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北米における権利擁護とサービスの質に関するシステム 連載21

2003年度の利用契約方式における
支援費支給制度の問題点と北米等における
支援費支給の動向について
その2

北野誠一

1 介護保険における介護給付額の設定とその問題点

 私たちは前回、2003年度の障害者に対する支援費支給方式の問題点を見てきた。そこで今回は、まず高齢者の介護保険における介護給付額がどのように設定されたのかを、その問題点を含めて見ておきたいと思う。
 平成8年4月の老人保健福祉審議会に出された参考資料「介護給付額の決定について」によれば、それは以下の定式に基づく。

〔定式1〕在宅サービスの場合

(a)要介護度に基づく区分×(b)要介護度ごとに設定されたサービスモデルに基づくサービスの種類と回数×(c)それぞれのサービスごとに設定された単価

〔定式2〕施設サービスの場合

(a)要介護度に基づく区分×(d)3種類の施設サービスの違いに基づく単価×(e)夜勤体制等職員配置基準及び施設の規模及び地域差等

 私たちはまず〔定式1〕〔定式2〕の根本的な相違を押さえておいて、次に(a)(b)(c)(d)(e)それぞれについて、その問題点を見ておきたいと思う。
 〔定式1:在宅サービス〕から導き出されるのは、基本的に1割の自己負担のもとで、在宅サービスを利用するAさんが最大限利用可能な支援費の総額である。
 一方〔定式2:施設サービス〕から導き出されるのは、それぞれの施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群)サービスに対して、そのサービスを利用するAさんに対して給付される費用そのものである。
 〔定式1〕においては、その要介護度に基づいて、本人が必要なサービスを自分で選択して購入するという現金給付やバウチャー券方式を導入することが可能であるが、〔定式2〕においてはそれは成り立たない。なぜならそもそも3種類の施設サービスの単価が非常に異なっているために、平均的な単価で現金給付やバウチャー券化すれば、選択が困難だからである。いやさらにいえば、そもそも現金給付やバウチャー券方式を用いる際に、まず在宅サービスか施設サービスかを選択して違う給付額を受け取って選択することが望ましいのであろうか。その意味でも施設サービスにおいては、食費や家賃に相当するものを切り離した形での施設サービス単価を出し、さらに医療・看護サービスを切り離して、すべてを要介護度ごとに一本化すべきであろう。
 その際、二つのことを踏まえる必要がある。
 まず、〔定式1:在宅サービス〕に関しては、本人の介護サービスの必要度に応じたきめ細やかな要介護度あるいは支援費の設定が必要である。というのは、〔定式1〕〔定式2〕と違って小規模で職員配置が高いこととサービス給付可能量とはトレードオフの関係にあるからである。その障害者や高齢者の知的もしくは痴呆の状態やコミュニケーションの障害の程度等がきっちりと要介護度や支援費に組み込まれていないと、本人にフィットしたサービスを受ければ受けるほどサービスの絶対量は不足することになってしまう。
 次に、〔定式2:施設サービス〕に関しては、食費や家賃に相当するものを切り離して、それを自己負担とすることの問題をどう考えるかである。基本的には、在宅サービスを受ける人は自ら食費や家賃を負担しているゆえに、施設入所者のみにそれを公的に負担することは公平原則に反しているとも言える。さらにいえば、そのことが日本の福祉サービスを施設サービスに偏重、誘導する結果ともなっている。しかし一方で、高い差額ベッド代を容認することはできない。家賃がさまざまであるように、居室料もさまざまであってもよいという論理も成り立つ。
 しかし、同じ施設や病院の内部に大きな格差を持ち込むことは、そのことによって同じ障害の程度のゆえに、同じ給付を受けながらサービスそのものの格差として現れる可能性を否定できない。また本人から負担を求めるに際しては、本人の生活費の2~3割程度を住宅費と見なして、それを超える部分は、家賃補助制度を設ける等の手立てが必要となろう。
 アメリカのメディケイド(医療扶助)においても在宅サービスと施設サービスの格差は大きな問題となっている。アメリカのナーシングホーム(特養・老健・身障療護を含む要介助者に対する施設サービス)の費用の50%以上をメディケイドは負担しているが、1980年代よりメディケイドウェイバーという在宅サービスの選択肢を認めている州もある。その際、かつてはメディケイドウェイバーを使える人は施設入所者、もしくは絶対的に施設入所を必要とする人という厳格な要件が課せられて、かつ施設サービス費用の3分の2までといった制限が存在したが、現在ではそれらの要件は州によっては徐々に緩和され、居住サービスを選択する人たちが増えている。州によっては条件を緩和することによって、障害の程度は重いが、施設入所という日常生活の制限を希望していない人たちが、一挙に在宅サービスを希望することを恐れているところもある。その意味では、日本の介護保険はさまざまな限界があるとはいえ、家族やインフォーマルな介護状況あるいは本人の日常生活の制限や我慢を重ねるといった地平を超えたことは評価できる。

(a)要介護認定と要介護度の問題

 介護保険における要介護認定の問題は多々あるが、その最大の問題はそれを導き出すにあたって、特別養護老人ホーム等の施設入所者の介護について、1分間タイムスタディー方式を採ったことである。
 そこでは、極めて職員が貧困な日本の施設の常態を反映して、(ア)食事介護、(イ)排せつ介護に比べて、(ウ)入浴介護、(エ)移動支援、(オ)傾聴・見守り・アドバイス支援等の時間が少ない、あるいは無視されており、そのために特に痴呆性高齢者等の支援度が低く切りつめられている。これは介護必要量を示すものではなく、必要度を分ける方式であるといわれても、その方式そのものが介護サービスの必要量の低レベルでの設定の誘因になっていると言わざるを得ない。

(b)要介護認定ごとのモデルサービスに基づくサービスの種類と回数

 実はこれが最大の問題である。
 問題は二つある。ひとつは、どのような障害者の生活像をモデルとして想定するかであり、もうひとつはそのモデルに対して、どのような施設のサービスと回数を組み込むのかである。私たちが問題にしているひとつは、厚生労働省の重度モデル事例に、一人暮らしの高齢者の事例がなかったことである。それを想定すれば、当然必要なサービスの種類と回数は変化し、そのために要介護5の給付限度額は大きくアップしていたと思われる。あるいは要介護度5ではなく要介護度6なり7といった、より重度な介護認定を必要としたかもしれない。実際には、後で述べるように、日本の施設サービスの極めて貧困な職員数に規定された措置費に基づく施設サービス支給額が、在宅サービスの足を引っ張ったというべきであろう。
 次に、私が大阪府下の市町村の障害者長期計画の委員長をしていた時大きな議論となったのが、ホームヘルプ、ガイドヘルプ、デイサービス、ショートステイの数値目標をいかに設定するかであった。大阪府は市町村にマニュアルとして、本人の障害の程度と生活パターンと介護支援の状況をそれぞれ3段階に分けて27パターンを想定し、それぞれに身体障害・知的障害のモデルケースを想定して、サービスの種類と回数を出してきたのである。どの程度の利用者数を想定するのかはここでは省略して、問題はこのパターンの分け方とモデルケースの想定が問題となったわけである。
 たとえば大阪府が重度で日中活動をしている一人暮らしの障害者のモデルケースを、寝返り介護等を必要としない肢体障害者としたのに対して、豊中市においては、自立生活をする寝返り介護等を必要とする重度の障害者を想定したために、夜間を含めたサービス回数が大きく違って、そのために支援費に大きな開きがでてきたのである。
 支援費については、それが一定の基準を必要とすることは公費を投入するために当然であるが、モデルケースとモデルサービスの組み合わせを間違えると、介護保険のように重い障害をもつ人は自立生活ができないことになってしまう。重い障害をもつ自立生活をする人のモデルサービスを想定すれば、支援費はかなりの段階を必要とする。あるいは一定の段階にプラス自立生活者の生活像に見合った給付の仕組みが必要となろう。

(c)サービスごとの単価

 サービスごとの単価はある意味で明確である。そのサービスを事業として展開するにあたって必要なコストを上回っていればよいことになる。たとえば介護保険のサービス単価を見れば、6時間のデイサービスの単価と2時間の介護型ホームヘルプの単価がほぼ等しいことを私たちは知っている。要はマンツーマンのホームヘルプに対して、複数利用者にサービスが可能なデイサービスということなのであろうが、どのようなサービス内容が想定されているのかであろうか。特別養護老人ホームの職員配置は職員1対利用者4から職員1対利用者3まで想定されているが、それについても一体どのようなサービス内容を想定しているのであろうか。
 実はアメリカでも、この職員の質量とサービスの質の関係に基づく支援費支給が最も大きな問題となっている。たとえばナーシングホームで人権侵害が多発したカリフォルニア州においては、有名な全国高齢者法律協会(NSCLC)とグレイパンサーカリフォルニア(GPC)などが、『カリフォルニア州のナーシングホームの職員配置レベルの増加の必要性』(注1)(2001)という注目すべきデータを出している。それによれば、じょくそう・栄養不足・体重の低下・不潔等と職員の質量との相関関係が明らかにされているだけでなく、どの程度以下であれば人権侵害が起こり、どの程度以上であれば人権侵害を引き起こす可能性がなくなるかが明らかにされている。
 たとえば、カリフォルニア州の現行法における最低直接ケアスタッフは、利用者1人に対して3.2時間であるが、人権侵害を起こさないためには4.4時間に引き上げるべきだとされている。この利用者1人に対して3.2時間および4.4時間を日本の職員対利用者比率になおすと、1対1.8と1対1.3となる。1対4から1対3をめざしている日本より、一見問題が多発しているように見えるカリフォルニア州のナーシングホームには、日本の2倍以上の職員がいることになる。問題が多発しているように見える原因のひとつは、その問題をインターネット等で全面的に情報開示していることおよび、アメリカでは少しでも事故等があれば裁判となって陽の目を見ることによるものと思われる。
 もう少しアメリカのナーシングホームに対する支援費を見ておこう。実際にはナーシングホームに対する支援費は州ごとに、それもメディケア(高齢者医療保険)とメディケイドで異なる。また州によって、支援費の算出方式も異なっており、一般に施設の種類と規模、利用者の要介助の程度(ケアミックス)、地域格差(人件費格差)等が考慮されている(注2)。
 1997年のデータでは、メディケアによる支援費は、1日236ドルから197ドルまで(平均217ドル)、メディケイドによる支援費は1日119ドルから89ドルまで(平均98ドル)の格差がある。個人契約でナーシングホームに入った場合には、全日ケアの必要な場合は176ドルから113ドルまで(平均136ドル)、1日8時間までのケアの場合は153ドルから93ドル(平均107ドル)である。つまりは、メディケアの場合は、ナーシングホームの費用を満たすが、それは100日間までで、個人契約の人がやがて資産を無くして、メディケイドに切り替えれば、施設から追い立てを受けるケースが大いにあり得ることをそれは示している。
 さて日本の場合には、施設の単価の低さが在宅サービスの総額の低さを招いていると前に述べたが、全体的な単価の低さが、結局は人件費の低下を招き、それが福祉職員の質と量の低下を招くのは、火を見るよりも明らかである。
 さらに単価の問題においては、障害者の介助に関して存在するホームヘルプ事業の単価と全身性障害者介護人派遣事業の単価の大きな違いの問題があるが、そのことについてはまた次の機会に述べたいと思う。

2 アメリカの支援費支給方式の施設中心から地域中心へのシフトについて

 次にアメリカで現在起こっている支援費支給方式の施設から地域(在宅)へのシフトについて少し触れておきたいと思う。日本の介護保険においてはこの戦略はこれからだと思われる。
 日本では施設サービスばかりが計画通りあるいは計画以上で、一方在宅サービスのほうは軒並み低い利用率に止まっている。1割という利用負担の問題や各介護度ごとの上限の問題以上に大きな問題は、政策誘導、つまりどのような方向に全体施策を向けようとしているかである。高齢者が今後団塊の世代、ベビーブーマーの世代にシフトするにつれて、自己決定・自己選択に基づく“the Most Integrated Setting”(もっとも統合された環境)で暮らすことを求めることは明らかである。その方向性に沿った政策誘導策が求められる。政策誘導の影響力は施設サービス給付の決定の土壇場で、療養型病床群の単価を下げたことによる一般病室等から療養型病床群への変換率の低さを見ても明らかである。
 アメリカのやり方を見てみよう。

1.身体障害者および高齢者の場合

 身体障害者療護施設兼特別養護老人ホーム(老人保健施設)であるナーシングホームからいかに在宅ホームケアシステムに政策を誘導するかが最大の課題である。実はこのことはあまり知られていないが、アメリカではナーシングホームから在宅へという傾向が出現しつつある。[表1]を見れば分かるように、ナーシングホームは1990年代には200万ベッドを優に超えると予想されていたにもかかわらず、180万台に止まっており、要介護高齢者の増加を考えれば着実に減少しつつあり、しかも利用率も90%台から80%台に低下している。
 その理由の第一は、多くの州のプログラムにおいてメディケイドウェイバーを用いて施設入所ではなく、在宅サービスをかなり自由に選択できるようになったからである。さらにメディケアにおいても、メディケイド同様に厳格な要件を緩和したために、在宅サービスが利用しやすくなったことも大きい(これは一旦修正されたが、緩和の方向に再修正がなされようとしている)。ちなみに在宅サービス利用者は、1992年の155万人から1994年には160万人と増加し、ナーシングホーム利用者を超えて逆転現象を起こしている。ナーシングホームの支援費が前に見たように月35万円から90万円ということになれば、それを超えない範囲で在宅ケアサービスに利用できるメディケイドウェイバーやメディケアの仕組みは、大きな政策誘導だと言えよう。さらに[表1]にもあるように、医師・看護婦・PT・OT・介助員等の直接ケア職員が年々充実してきており、そのことが施設サービス利用者の状態の安定や改善に寄与していると思われる。1997年のナーシングホーム退所の理由を見れば、(1)病院へ28%、(2)死亡27%、(3)病状安定19%、(4)症状改善10%、(5)他のナーシングホームへ8%となっており、死亡や病院行きのみならず、30%近くの人が地域生活に移行していることが分かる。

【表1】アメリカのナーシングホームの変遷(注3)

ナーシングホームの数 ベッド数 アメリカの65歳以上の人口 65歳以上1000人当たりのベッド数 ベッド利用率 利用者100人当たりの直接支援職員数
1960 9600 32万        
1973 15700 118万 2133万 55 91% 41人
1977 18900 140万 2359万 60 92% 46人
1985 19100 162万 2853万 57 92% 49人
1995 16700 177万 3364万 53 87% 53人
1997 17000 182万 3410万 53 88% 58人

 もちろんメディケイドウェイバーはいい点ばかりではない。メディケイドの要件は当然医療扶助であるゆえに、医療の必要性を基本としており、医療のケアや医療専門職によるスーパービジョンが不可欠となる。州は単独予算で在宅ケアサービスを実施するのではなく、メディケイドを使うことによって約50%の連邦補助金がほしいわけだが、医療モデルではなく自立生活支援モデルで障害当事者による自選ヘルパーを中心とする在宅ケアを進めてきたカリフォルニア州のようなところでは、この選択はマイナス面もでてくることになる(この点についてはまた他のところで詳しく述べたいと思う)。

2.知的障害者(発達障害者)の場合

 知的障害者の場合には、この施設入所から地域支援という流れは、身体障害者や高齢者よりも、より鮮明である。この知的障害者の地域移行や地域支援を強力にバックアップして政策誘導しているのが、アメリカの司法の持つ権力である。アメリカでは立法府によって作られた法律の下で行政施策が実施されるだけでなく、裁判の結果、判例に基づいて立法化がなされ、行政府がそれに従うという政策誘導が大きな力を持っている。日本では司法権限が立法権限や行政権限に及ぶことは非常に稀である(今回のハンセン病裁判による立法不作為の判決はその意味でも金字塔である。ハンセン病者の隔離が許し難い人権侵害であるならば、障害者への施設や病院での隔離もまた立法不作為による人権侵害そのものではないか)。
 アメリカではエリジビリティー(厳格な受給要件)とエンタイトルメント(資格取得)とのせめぎ合いが選挙と裁判の両方を通して行われる。裁判の結果、そのプログラムに予算が投入されることがアメリカでは頻繁に起こる。例えば、カリフォルニア州のコッフェルト裁判はその一例である(連載第6回1999年8月号参照)。その結果3000人近い知的障害者に地域生活移行支援の予算が投入されているのである。さらに1999年のADAの施行規則に基づくオルムステッド判決(連載第12回2000年5月号参照)とそれに基づく連邦保健社会サービス省の通達は、メディケイドによる知的障害者の中間的ケア施設のグループホーム化や、メディケイドウェイバーを使って地域での自立生活を押し進める方向で力強く展開しつつある。
 ちなみに昨年の12月にハワイ州オアフ島で開かれた自立生活国際サミットに参加した際、知的障害者連盟(ARC)のハワイ支部のケースマネジャーからの情報によれば、ハワイ州の場合にはメディケイドによる知的障害者の中間的ケア施設(ICF-MR)はすべて4~5人のグループホームで、一人当たり月6000ドルプラス個々人の医療的ニーズに基づく支援費が出ているということであった。その支援費(日本円で約80万円)はグループホームとデイプログラムの費用を含んでおり、それ程高いとは言えないが、それでも日本の現状をはるかに越えている。一方、医療的ケアのほとんどいらない人は、グループホームではなく、アパート等で支援付自立生活をすることも可能だが、その場合には一人月5000ドルまでの支援費ということであった。ケアの必要量の違い等もあるようで一概には言えないが、グループホームから支援付自立生活という流れは、ハワイ州のようなそれ程進歩的ではないところでも着実に進みつつあることが実感できた。
 次回はさらにカリフォルニア州の知的障害者の支援費の決定方式について見てみたいと思う。

(きたのせいいち 桃山学院大学)

(注1)Eric Carlson“The Need For Increased Staffing Levels In California’s Nursing Facilities”(NSCLC 2001)
(注2)・(注3)Advance Date 280. 289. 311. (National Health Statistics. DHHS 1997.2000)およびImproving the Quality of Long Term Care(Institute of Medicine 2001)等を参照した。