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1000字提言

ほんね

廉田俊二

 先日、ある雑誌に、私はエレベーターのない駅で、駅員さんに手伝ってもらって階段を上げてもらっても「ありがとう」とお礼の言葉を言いません。私が迷惑をかけているのではなく、迷惑をかけられているのだ。「いつも迷惑をかけてすみません」と駅員さんのほうから言ってきた時には、その時にはお礼を言おうかな、というような内容の原稿を書いた。この文章がきっかけになって、インターネットの掲示板で私がやり玉に挙げられることになった。
 手伝ってもらったらお礼を言うのは人間として当たり前のこと、こんな常識のない障害者がいるから障害者全体が悪く見られる。こいつは障害者になって屈折したんだよ、障害者だからといって、いじけるな。こんなバカはほっとけ。という調子で私への批判が始まり、それがどんどんエスカレートしていき、こいつの顔はこんな顔と、どこで入手したのか私の写真が登場した。そして、街でこの顔を見かけたら殺(や)ってしまいなさい、とのコメント。ここまでは私のことを、ボロカスに言っていただけなのだが、今度は障害者全体への批判に変わっていく。
 結局、障害者のやつらは甘ったれてんだよ。おまえらに電車に乗る権利なんてないんだ。税金払え! 税金を払ってから一人前の口をきけ。障害者は社会のお荷物なんだよ。はっきり言ってやろうか、おまえらは死んだほうが世の中のため。健常者=正常、障害者=不良品、ってな具合いに好き勝手に言いたい放題。
 最後には、この常識のない障害者は、きっと日本じゃないぞ、おそらくキムチのにおいのするお国の人にちがいない、と別の差別へ発展する。

 インターネット上での掲示板では顔も見えないし、名前も名のらないから調子にのって、こんなやりとりが延々と続いていく。面と向かっては絶対に言えないような、差別と憎しみのこもった発言が、この時とばかりに、繰り返される。
 顔も名前も明かさないだけに、なんの責任も問われないだけに、これこそが「ほんね」なのでしょう。まだまだ障害者は社会の一員として認知されていないようだ。

(かどたしゅんじ メインストリーム協会)