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ハイテクばんざい!

車いすの新しい流れ

田中理

1 進化する車いす

 最近の車いすの進歩には目覚しいものがあります。その特徴は何と言っても機能の多様化と高度化、デザインの進化です。これらの進歩は、「座る」「動く」「乗り移る」といった車いすの基本機能の向上だけでなく、「快適さ」という質的変化を車いすにもたらしています。ロボット技術を導入した電動車いすや、手動車いすを電動化するための簡易電動装置、駆動・推進力(人力)を電動装置で増大する電動パワーアシスト装置など、ハイテクを駆使した新しい車いすが生み出されてきました。車いすの新しい流れといくつかの最新の車いすを紹介します。

2 個別ニーズへの高度な適合

 車いすは、手動車いすも電動車いすも、座って使用する「生活」用具です。特に自分の足として車いすを使う人にとって、車いすは単なる移動用具ではなく、身に着けて使う車輪付き装具と呼ぶべきものです。車いすを身に着ける基本は、活動しやすい座位姿勢をいかにつくるかということです。車いすでの座り方を調整できる身体支持部や、車いすの動かし方を調整できる駆動・制動部をもつ車いすがたくさん生まれてきました。
 手動車いすでは、調整機能付きモジュラー車いすと呼ばれる車いすが主流になりつつあります。軽量でデザインがよく、シートとバックレストの張り調整と体圧分散性に優れたクッションの組み合わせで身体全体を適切に支持し、こぎやすい位置に車輪が取り付けられるなどの優れた特徴をもっています。簡易電動装置をモジュラー車いすやオーダーメイドで作った車いすフレームに組み込むと、個別ニーズとの適合性の高い簡易電動車いすにすることができます。特に、車輪の中に電動装置を組み入れた方式の簡易電動装置は、車輪を交換するだけで手動車いすを電動化できるので、利用者の多様なニーズに合わせた簡易電動車いすを作ることができます。
 身体支持部を利用者個別に合わせられる機能は、手動・電動を問わず、車いすに共通に求められるものです。電動車いすは駆動・制動装置や制御装置、バッテリー電源を組み込む関係で身体支持部を個別に調整することが苦手でしたが、最近では電動装置部と身体支持部を独立分化して構成するユニット化の考え方(車輪と電動装置を一体化したパワーベースの上にモジュラー化した身体支持ユニットを搭載するという考え方)が採用され、高い身体支持性が得られるものが生まれてきました。

3 ハイテクによる快適さの追求

 自らの分身として車いすを利用する人にとって、車いすは生活におけるすべての活動の基盤となるものです。駆け足が必要なときは駆け足に見合った機敏さと速度が出せる、デスクワークをするときは巧妙に机に接近できる、休息したいときは姿勢を崩さずに座位を変換できる、急な坂や段差も安定して走行できる等々、利用者の要求に快適さをもって応えられる車いすが今後強く求められるようになるでしょう。すでにその芽は着実に育ってきています。

1.手動操作を一新するパワーアシスト

 手動車いすで屋外のやや長めの距離を走るときや坂道の上り下りをするときなど、結構パワフルな人でもしんどいと感じるものです。車いすをちょっとこいだら、車いすがビューンと進んでくれる。パワーアシストは利用者のこんな願いを実現する装置です。ハンドリムに加えられた力を検知し、それに見合った力を電動で補助して加えてくれます。制動にも働いてくれますので、下り坂も小さな力でスピードを殺すことができます。JWⅡというパワーアシスト装置は、簡易電動装置と同様に車輪の中に組み込まれていますので、車輪を交換するだけで車いすに付けることができます。最近ではパワーアシスト機能の付いた介助用車いすも商品化されるようになりました。

2.コンピュータ制御の電動車いす

 ジョイスティックの動きにしたがって滑らかに、しかもシャープに電動車いすが動いてほしい。利用者のこんな願いを実現するのがコンピュータ制御の電動車いすです。エミューというコンピュータ制御の電動車いすは、サーボモーターによるダイレクトドライブ方式の駆動・制動装置を車輪の中に組み込んだ、いわば車輪そのものをモーター化した電動車いすで、車輪の回転数を常に検知しながらジョイスティックからの指令を判断し、電動車いすを自動的に制御する機能を備えています。片流れ斜面もジョイスティック操作で修正することなく、自動的にまっすぐ走行します。速度感や加速感など場面に応じて使い分けたい項目をあらかじめ設定しておき、モードとして記憶させておくことができます。

3.簡単に分解して車で運べる電動車いす

 電動車いすを簡単に分解して車のトランクに入れ、外出先で使いたい。利用者のこんな願いを実現した電動車いすがあります。ネオピーという電動車いすは、駆動輪・補助輪、駆動・制動装置、バッテリー電源が一体化された電動ユニットに、キャスターの付いた車いすフレームが簡単に着脱できる構造をもつ電動車いすです。車いすフレーム(約10kg)はコンパクトに折りたたむことができ、電動ユニット(約18kg)ともども車のトランクに楽に入れることができます。6輪型の電動車いすで、高い小回り性を発揮します。

4.ロボットのような車輪付き移動装置

 電動車いすというより、ロボットとでもいうような新しい移動装置の開発が行われています。インディペンデンス TM 3000 IBOT TM トランスポーターと名付けられたその装置は、二つの駆動輪を一つのアームに連結したクラスターと呼ばれる駆動装置を左右に配置した車輪付き移動装置です。クラスターの後輪と前輪キャスターで走行するスタンダードモード以外は、前輪キャスターを浮かしてクラスターだけで走行します。クラスターの前後2輪(左右で4輪)で走行する4輪モード、クラスターの後輪だけ(左右2輪)で立ち上がって走行するバランスモード、クラスター全体を動かして階段を昇降する階段モードを使い分け、急坂、段差、悪路、階段などを走破することができます。クラスター使用時はジャイロセンサーとコンピュータで重心の位置を検知しつづけ、座席を常に水平に保ちます。座席昇降機能が付加され、バランスモードでは立っている人と同じ目線の高さまで上がります。電動車いすを超えた車輪付き移動ロボットと呼ぶべき新しい移動装置です。

(たなかおさむ 横浜市総合リハビリテーションセンター)