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利用者としての提案
当事者参画と「交通バリアフリーアドバイザー養成」の意義

大須賀郁夫

 東京実行委員会では、この7月に3日間にわたり「交通バリアフリーアドバイザー養成セミナー」を新宿で開催しました。
 1日目は、午後1時から3時までDPI常任委員が、「法制化に向けた背景」および「交通アクセス運動の歴史」について講義し、5時までを質疑応答に時間を取りました。
 2日目は、午前に市町村の基本構想に基づく重点地域整備の際のバリアチェックのポイントについて東京実行委員会役員が講義し、午後から高田馬場駅周辺をモデル地域と仮定して、旅客施設を中心とした重点地区の点検調査を行い、3時から5時まで調査結果に基づき重点地区を整備する際どのような検討事項があるか、どこをポイントにするか、などを参加者全員で話し合いました。
 3日目は、午後1時から2時まで国土交通省消費者行政課の方から基本構想策定の仕組みと内容について解説いただき、続いて3時まで一級建築士の川内美彦氏が当事者参画の意義と方法を講義しました。3時からはバリアフリー法策定に携わった元消費者行政課の方も加わり、会場との白熱した質疑応答となりました。参加者は各回平均35人で、うち障害者は平均21人、都内各地から参加していました。
 こうした障害者側のセミナーは初めてで、内容や進行に不十分なところがありましたが、参加者全員が講義に聞き入り、講義の後半、会場からの質問が途切れず、ほぼすべて質問に終始するほど交通バリアフリー法に対する関心の高さが現れていました。
 交通バリアフリー法では、基本構想策定の過程において当事者の参画をうたっています。駅舎や車両など交通機関および駅周辺の施設等は、一度つくられると10年以上、場合によっては数十年利用されます。これらが、そこを利用し、不便さを日々身近に感じている障害者や高齢者など住民を抜きにしてつくられると、その不便さは長い間継続し、後から改造するにしても高いコストが跳ね返ってきます。駅とその周辺は、その地域のまちづくりの核となるもので、すべての住民が安全で快適な利用ができるものでなければなりません。そうしたまちを実現するには、障害者や高齢者やベビーカーを押す人など、何らかの移動制約を感じている住民の意見の反映される仕組みづくりが必要です。こうして当事者参画をうたったことは高く評価されるものであり、行政、交通事業者、まちの関係者、交通利用者、障害者・高齢者等あらゆる関係者の連携と協力によって住民参加の仕組みをつくっていかねばなりません。
 しかし、市区町村でこうした行政の仕組みとしてもっているところは多くはありません。一方、交通バリアフリー法を理解し、主張や改善の提言を言える障害者がきわめて少ないのも現状です。これまでも、まちづくりでのアドバイザー養成は行われていますが、当事者のアドバイザー養成は遅れています。当事者参画を生かし、住民参加のまちづくりの仕組みづくりを担っていける障害者アドバイザーの養成は欠かすことのできない課題となっているのです。
 このような背景からセミナーを企画しましたが、同様のセミナーや学習会などをもっと多くの地域で開催できるようにして、当事者のアドバイザーを生み出し、各地で委員会に参画し、バリアチェック活動で課題を提起し、提言できるようにしていくことが、住民参加のまちづくりを実効性あるものにしていくに違いありません。
 つぎに、当事者参画が建て前でなく実りあるものにするために、委員会の持ち方などで考慮すべきことがあります。八王子市における基本構想策定委員会での事例をもとに提起しておきます。
 八王子市では、7月に委員会がスタートしました。委員の構成は全体で26人で、うち学識経験者2人(委員会の委員長、副委員長となっている)、鉄道やバス事業者5社から5人、国道事務所や警察など関係行政機関から4人、経済団体から1人、市職員が4人(のち5人)で、それ以外が市民委員で、障害者が6人、高齢者が2人、市民公募委員が2人となっています。この委員会を前に障害者側と市で話し合い、会議の際に介助者の同席、手話通訳者の配置などを確認しました。さらに第1回委員会の反省から、点字テキストの配布、傍聴者への資料配布も追加されました。また、当日資料が配布されて、それをその場で見て意見を述べるには時間が短すぎるということで、次回から事前に資料を配り、説明会をもったことと、会議の進行もゆっくり進めるよう要望が出され、市も受け入れました。このような会議をスムーズに進行させるために、コミュニケーションの保障やさまざまな配慮という会議での支援が当事者参画に重要です。
 一方、障害者側でも、第1回委員会以後、委員間の意見の調整やバリアフリー法についての学習の必要性が認識され、講師を呼んでの学習会の開催、委員たちでの事前の重点整備地区の特定経路と駅および駅周辺での課題を見出すための調査などを自主的に行い、委員間の連携が深まりました。障害者委員は、すべての障害ごとに委員を出すことが困難である以上、自分の障害の利益だけでなく、他の障害も考慮した意見や提案ができるようにすることも必要です。さらに、一般市民が交通バリアフリー法やまちづくりに関心をもてるようフォーラムの開催も予定されています。
 このような、セミナー開催や各地の事例の積み重ね、市民・関係者との協働作業などを通して、交通バリアフリー法に基づくまちづくりが住民参加・当事者参画のまちづくりと言えるよう努力を重ねていきたいものです。

(おおすがいくお 「誰もが使える交通機関を求める」全国行動東京実行委員会)