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1000字提言

精神障害者の医療と地域生活支援体制の充実を

武田牧子

 バスジャック・池田小児童殺傷など、不幸にして悲惨な事件が起こり、事件とは全く無縁の多くの精神障害者・家族・関係者は心を痛めている。その傷口に塩を塗るようなマスコミの報道のあり方には、憤りすら覚える。
 国では、法務省と厚生労働省との合同検討委員会で触法精神障害者への対応が論議されている。全体主義にとらわれ、一人ひとりの国民の権利を奪うことになりはしないだろうか。関係団体から声明文が出されているが、総じて医療の充実、地域支援対策の拡充が掲げられている。厚生労働省の数値では精神障害者は217万人となっているが、日々精神障害者のリハビリテーションにかかわっている者として、医療および地域支援体制はあまりにもお粗末である。障害者プランが掲げられ、その対策は進んでいるかのように見えるが、目標数値自体が低く、とても地域生活を望む人の数には到底及ばない。また、医療の精神科特例は廃止どころか、精神科医が少なく、特例も満たしていない現状で特例は廃止できないと、本末転倒の論議がなされている。
 精神障害者や家族そしてかかわる私たちが本当に求めているのは、自分が住みたいと願う地域で地域住民の一人として、暮らせることである。医療や地域支援対策の充実はその入口にしか過ぎない。その入口が狭いために、生活がしづらくなっているのである。もちろん地域支援にかかわる私たちが、その地域ごとの創意工夫をしなければならないのは自明の理であるが、しかし、今現場ではその創意工夫すら、制度の枠に縛られ、汲々としている現状がある。
 この事件について、当施設利用者の声「心が不器用と思って下さい」が朝日新聞に掲載された。彼は新聞配達をし、地域生活支援センターをうまく活用しながら、父親の役割も果たし、精一杯生きている。最後に彼の心からの叫び、投稿文を紹介する。
 「(略)精神障害者と聞くと、その人の頭の先から足の先まで障害があるような印象を受ける人はいませんか。そうではないのです。心の病になったばかりに、働けなくなったり、人とスムーズに心を通わすことができなくなったりします。あえて言わせてもらえば、心がちょっと不器用になった状態です。精神に障害を負った人ほど、社会に出て働きたい、人のためになることをしたい、人と気持ちよく心を通わせたいと願っています。
 しかしいざそれを行動に移す段階になると、気後れしてなかなか人に働きかけができないのです。障害のある人と付き合うときでも、別に神経過敏になる必要はありません。ごく当たり前に、さりげなく声をかけて下さい。そうすれば、相手からも笑顔が返ってきて良い人間関係が築けます。」

(たけだまきこ 社会福祉法人桑友理事長)