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ほんの森

この子らを世の光に
糸賀一雄の思想と生涯

京極高宣 著

評者 飯田雅子

 みなさんは「この子らを世の光に」というフレーズを聞き、「この子ら」とはだれのことを指しているか、ご存知ですか。「この子ら」とは知的障害のある子たちのことです。このフレーズは、故糸賀一雄氏の著書(1965年11月刊行)の題名です。当時の知的障害のある人への一般的認識は、とても低く蔑視さえあり、社会の片隅に追いやっていたといってもよいでしょう。施設現場で指導員として6年が経過した私は、この本を読み、子どもたちの行動と重ねながら、深いところで共感し、こころが揺さぶられ、思想に基づいた心の使い方を学びました。障害をも包含した人としての尊厳を踏まえ、子どもたち一人ひとりが自己実現していくことに関与する指導員としての重責を自覚しました。
 この「この子らを世の光に」というフレーズは、社会に対する人への観方・価値観への問いでもあり、人と出会う者は、熱いこころが必要なのです。時代が変わり施策が進んだとしても、福祉の基はここからなのです。
 21世紀が幕開けした今日、日本の福祉推進のリーダーである京極高宣氏(日本社会事業大学学長)が時宜書『糸賀一雄の思想と生涯』をまとめられました。氏は、本書まえがきで「21世紀の「福祉社会へのテイクオフ」を図るには、わが国の20世紀後半の最大の福祉思想家といえる糸賀一雄の思想的遺産を改めて学び返さなければならないと考えている」と書かれています。まさに、福祉の本質がどこにあるのかを明確にして、21世紀を歩むことの重要性を感じられたからです。
 内容は、第一部「福祉改革と糸賀一雄」、第二部「糸賀一雄の福祉思想」からなっています。全般を通して強く感ずるところは、糸賀氏の没後33年を経る今日であっても、随所に21世紀の福祉のあり方と重なる提言が認められることです。特に、第一部第三章「糸賀思想の今日的意義」─サービスの質の評価・地域とのつながり・ビジネス感覚・それらの根底にある思想─、第四章「21世紀への糸賀思想のメッセージ」は、そのまま現在と重なるものです。また、第二部第三章「糸賀一雄における福祉の思想」は、福祉現場で出会うさまざまに対してのあり方の根底を学ばせるものです。そして、終章「糸賀の思想的遺産」では、京極氏の21世紀の福祉のあり方への表明も含め、福祉の主体者・支援の的確性・支援者のあり方が示されています。そして「光」の意味するところが説かれ、すっと心に入ります。
 私は、あらためて福祉のあり方を確認することができました。ノーマライゼーションの実現には、各人の人間としての成熟が必要です。読み終えて、そのための力を得たようです。

(いいだまさこ 弘済学園園長)