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精神障害関係の欠格条項の改正
評価と今後の課題

岡上和雄

改正をまず評価したい

 厚生労働省関係の身分資格制度の欠格条項が一括して見直され、法文から精神病者などの言葉がなくなりました。申請時の診断書でもこれらの文字は消え、「精神機能の障害により業務を適切に行えない」か否かの判定に変わりました。長年の懸案だったので明らかに前進です。関係者の方々のご努力に敬意と感謝を捧げます。たしかにこれによって、精神障害の名における無用な類別は、対象の身分資格制度ではなくなりました。しかし、なぜ手数のかかる事前の審査をするのか、どんな状態の人を欠格にしようとしているのかがはっきりしません。以下、まず、精神科関係の欠格問題のこれまでの経過をみておきます。

過去を振り返る

 例として医師法をみると、欠格事由に「精神病者」という言葉が登場したのは1933(昭和8)年です。それまでの医師法での精神科関連の欠格規定は、1906(明治39)年制定の同法の禁治産者、準禁治産者が最初です。どうして財産権を保護するためにつくられた禁治産者、準禁治産者という言葉が使われたかというと、他の障害に比べてわかりにくいので、裁判所の宣告のかたちできちんと認定をしたほうがよいということからでした。事実経過としては当時の衆議院で、原案の心神喪失者、心神耗弱者がそれぞれ禁治産者、準禁治産者に修正されたのです(1)。
 しかし、制定当時のこのような慎重さ、厳密さは、だんだん崩れていきます。すなわち、1911(明治44)年制定の鍼術、灸術業務取締規則あたりを皮切りに、各身分制度のみに精神病者という言葉が使われ、22年後に医師法にも加えられたのです。そして、これらの身分制度に精神病者という言葉が登場するきっかけとなったのが、1900(明治33)年の精神病者監護法の制定でした。この法律の誕生によってこの言葉が、実体を離れて一人歩きし、仕分けに便利な言葉として法制定関係者の中で通念化されていったようです。
 上記の医師法の改正の国会論議をみると、当然、精神病者では欠格の幅が広くなり過ぎないかという疑問が出ています。これに対する政府委員の答えは、診断書をもとに内務大臣が慎重に調べる、細かいことはわからないが善処する、ゆえに行政に任せてというものでした(2)。手続きの考え方は今でも変わらないなというのが率直な印象です。
 その後、以上の戦前の考え方は、国際障害者年の潮流に出合って新しい局面を迎えました。政府障害者施策推進本部の欠格条項見直しへの努力がはじまり、旧厚生省でも栄養士法以下7制度で精神病者を絶対的欠格事由から相対的欠格事由に変えるなど部分的ではあれ明らかに成果を生み、今日に至りました。

より実質的なものに、復権規程、第三者審査規程もきちんと

 実は、法律で精神病・精神障害の範囲をどう考えるかは、1900(明治33)年の精神病者監護法の制定当時から問題でした(3)。しかし、戦後の1950(昭和25)年に制定された精神衛生法以降、少なくとも1993(平成5)年の精神保健法の改正前までは、行政上の解釈は、この法律の不利益的な処分のほうに目が向けられていたことから、対象を限定的にすべきとしていました。ところが、同年の改正でさまざまな意見の調整の過程で対象の定義が広がり、高所恐怖症、心因性皮膚掻痒症など精神科の病気全体が網羅される国際分類が対象の定義に変わりました。これに伴い、この法の対象の定義のままでは、権利制限的なものには使えない時代になりました。
 このような背景のもと、今回の改正では、対象のとらえ方がこれまでの精神障害・精神疾患の有無を問うよりはるかに限定的な使われ方になりました。これは格段の進歩ですが、それでもなお、判定技術の水準から考えると、結局は事前診断は、従来同様形式的なものに終わらざるを得ないと思います。そのうえ、より専門家の判断が必要と診断された場合でも、学識経験ある医師に意見を聞くとはいえ、裁量は免許を与える立場の行政に委ねられていることも問題です。政府障害者施策推進本部の方針(平成11年8月)は、対象の厳密な規定を必要条件としていますが(4)、現状は判断事例を積み重ねるという以上の回答はなく、政府の定めた方向を政府が守れない事態となっています。将来は、事後の審査に可能性を見い出すべきではないでしょうか。
 さらに当然のことながら資格制限に関する法令には、各法制間の整合性とともに、回復時の復権規程の明確化と、不服審査についての第三者機関の設置が不可欠です。
 最後に、はじめにも述べたことですが、どのような場合が対象として想定されるのかを立案当局は明らかにすべきであることも、併せて念押ししておきます。

(おかがみかずお (財)全国精神障害者家族会連合会保健福祉研究所所長)


(1) 第22回帝国議会貴族院医師法案特別委員会速記録第1号 明治39年3月23日
(2) 第64回帝国議会衆議院医師法中改正法律案外一件委員会会議録第2回 昭和8年3月13日
(3) 第14回帝国議会貴族院精神病者監護法案特別委員会議事速記録第1号 明治33年1月31日
(4) 障害者施策推進本部決定:障害者に係る欠格条項の見直しについて 平成11年8月9日