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障害者観の正常化を確認

安藤豊喜

1 欠格条項改正への期待

 財団法人全日本ろうあ連盟は、欠格条項改正のための取り組みを「聴覚障害者を差別する法令の改正を目指す全国運動」と位置付け、難聴者、手話、要約筆記関係団体、親の会、ろう学校PTA連合会など、9団体で中央対策本部を立ち上げるとともに、全国47都道府県にも上記団体の下部組織による地方対策本部を設置し、国民に対する啓発的な署名、カンパの取り組みと地方議会への改正意見書採択請願を行い、署名223万6198人、カンパ7015万7827円の支援を受け、地方議会請願では1030議会(46都道府県、359市区、515町、110村)が改正意見書を採択するという実績を上げました。
 この運動は、聴覚障害者に対する法的な差別を根絶させたいとの願いを持った聴覚障害者と親、手話、要約筆記関係者などの全力をあげた運動でありました。私どもが欠格条項をなぜ「聴覚障害者を差別する法令」と言うのかと申しますと、欠格条項のほとんどが「耳が聞こえない者、口がきけない者」を絶対的欠格事由としていることと、「ものを言えず、聞けない障害」に対する偏見や予断による法律であるとの認識によるものです。

2 改正内容に対する評価

 まず、絶対的欠格事由から相対的欠格事由への改正が評価されます。この評価には異論もあると思いますが、絶対的欠格事由で個々の聴覚障害者の人間的な能力への配慮もなく、一律に絶対的欠格事由扱いをされてきた聴覚障害者にとって大きな前進と言えるものです。
 次に、従来の法律は、一線横並びで聴覚障害者を法律の冒頭で排除する項目を入れていました。それが改正で、法律ごとに「業務の本質的部分の遂行に必要不可欠な身体的又は精神的な機能」が明確にされたことです。
 聴覚障害が欠格事由とされる基本的な理由は、「情報、コミュニケーションの障害」にあります。以前の厚生省との改正要望交渉での経過を紹介しますと、薬剤師資格の問題で、「薬の調合に必要なものは専門的な知識と処理能力であって聴覚や言語が必要と思えない」との問いに、「医師も人間であるので処方箋の記入を間違う場合がある。その場合、医師に連絡を取る必要があるがTELが使えないのでは差し障りがある」との回答を受けたことがあります。手話通訳対応やFAX活用などの視点がまったくなかったということです。それが今回の改正では、業務を遂行するにあたっての必要不可欠な身体的な機能に聴覚、言語の障害をあげない法律ができました。薬剤師免許もその一つであり、一線横並びからそれぞれの資格免許に応じた弾力的な改正が実現したことを評価します。
 3番目は、欠格条項制定の根拠は、国民の生命、衛生にかかわる業務に携わる者は、オールマイティ的にすべてに対応できる能力が求められ、人的、機器的なサポートなど論外といった認識によるものでした。今回の改正では法律に明記されてはいませんが、省令でこの障害を軽減する手段が考慮されることです。この着目は、手話や要約筆記にEメール、FAXなどの視覚的な情報とコミュニケーションを必要不可欠としている聴覚障害者にとって画期的なことであり、この手段の積極的な肯定があれば、医師免許、歯科医師免許、診療放射線技師免許などの聴覚、音声もしくは言語機能を必要不可欠な身体的機能とする分野への挑戦が可能になります。
 このように聴覚障害者の立場からの改正評価は80点をつけることが可能なほどの進展でありましたし、先述の全国的な大運動の期待に沿う改正内容であったと思うのです。

3 課題

 障害者を特定する法律の改正はなりましたが、この法改正の精神をどう具体化するかが問われます。道路交通法88条の改正を例にあげますと、適性検査試験規定の改正がなく、実効性のない法改正との批判が出ていますし、医師法等についても省令策定のなかで障害を軽減する手段がどこまで認知されるかの懸念もあります。また、資格取得のための専門教育や取得後の職場環境の整備なども課題となっています。教育、職場における情報、コミュニケーションのサポートは、国、大学、医療機関、企業、職場の同僚などの制度的、義務的、自発的な支援が必要になります。
 このように課題は多くありますが、まず、門戸を開放することが先決であり、それに伴う課題等は、現に多くの聴覚障害者が不十分な環境の中で自立を果たしているように、本人の努力と社会的な理解の前進のなかで徐々に整備されていくでしょう。資格取得と環境整備を同列に論じても進展はないし、まず、資格取得の機会を拡大することが重要であり、厚いバリアが取り除かれた事実を新時代の到来として評価すべきです。220万人を超える賛成署名と1030議会の改正意見書採択の事実が障害者差別との訣別を望む国民の意識の表れであり、障害者観の変化と言えるでしょう。

(あんどうとよき 全日本ろうあ連盟理事長)