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21世紀のまちづくり―住民参加の現状と課題

山田稔

なんのための住民参加か

 わが国でも、まちづくりの事業の中で多くの住民参加の取り組みがなされてきています。最近筆者が携わったのは、住宅地内の道路を安全で安心なものにするための事業でした。道路を広げるのではなく、通り抜ける自動車を減らすことを車を使う住民も一緒になって考えてきました。一般には、公共施設などの整備に関連する住民参加として、住宅などを含めた町並みや景観を守る事業、公共建築物の外観や内部の設計、公園やコミュニティ施設の設計と運営、利用者の少ないバスや鉄道を使って残す取り組み、災害時の避難路・避難所の整備や伝達や誘導の体制などと、実に多様な分野で見られるようになっています。それに、住民ボランティアやNPOが得意とする福祉や教育などの分野でも実に活発です。
 しかし、まだまだ行政も住民も理解不足で、施設整備が関係する事業では、形だけの実施だったり、成果が上がらないことが懸念されて実行されないことも少なくありません。住民参加のまちづくりには、さまざまな効果が期待されますので、それを正しく理解して効果を発揮させることが大事です。
 では、住民参加はなぜ有効なのか、その理由は、大きくは次の四つに分かれます。
 まず、行政のまちづくりの担当者たちだけでは、市民の一人ひとりの違いや地区ごとの違いを詳しく理解することが難しいためです。このことは、福祉のまちづくりに住民参加が不可欠な理由として、よく指摘されます。一人ひとりの身体的、社会的な条件の違いに基づくニーズの把握は、当事者を直接知ることが最も有効でしょう。そのためには住民は遠慮なくニーズを出しあうことが重要です。
 2番目に、住民は、自分の生活のためには各種の政策のなか、何が一番ほしいかを判断できる目をもっているからです。そして、よりよい生活を送るためのさまざまな工夫を持っているからです。行政は、分野別に仕事を分担する仕組みになっているため、その枠を越えた総合的な比較検討は必要にもかかわらず、なかなかうまく機能していません。また、ある施設改良の事業よりも、運営の工夫と多少の資金援助のほうが利用者の満足が高くなる、ということがあったとして、利用者である住民だけがそれに気がつくということも少なくありません。
 3番目には、利害が対立したり、一長一短があるなど、選択が難しい局面では、行政が勝手に決めるより、住民自身が納得して意思決定するほうがよい結果をもたらすためです。「住民の納得を得る」というのは、他に適切な選択肢はないのか、人々が望む目標が本当に必要なものなのかなどを、文字通り納得するまで住民が検討や議論することです。行政が勝手に決めると、本当に行政が十分検討したのかという疑問や不信が付いてきます。そうならないためには、このような方法が一番効果的です。
 4番目の理由は、住民のボランティア活動との連携を検討しやすいからです。文化施設は行政が建物をつくって住民やNPOが運営するのは、今や常套(とう)手段です。公園や道路の植栽を住民が管理していることも珍しくありません。そういった住民の協力を期待するからには、施設の計画の最初の段階から住民が加わることが効果的です。

交通バリアフリー法に見る住民参加

 昨年11月に制定された、通称交通バリアフリー法(「高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)は、いくつかの点で、画期的な特徴があります。
 まず、重点整備です。従来は、建物の建替えなど、やりやすいところでポツンポツンとバリアが解消されてきた感があります。そういう整備を行っても、そのおかげで外出できるようになる人が増えることはほとんどありませんでした。そこで、多くの人が利用したいけれどバリアがあって利用できていない区間を重点的に改良することが定められました。重点整備地区を決め、その中は、既存施設も含めて地区としてのまとまりを持ってバリアフリーにするのです。
 ここで問題なのは、どうやって重点整備地区を決めるかです。整備財源をすぐに増やすことは難しいので、重点整備地区を決めれば、地区外は相対的に整備が遅れる恐れがあります。法では、多くの人が利用する駅と、そこから徒歩で利用される範囲の道路などが対象として定められていますが、具体的なことは、市町村が当事者の状況を考慮して決めます。単なる当事者へのヒアリングにとどまらず、前述の四つの参加の効果を活用しなければならない重要なポイントです。
 二つ目に、事業間の連携があります。これは、まず鉄道事業者や道路管理者の間の連携です。これまで、鉄道、バス、国道、都道府県道、市町村道などの間の連携が不十分でした。そのため、鉄道の乗り換えや駅出入口など、管理の境界を越えて移動する際の問題が多く指摘されてきました。
 次に、民間の建物との連携も重要です。法では民間の建物にとっての規定はありませんが、建物内部が通路として重要な場合や、建物と道路との間のバリア解消などで、関係してきます。建物の所有者に対し、まずは市町村が率先して協力を要請することです。さらには、住民参加の場にも参加してもらって一緒に議論すれば、最低限必要な対策への理解が深まる効果が期待されます。
 重点整備地区については、鉄道や国道なども含めて市町村が計画を作ることになっているのも、この法律の画期的な点です。地域の住民のニーズを重視するため、住民に最も近い市町村に大きな権限が持たされています。法に基づいて大臣が定めた「基本方針」の中で、重点整備地区の計画づくりにおける住民参加、またその計画に基づいた事業実施の際の住民との協力が明文化されています。

今後の課題

 住民参加のまちづくりがなかなか定着しない理由はいくつかあります。バリアフリー法を進めるためには住民参加の実施は必須ですが、課題が解決されたわけではありません。
 最も重要な課題は、住民にも行政にも信頼されて住民参加を企画運営のできる、中立的立場の人材を増やすことです。これまで一部の大学の研究者などがこの役割を担ってきましたが、それでは絶対的に数が不足しています。まちづくりNPOや中立的な一般市民、福祉や教育分野の人の活躍も期待されます。そういった人材育成のためにも、少しでも多くの事業で正しい参加型のまちづくりに取り組み、実際に参加した経験のある人を増やしていきたいものです。

(やまだみのる 茨城大学工学部都市システム工学科助教授)