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ハイテクばんざい!

片マヒ者の調理とその工夫

石谷典子

 脳卒中などの病気や交通事故などで片マヒとなられた方が調理をするのは大変なことですが、家庭の中で役割がもてるのは意義のあることです。また、自分で調理することによって楽しめるプラスの効果もあります。ところが片マヒの方の症状はさまざまですので、調理の際にはいろいろな問題点が生じてきます。そこで身体が不自由であっても残存能力を活かして調理を行っていくにはどのような支援が必要なのでしょうか。それにはまず具体的な問題点を明確にし、何が原因で起こるのかを把握しておく必要があります。そのうえでどう解決すればよいのか、何か工夫できるところはないのかを検討していきます。

1 問題点

1.材料や調理道具を持ったり押さえたりすることが難しい。
2.両手が使えない、立ちしゃがみができないことから手の届く範囲が狭い。
3.持ち運びが難しい。
4.両手で行っていたことを片手で行うと力が足りない。
5.同時に複数の調理工程を行うことが難しい。
6.疲れやすい。

2 環境の改善

1.動きやすい配置にする

 キッチンはシンク・調理台・コンロが連続したものと、各々が単体になっているものがあります。連続したものの配列順は使用者の利き手などにより選択できるものがあります。また横一列に並んでいるキッチンよりもL型のキッチンのほうが移動距離が少なくてすみます。できた料理を置いていくのに、ワゴンを有効に使ったり、テーブルの位置を検討するだけでも移動に無駄がなくなります。

2.設備機器を使いやすくする

 車いすの方の場合、シンクの下に膝が入り込むスペースがあれば作業姿勢が楽になりますし、水道の蛇口などにも手が届きやすくなります。また立位・車いすを問わず、手が届く範囲内に(高い所の物を取ろうとするとき、バランスを崩しやすくなりますので注意が必要です)調理用具が置けるようにしておくと便利です。

3.床に物を置かない

 つまづきの原因となるものは置かないようにします。

4.段差がなく、滑りにくい床面

 段差があればつまづきの原因となりますし、ワゴンなども通過しにくくなりますので、できれば平面な環境にしましょう。また、ビニール系床シートやフローリングなどの床材は濡れると滑りやすくなります。毛足の短いマットを敷き詰めることもありますが、かえってつまずきの原因になる場合がありますのでよく検討してください。滑り止めのついた靴下やホームシューズを履いたり、ワックスを変えてみるのも一つの方法です。

3 身体能力と調理動作

1.調理姿勢

 立ち続けることが難しい方や疲れやすい方は座面の高い椅子を使用したり、調理台を高くして肘で体を支えることができるようにします。また、キッチンの前面にクッションを張り付けて、下腹部あたりでもたれるような姿勢で行うのも一つの方法です。最近、キッチンの高さが任意に設定できるものが市販されています。

2.力が弱いとき

 軽い道具を使用するのも一つの方法ですが、軽すぎることによってかえって安定性が悪く使用しにくい場合もあります。硬い野菜を切るときは、先に熱を通して軟らかくしてから切るようにします。

4 身体能力を補う調理用具の適用

 まずは身近な日用品の中で活用できるものはないか探してみましょう。一般用品の中にも便利で使いやすいものがあります。無いときに福祉用具の適用を考えましょう。

1.食器や食材を洗う

 吸盤やねじで固定できる洗浄ブラシを用いれば片手だけでも食器や食材が洗えます。シンク内の底面や側面、あるいは縁に固定して食器や食材をブラシに押しつけながら動かして洗います。

2.切る

 食材は半分に切るなどして、下が平らになるようにしてからまな板の上に置きます。次に親指で食材を押さえるような形で固定し、他の四指で包丁の柄を握って切っていきます。固定が不安定であれば、重しを使って食材を重しに押さえつけるようにして切っていきます。キャベツなどを千切りにするときは、キャベツを数枚重ね、その上に重しを乗せて動かないようにして切っていきます。
 食材を固定するまな板もあります。これは食材を挟んだり突き刺して固定させるので、ジャガイモなどの丸いものでも片手で安心して切ることができます。裏面には吸盤が付いていて滑らないようになっています。付いていないときは、濡れ布巾を下に敷くと滑り止めの代わりになります。包丁を持つ手が安定しないときは、包丁の先がレールで支持されているまな板が有効なこともあります。これはてこの原理で小さな力で食材を切ることもできます。
 ねぎや椎茸の軸、ブロッコリーなどを切るときはキッチン鋏を使用すると楽に切れます。みじん切りやスライスが簡単にできる市販のフードプロセッサーを利用したり、あらかじめ切ってある食材を買ってくるのもよいでしょう。

3.皮をむく

 前述のまな板に食材を固定して包丁や皮むき器で皮をむいていく方法、皮むき器を固定させ、片手で食材を持って押しつけるように動かして皮をむいていく方法などがあります。その他、回転式皮むき器のようにりんごのような球状のものを本器に突き刺して固定し、ハンドルを回して皮をむいていくものもあります。

4.塗る

 まな板のコーナー部分に少し出っ張りを設けるとコーナーストッパーになって、食パンを置いてバターなどを片手で塗ることができます。

5.袋・瓶・缶の蓋を開ける

 袋は鋏や包丁で切る以外に、カッター部に袋を差し込んで動かしていくと封が切れるパックオープナーがあります。瓶や缶を開けるときは、椅子に座って両脚で挟んで固定したり、下に滑り止めマットを敷くなどして固定します。ハンドル部を腹部で押す、ネジで締め付けるなどして固定する用具や、大きくくり貫かれた穴の中に瓶を入れると中が滑り止めになっていて固定される用具などがあります。プルトップ以外の缶は、電動で缶を切ってくれるものが便利です。

6.ゆでる

 大量の湯を使ってゆでる場合、ゆがき終わったらお湯ごとざるに移してしまうのではなく、トングを使って中身だけをざるにあげるようにします。お湯は冷めてから捨てます。

7.盛り付け

 重い鍋を移動させるのではなく、ワゴンなどを活用して茶碗のほうを持ち運びするようにします。非利き手でお箸が持ちにくい場合、トングを使っておかずを挟み、盛り付けていきます。
 最後になりましたが、調理を行ううえで一番重要なことは、「安全」に対する自己認識です。「危険なことはしない」で、無理をせずに楽にできる方法で工夫することが大切です。

(いしたにのりこ 兵庫県立総合リハビリテーションセンター)

【参考文献】

(1)遠藤てる:『片手で料理をつくる』共同医書出版社、1998
(2)市川洌、他『福祉用具アセスメントマニュアル』中央法規出版、1998
(3)市川洌、他『福祉用具解説書~パーソナル関連用具・家事用具」、中央法規出版、1999