557億円 1,376億円 1,245億円
1社平均 4億500万円 3億8200万円 3億9600万円 4億円 4億1400万円 3億8200万円 4億300万円
対前年 7.5%減 5.7%減 3.8%増 1.0%増 3.5%増 7.7%減 5.5%増


 また、企業が社会貢献活動に取り組む理由としては、「社会の一員としての責任」(84.3%)が一番多く、次いで「利益の一部を社会に還元する」(47.2%)、「イメージアップに繋がる」(35.3%)となり、最近の傾向としては「社風の形成に役立つ」「社員が社会貢献活動を行う企業を望む」など、社会貢献活動の自社の社員に対する影響を重視する回答が目立ってきています。そして、実際に活動を推進するために回答企業の6割、196社の企業で社会貢献活動の基本方針を明文化する、専門部署・社会貢献推進委員会等を設ける、予算制度を設けるなど、何らかの形で社内体制・制度を整備してきています。

2 多様な分野での社会貢献活動とNPOへの期待

 「社会貢献活動支出額」は、社会貢献を目的とした寄付金、現物寄付等の「寄付金額」と各社が自ら実施する社会貢献プログラムである「自主プログラム」からなり、99年度の「寄付金額」の1社平均は前年度比4.0%増の2億5700万円(回答企業306社)、「自主プログラム」の1社平均は前年度比7.2%増の1億4800万円(回答企業298社)でした。
 寄付金額支出を分野別に見ると、「学術・研究」(18.1%)、「地域社会の活動」(13.6%)、「教育」(11.7%)の分野への支出割合が高く、この3分野が90年代を通じての寄付金支出額が多い分野と言えます。ただ99年度はトルコ北西部地震、台湾大地震があったために災害救援分野が伸びる(98年度1.2%から99年度3.7%)とともに、社会の関心を反映して社会福祉分野の伸び(98年度7.1%から99年度8.6%)が目を引きます。自主プログラムに関する支出額では、「芸術・文化」(22.0%)、「地域社会の活動」(16.6%)が90年代を通じての主要分野であり、他に「スポーツ」「環境保全」の分野への支出割合が高く、ここでも「社会福祉」(98年度10.3%から99年度13.1%)が伸びています。
 さらに、企業はより効果的な社会貢献活動の推進をめざしており、その有望なパートナーとして先駆性、専門性、柔軟性に富むNPO(民間非営利組織)への期待を高めています。多くの企業はNPOを、「多様な社会構築の担い手」(60.2%)、「社会貢献活動推進の有力なパートナー」(44.8%)として捉えており、99年度の寄付金先別の1社平均寄付件数・金額からみても企業のNPOへの寄付金額は、前年度の4倍以上の大幅増加の4400万円となっています。そして、企業がNPOと支援・連携を決める際に重要と考えるポイントとして(以下の企業数には複数回答あり)、「運営の透明性」(173社)、「活動実績」(147社)、「ミッションに対する共感」(124社)、「プログラム企画・提案力」(120社)を挙げています。

3 社会貢献活動の新たな動き

(1)企業の持つ資源や専門性を活用した活動

 企業は多様な資源を持っていますが、企業の誇る資源と言えば技術力です。この技術力を活用して社会の課題や社会環境の改善に取り組む活動が数多く報告されています。たとえば、NTT東日本・NTT西日本では、福祉用電話機の骨伝導技術を応用して聴覚障害者用ステレオヘッドホン・ライブホン「ときめき」を開発しています。すでに、日本各地でコンサートを200回以上開催し、3500人以上の方々に音楽を楽しんでいただいているということです。
 日本IBMは、パソコン通信による点字情報ネットワークシステム「てんやく広場」(現在「ないーぶネット」)をスタートさせています。点字図書館等全国の72か所がネットワークで結ばれ、コンピュータで約2万7000タイトルの点訳データが集中管理されており、端末から活用することができます。さらに、視覚障害者の外出支援の「歩みの広場」に技術的な支援を行っています。

(2)従来の社会貢献活動分野を超えた活動

 従来の社会福祉、芸術・文化、国際協力などの分野を超えて、社会的課題への取り組みや使命への共感から独創的な展開をしている活動も見られます。
 エイブル・アート(可能性の芸術)は、1995年に大阪でトヨタ自動車、松下電器産業、大成建設等が協賛する障害者の芸術を紹介する「エイブル・アート・フェスティバル95」の開催を契機に、企業の支援・協力が本格化しました。これを見た支援企業の担当者は作品の力強さや表現の多様さに感銘し、自社のメセナ活動に取り入れたり、エイブル・アートの展覧会を美術館で行うために尽力するという活動につながっています。
 東南アジア諸国での障害者の多さと車いすの普及率の低さという現状を踏まえて、デンソーでは、アジア諸国における車いすの普及を支援するNPO法人「アジア車いす交流センター」を設立しています。そして、タイ身体障害者協会の車いす工場の建設協力・生産設備贈呈・生産技術指導などの支援を行うとともに、タイでのバリアフリーモデル校づくりや車いすバスケットボール交流会の開催など、目的を明確にした多様な活動を行っています。

(3)未来社会への投資

 未来社会への投資という観点から新しい社会的仕組みや人材育成に取り組む活動も始まっています。
 日産自動車では、「日産NPOラーニング奨学金制度」により学生にNPOでの知的創造的社会体験の機会を提供するとともに、その実績に応じて奨学金を支給しています。このプログラムはNPOで学び、考えるという創造的な人材の養成をめざすとともに、企業とNPOとの新しいパートナーシップの試みでもあります。環境分野のNPOに焦点をあてて安田火災海上保険も同様のプログラムを行っています。
 以上の企業の社会貢献活動に関する活動の詳細については、経団連1%クラブのホームページをご覧ください(http://www.keidanren.or.jp/1p-club)。

(いとうかずひで 経団連社会本部企業・社会グループ長)