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北米における権利擁護とサービスの質に関するシステム 連載22

2003年度の利用契約方式における
支援費支給制度の問題点と
北米等における支援費支給の動向について
その3

北野誠一

1 カリフォルニア州の知的障害者に対する支援費の決定方式について

 私たちはこれまで日本とアメリカの支援費支給の概要とその問題点について見てきた。そこで、今回はもう少し詳しく、カリフォルニア州の知的障害者に対する支援費の決定方式について見ておきたいと思う。
 本連載7でも報告したように、私は何度かカリフォルニア州に調査研究で滞在したが、この州の知的障害者の地域生活支援システムは、システムとして実に興味深いものであった。
 理由は三つある。ひとつは1968年には1万3355人いた州立入所施設(DC)の入所者が、2001年には3740人に減少しているという事実である。それを生み出したのが、1977年に制定されたランターマン法であり、さらにコッヘルト裁判に基づく1993年の協定書付の裁判和解であった。
 2番目に挙げるべきは、1985年のカリフォルニア障害者市民連合(ARC─Cal)と州発達障害局(DDS)の裁判の州最高裁判決において、本人自立生活支援計画(IPP)で規定されたサービスは、エンタイトルメント(サービス受給権)を有するとされたことである。アメリカの他の州において、知的障害者の地域自立生活支援のための計画に基づくサービスが、エンタイトルメントを有するところはない。それは実に画期的なことであるとともに、カリフォルニア州において知的障害者関連予算のみが着実に増え続けている理由のひとつである。
 3番目の理由は、このIPPが1993年のランターマン法改正によって、まさに本人中心の自立生活支援計画(PC─IPP)となったことである。連載7で見たように、専門家中心ではなく、本人中心の地域生活支援の権利が保障されたわけである。
 このように、カリフォルニア州の法律に基づく権利と本人を支援するシステムとしての地域センター(RC)や権利援護・擁護機関(PAI)等は、本連載5、6で見たようにすばらしいのだが、地域の自立生活に必要な予算措置や支援費支給方式はそれ程簡単ではなく、特に実際にどれ程の支援費がグループホームや地域生活施設で生活する障害者に下りているのかが見えにくい。幸いなことに故定藤丈弘先生が1997年にそのことを粘り強く調査され、本誌の1997年5月号でその報告をされているので、今回はそれを活用させていただくことにしたいと思う。

2 カリフォルニア州の発達障害者(主に知的障害者)支援の全体像

 図1はカリフォルニア州の発達障害者(主に知的障害者)支援の全体像を図示したものである。州の知的障害者の予算決定と支援費支給決定に主に関与しているのは、図の1、2、3の三つの機関であるゆえに、それぞれの役割についてまず見ておきたいと思う。

図1 カリフォルニア州の発達障害者(知的障害者)支援の全体像

図1 カリフォルニア州の発達障害者(知的障害者)支援の全体像

1.発達障害委員会(SCDD)

 SCDDは、連邦法「改正発達障害者支援及び権利法(1994)」および州ランターマン法に規定された委員会である。
 ちなみにランターマン法4520条では「発達障害者に対するサービスは州の予算の一定の割合を占めるが、何百という州及び地方の公立及び民間の機関がそのサービスを行っており、発達障害者の諸権利やサービスはしばしば無視されがちであり、障害者の権利を確かにするために州の諸社会資源の全体的なプランとコーディネーションを行う効果的な方法を欠いているゆえに、そのことを行う機関としてSCDDを創造する」と表現している。
 このSCDDは、州に13か所ある発達障害者の権利擁護機関であるエリアボード(AB)からさまざまな意見を受けつつ、州の発達障害者計画(State Plan)を作成するとともに、それがきちんと実行されているかどうかをモニタリングする機関である。問題はこの州の発達障害者計画である。2000年の連邦法改正で3年計画が5年計画に変わり、現在、DRAFT2002─2006 State Plan Online Versionがパブリックオピニオンを求めている最中である。
 この発達障害者計画が州の予算にどれくらい影響を与えているのか明言はできないが、それが各州から集められた連邦の全体としてのプランとなって連邦政府予算に与える影響が大きいのみならず、一定の数値目標が明記されており、それについてモニタリングが行われるだけでなく、それが州の議員の作成する予算関連法案に与える影響も極めて大きいと言える。ちなみに、SCDDは委員の過半数(19人中10人)が障害者本人と家族・法定代理人であり、4人が本人自身であり、文字通り当事者主導のシステムである。

2.発達障害局(DDS)

 DDSは知的障害者支援に関する要となっている行政機関である。問題は、次のRCがこの発達障害局とのみ委任契約を結んでいることである。知的障害者等が利用するサービスは教育であれ、住宅であれ、就労であれ、医療であれ、発達障害局以外の局のサービスを利用することになる。残念ながらRCがそれらすべての局の委任のもとに、障害者本人に必要なすべてのサービスをコーディネーションするしくみとしては機能しきれていない。さらにいえば地域生活支援におけるマネジメントは、グループホーム、移動サービス、成人デイサービス、レスパイトサービス等は発達障害局でマネジメントできるが、教育・住宅・就労・医療等全体のマネジメントはできないということになる。そのこともあって、SCDDの”System Review Policy Initiative”(2000)はRCが全体の局のサービスの総合窓口になることを勧告している。それは何も予算の上限を決めることによって、各サービスをキャッピングしようと意図したものでなく、利用者がいちいち同じようなアセスメントを受け、同じような説明を繰り返すことを避けるためであるとともに、そのことによる時間と経費のロスを防ぐためである。
 問題は予算である。2000─2001Budget Summary Highlights(2000年1月)、2000─2001 California State Budget Highlights(2000年8月)等によれば、カリフォルニア州の発達障害者予算は22億ドルから25億ドルと、16%も増えている。内訳を見ると、
 (1)州立入所施設が1999年度予算5.6億ドルから、2000年度予算6.4億ドルとなっている。それは利用者が3853人から3844人に減る一方、職員が8169人から8886人に増えたからであるとともに、アメリカの景気および物価の上昇のために賃金ベースが上がったからである。この職員の増加は、州法による州立施設の処遇改善計画に基づくものである。ここで単純に、利用者一人当たりの州立施設の月々の支援費を計算すれば、1999年度1万2100ドル、2000年度1万3970ドルである。1ドル125円で計算すると月150万と170万である。
 (2)次に地域サービスを見れば、1999年度16.1億ドル、2000年度18.8億ドルであり、利用者数は15万3600人から16万2970人に増えている。一人当たりの1か月単純平均支援費(ここには教育・就労・医療等は含まれていない)は、1997年度873ドル、2000年度961ドル、1ドル125円で計算すると月11万と12万である。
 これをどう考えればよいのであろうか。一方で、入所施設の支援費が月150万から175万へと驚くべき額で上昇しており、他方で地域生活の支援費は、利用者の増大のせいもあって月11万から12万とわずかに上昇している程度である。
 では、ここでもう少し地域生活の支援費を細かく見ておきたいと思う。

3.地域センター(RC)

 RCは図1にもあるように、ケースマネジャー(サービスコーディネーター)を通じて障害者本人とRCがIPP契約を交わし、本人の希望と目標に基づいて必要な支援サービスをコーディネイトするところである。
 では、それぞれのサービスはどのようにしてその支援費が設定されるのであろうか。
 その基本は、ランターマン法の施行規則である17巻2編保健福祉省発達障害局の第3部地域サービスの第4章居住サービスと質保障規則(注1)、第6章居住サービスの支援費設定手続き、第8章地域デイプログラムの支援費設定手続き、第9章地域デイプログラムの支援費設定方式等で説明されている。
 そこで次に、グループホームを主とする地域居住施設と地域デイプログラムについて、その支援費設定方式を見てみよう。

3 グループホーム等の支援費設定方式について

 施行規則2編3部4章および6章によれば、支援費は次の五つのファクターに基づいて決定される。
(a)基本的ニーズ(Basic Living Needs)
 これは毎年の物価等を踏まえた住居費、食費等の一般的な生活費に家事援助の費用を加えたものである。そのグループホーム等の規模や立地条件によって当然それは変動する。
(b)直接支援(Direct Supervision)
 これは、セルフケア・日常生活技術・移動・自己決定・レジャー活動への参加等の分野での本人の機能を高めることを支援する直接ケアスタッフによる介助やアドバイス、トレーニング等の支援のことである。その必要レベルは本人のIPPに基づいて決定される。
(c)特別支援(Special Services)
 これは(b)と同様に、本人のIPPに基づいて提供される特別な支援である。そこには歯科等の医療や治療教育的プログラム等が含まれる。
(d)間接的費用(Indirect Costs)
 これは運営費用、建物の維持・管理、職員の年金や税金・保険等を含む費用である。
(e)原価償却(Deprication of Mandated Capital Improvement and Equipment)
 これは認可要件(注2)に基づく建物や設備費に対する原価償却の費用である。
 カリフォルニア州では、この五つのファクターに基づいてグループホーム等のサービスレベルを、レベル1、2、3、4に分け、さらに4をAからIまで細分化している。つまりはグループホームを利用者の支援の必要度に応じて12段階に分類している。
 [レベル1]は、ほぼ自分で日常生活が可能で、かつ特別な支援を必要としない人たちに対する居住サービス、[レベル2]はある程度の生活能力を持ち、かつ特別な支援を必要としないが、若干の直接支援を必要とする人たちに対する居住サービス、[レベル3]は、生活管理や日常生活動作に一定の直接支援を必要とするか、あるいは自傷、他傷等の行動上の問題で特別な支援等を必要とする人たちに対する居住サービス、[レベル4]は、生活管理や日常生活動作に多くの直接支援を必要とするか、あるいは自傷、他傷等の行動上の問題が深刻なために、特別な支援等を必要とする人たちに対する居住サービスである。
 このサービスレベルに基づいて、必要な直接支援スタッフの数が異なってくる。レベル2では1人の直接支援スタッフに対して6人までの利用者、レベル3、4A、4Bでは1人の直接支援スタッフに対して3人までの利用者、レベル4C、4D、4Eでは1人の直接支援スタッフに対して2人までの利用者、レベル4F、4G、4H、4Iでは1対1の対応が、施行規則の最低基準となっている。そして、それぞれのレベルのグループホームにおいて利用者が増えるごとに、一人ひとりに対する直接支援職員による支援時間が週単位で決められている(その一覧表については、本誌1997年11月の定藤論文を参照のこと)。
 つまり、それぞれのサービスレベルのグループホームは、利用者一人ひとりのIPPに基づく(b)直接支援サービスと(c)特別支援サービスに必要な職員配置をベースとして、それに(a)基本的生活ニーズ、(d)間接的費用、(e)減価償却費を加えた形で、RCとグループホームとの間でサービス購入契約(Purchase of Service Contract POSC)がなされることになる。
 ちなみに定藤先生の調査によれば、1996年当時、レベル2のグループホームでは利用者1人月1170ドルの支援費、レベル3では月1472ドルの支援費であり、レベル4では月3924ドルから7154ドルまでの支援費であった。
 ここまで見れば、カリフォルニア州のグループホームの支援費のあり方のメリット・デメリットが明らかとなる。
 その最大のメリットは、利用者一人ひとりのサービスの必要性に基づいた支援費が明確にされていることである。それはサービスレベルが1から4のAからIまで12段階に分けられ、その支援費も1170ドルから7154ドルまで、日本円にすれば月15万から90万まで非常に幅広くなっているという点である。これは何度も説明しているように、カリフォルニア州のようなIPPに基づいてケアマネジメント機関が責任を持ってサービスを購入する(POS)システムにおいては、本人の支援の必要度に応じた支援費が組まれていなければ、質の高いサービス提供者とは契約できないからである。無理に安くて悪いサービスを購入すれば、職員不足等による拘禁・拘束や薬漬けといった人権侵害が間違いなく待ち受けていることになる。
 一方、カリフォルニア州のこの方式の問題は、グループホームごとにサービスレベルを決めてしまったために、基本的に同じ障害程度やサービス利用程度の人が同じグループホームで固定化してしまうという問題である。運営する側はそのほうが職員配置も含めて運営しやすいであろうが、利用者のほうははたしてどうであろうか。
 ノーマライゼーションの理念に反するだけでなく、地域のニーズとも矛盾する場合も生まれてこよう。次回に見るカナダのブリティッシュ・コロンビア州のグループホームの方式はカリフォルニア州と異なっており、その結果、さまざまな障害の程度やサービス利用程度の人が同じグループホームで暮らすことが可能となっている。

4 デイプログラム等における支援費支給方式について

 デイプログラム等については、施行規則17巻2編第3部第5章第3節成人デイプログラムの加配基準の56756条『職員配置』において、さまざまなニーズに応じた職員配置基準が概説されている。
 地域センター機関連合(ARCA)が2001年2月に出した『地域センター予算、特にサービス購入予算について』(Regional Center Budget Issues : Purchase of Service Budget)によれば、本人の選択権を認めた現在のIPPの下では、かつてのような集団的処遇は困難で、一人ひとりに見合った支援が必要となり、そのために支援費が大幅に増えていることを報告している。
 たとえばデイプログラムを見れば、1980年までは障害者だけが集められた環境においては職員1対利用者8が平均的で、その費用も1月18ドルから22ドルといったものであった。だが現在では、それは1対8の集団的処遇から、1対1の個別支援まで、さまざまな選択肢を必要としており、1対4が平均的で、その費用も1日50ドルとなっており、特に支援を必要とする1対1の場合には、1日143ドルの支援費が必要となる。
 また、自閉的な傾向の子どもたちがこの8年間で2倍以上に増えており、就学前の自閉的傾向の子どもたちの日中プログラムは、年間6万ドルの支援費を必要としているとのことである。

(きたのせいいち 桃山学院大学)

(注1)ランターマン法およびその施行規則である第17巻の第2編第3部4章等については、定藤福祉記念研究会からの翻訳が、明石書店からまもなく出版の予定である。
(注2)カリフォルニア州のグループホームの認可要件等については、施行規則第22巻で記述されているが、それについては大川信夫訳編『アメリカのグループホームの目標と運営の手引き』(大揚社 1995年)を参照されたい。