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みんなが楽しめるおもちゃづくり
─提案する立場から─

高橋玲子

 「だれにでも楽しめるおもちゃをつくりたい」という願いの下、トミーが社内に「ハンディキャップトイ研究室」を発足させたのは、1979年秋のことでした。数年にわたる基礎研究の後、1982年の秋には、視覚障害のある子どもでも静止してしまったボールが探せるように、鈴の代わりに一定時間電子音楽を奏でるICチップを入れた「メロディボール」を開発し、画期的なアイディアとして好評を博しました。その後も、多くの専門家の方からご助言をいただきながら、視覚障害者用に改良した「バックギャモン」(西洋スゴロク)を商品化する等、着実に成果を上げていきました。
 しかし、「障害児」をターゲットとした市場はたいへん小さく、いくらその分野で大成功を収めても、いわゆる企業としての利益を得ることはできず、会社の経営が苦しくなると、「ハンディキャップトイ研究室」の存続は難しくなりました。1986年に起こった急激な円高の痛手は大きく、少ない予算の中でできることはなんだろう、と担当者が考えた結果生まれたのが、「一般市場向けのおもちゃに、障害のある子どもにも楽しめるようなちょっとした配慮を加えてみてはどうだろう」という視点でした。これが、おもちゃ業界における「バリアフリー」の始まりです。
 最初の具体的な配慮は、スイッチのON側に、触れることのできる突起を付ける、というものでした。せっかくの配慮も、メーカーによって、OFF側に突起を付ける等、ばらばらに行われたのでは消費者が混乱してしまう。これに気づいた担当者は、おもちゃ業界のとりまとめをしている「日本玩具協会」に働きかけ、その結果、業界が一体となってこの活動を推進するための「小さな凸実行委員会」が発足し、視覚障害に配慮のあるおもちゃには、メーカーを問わず、そのパッケージに、犬の顔をかたどった「盲導犬マーク」が、また、聴覚障害児に配慮のあるおもちゃには「うさぎマーク」が付くようになりました。
 現在、この委員会は「共遊玩具推進部会」と名称を改め、20数社の参加を得て、年1回の共遊玩具カタログの発行や、業界内外への普及活動に励んでいます。
 玩具メーカーの中で「共遊」のコンセプトを提案する際、まず重要となるのは、コスト面や時間面で開発者の負担にならない、ということです。ライフサイクルの短い商品が多く、安価であることが求められる玩具の分野では、この一見消極的とも思われる姿勢が「共遊」への最高の近道となるようです。
 最近では、JISやISOといった機関で、工業製品をバリアフリー化するためのノウハウが、さまざまな形で標準規格化されるようになりました。トミーもこれに倣って、
・スイッチのON側に付ける突起の位置と寸法
・形状ではON/OFFのわからない「ソフトスイッチ」の状態を音で示す方法
・電池蓋の位置と開け方を触覚記号で表す方法
・電話等のおもちゃのテンキーの[5]には突起を付ける、
等のノウハウを社内規定として文書化し、「共遊」そのものの背景知識や経験のない開発担当者でも、簡単に「共遊玩具」の作り手となれる仕組みを構築し始めています。
 このような配慮は、遊び自体が視覚障害児にとって難しい類のおもちゃにも可能な限り適用し、晴眼児を育てる、視覚障害のあるお父さんやお母さんにとってもやさしいおもちゃとなるように心がけています。また、そこには、未来を担う子どもたちに、突起の付いたスイッチ類や音で状態を知らせる仕組みを「ごくふつう」のものとして見慣れていってほしい、という願いも込められています。
 現在トミーの共遊玩具には、スイッチ類への配慮のほかに、表面に透明な点字/浮き出し文字シールを貼れるようにしたおもちゃ(シールは無料配布)、表示される数字をドレミの音で聞くことのできるレジスター、絵を単純化したレリーフを付けて手にも楽しく配慮したおもちゃ等があります。点字シールについては、最初から付けてしまえばいいのに、という要望も多いのですが、コスト面の問題以外に、そうすることにより、一般市場からは「特別な子向けのおもちゃ」と敬遠されてしまう可能性も否めず、今後への大きな課題となっています。

(たかはしれいこ 株式会社トミー社会環境部共用品推進室)