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欠格条項の改正に思う
─視覚障害者の立場から─

時任基清

はじめに

 昔は「メクラ」「ツンボ」「アシナエ」などと、障害者をあからさまに差別する言葉が普通に使われ、だれもが不思議にも思わず、何の拘(こだわ)りもなく、用いていました。法律の中にも欠格事由として「盲」「聾」等々が使われていました。数年前からは「眼の見えない者」「耳が聞こえない者」などと、言葉だけを入れ替えましたが、差別的精神と内容は全く変わりませんでした。
 今回の法改正は、障害者団体、人権団体等の運動の成果とも言えますが、後述するように、本当の差別撤廃に結びつけることができるかどうかは、これからの監視と運動によるところが大きいでしょう。

1 教育機関での視覚障害者差別撤廃の流れ

 現在、80歳代の視覚障害者の中にも、大卒の方がいない訳ではありません。しかし、これは例外で、ミッション系など、一定の平等観を持った教育機関が特例的に入学させたものでした。押し並べて言えば(盲学校を除く)、一般の中等・高等教育機関では視覚障害者などは門前払いで、歯牙にも掛けられませんでした。敗戦後、視覚障害をもつ有識者が集まり、盲人福祉研究会を組織して、大学の門戸開放運動を粘り強く闘い、徐々に入学を勝ち取ってきました。今では(ごく一部の例外を除き)、大学の点字受験は当たり前のこととなりましたが、これまでの関係者の苦労は並大抵ではありませんでした。

2 職業での差別撤廃運動

 昭和30年代から雇用促進法の影響下に障害者採用は一定の成果を挙げましたが、視覚障害者は埒(らち)外に置かれ、「盲人はあん摩鍼灸という適職があるから、それをやっていればよい」とでもいうように、一般の職業への進出は遅々として捗(はかど)りませんでした。一方、前述の大学門戸開放運動と受験機会拡大運動の結果、弁護士をめざす司法試験、地方公務員への受験ができるようになり、わずかながら合格者も出るようになりました。しかし、理学療法士、作業療法士、あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師など、一部を除く医療関係分野では、視覚障害者を一切締め出す状態でした。

3 機能代替機器の発達と職域拡大

 最近のいわゆるIT革命による関連機器の進歩発展は著しく、たとえば、視覚障害者も相当程度自由に、漢字仮名混じり文を書くことができ、また、OCR(光学的文字読み取り装置)によって活字印刷であれば、相当程度に読み取ることさえできるようになりました。従来、国家公務員一種試験等では「国家公務員事務官は文書処理が主たる業務だから」を理由に、視覚障害者の受験を閉め出してきましたが、前記の機器使用とヒューマンアシスタントを利用することにより、視覚障害者でも能力を発揮することができるようになってきました。
 しかし、IT機器の発達は目覚ましく、視覚障害者がどうにか利用できるようになると、技術はさらに先へ進み、視覚障害者は常にオイテケボリ状態に置かれています。今後は、機器、ソフト開発に当たり「高齢者・障害者もいる」ことを念頭に置いて開発すべきでしょう。

4 法律改正の内容

 一見、すばらしいことに思える今回の欠格条項の改正も、蓋を開ければ「心身の障害により、業務を適正に遂行することのできない者であって、厚生労働省令で示すもの」などと、具体的内容はすべて省令任せとなっています。これは、場合によっては、内容は一切変えず、法律上の差別を省令に移行するだけになりかねません。私たちは、今後も政・省令の動きに着目し、法改正の精神を揺るがせにしないよう、監視活動を続けなければなりません。

おわりに

 欠格条項の改正を審議する委員会に出席して意見を述べる機会を得られた折「医師免許は総合・全科免許だから、仮に精神科の専門医であっても、緊急事態に対応しなければならない。眼が見えなくて、けが人の処置ができるか」と問われました。私は、今回の改正の精神は「何ができないか」に焦点を当てるのでなく、「何ならできるか」に視点を置いて欠格事由を考えることと理解しています。今後の当局の積極的な対応と、障害者団体等の監視活動、さらなる改正への取り組みに大きな期待を寄せるものです。

(ときとうもときよ 社団法人日本あん摩マッサージ指圧師会会長)