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藤沢市のみちづくり
―湘南台の取り組み―

本田恵子

なぜ住民参加なのでしょうか?

 今、まちづくりの場面で住民参加が注目されています。一般的に、住民参加でまちづくりなどを進めることによるメリットは、住民の地域への愛着が増して事業実施後に維持管理にも参加してもらえること、はじめは時間がかかりますが、事業がスムーズに進行することなどがあげられます。またそのプロセスにおいて一番重要なことは、住民が満足できるみちづくりを実現すること、それができない場合は我慢しあえるレベルを住民と一緒に探すことにあります。
 そこで住民参加のまちづくりの1事例として、計画が全く白紙の状態から最終計画案まで作成した神奈川県湘南台地区におけるみちづくりの取り組みについて、紹介いたします。

点検実施と地区選定

 湘南台地区は、小田急江ノ島線、相模鉄道、横浜市営地下鉄の3線が乗り入れる藤沢市北部のターミナルです。
 まず、実際にまちを歩き、問題・課題点を抽出するために点検が実施されました。湘南台地区では、「安全・快適・バリアフリー」をキーワードに、それぞれ子ども・高齢者・障害者に焦点をあて3回実施されました。この点検でまとまった問題・課題点を中心に、特に通過交通や路上駐車問題などを抱える80メートル四方が選出されました。この地区は、道路が6.0~8.0メートルと比較的広く確保されており、なおかつ、住宅地と商業地が混在しており、今後のまちづくりにおいてもよいモデル地区になると考えられました。こうして選ばれた地区で、本格的な住民参加を取り入れたみちづくりが始まりました。

湘南台2丁目ワークショップ

 住民参加にもさまざまな手法がありますが、ここではワークショップという手法で計画づくりが進められました。ワークショップとは、住民・行政・専門家・企業など多様な人々が参加し、会議もありますし、勉強会や見学会などのさまざまな作業を通して学習しながら、アイディアを出し合い意志決定をする集まりです。
 湘南台地区では、平成10年2月22日に第1回が開催されてから、平成12年12月9日に終了するまで、25回ワークショップが実施されました。また、ワークショップは基本的に土曜日の午後に実施していたため、参加ができない商店主等を対象に、平日夜間に実施したサブワークショップ(8回実施)や、地元商店街の事務所や市役所のスペースを借りて実施したオープンワークショップ(1週間実施)などが実施されました。その他には、先進地区(東京都世田谷区梅ヶ丘地区、神奈川県茅ヶ崎駅前地区)への見学会(2回実施)、社会実験等の開催を合わせると、40回近い住民参加の機会が設けられました。社会実験は2種類実施され、仮設デバイス(障害物)を設置しての1日だけの実施と、中長期的な試験施工としてスムース横断歩道(横断歩道部分を盛り上げ、歩道部と平坦性を維持することにより、歩行者の快適性を向上させ、さらに地区内への自動車の進入を抑制させる)の設置も行われました。以上の通り、湘南台ではさまざまな手法を取り入れた住民参加を実施しました。
 3年の間には、住民が自分たちで計画案を作成したり、交通量調査を実施するなど、積極的な時期もありました。この時期のワークショップでは参加者も毎回30人近くあり、4グループに分かれファシリテーター(中立的な立場で会議等をスムーズに進行させる人)を中心に、積極的な議論が交わされました。しかし、議論の膠(こう)着と飽きによって、参加者が3人にまで減少してしまった時期もありました。参加者を引きつけるためには、イベントを定期的に取り入れることが重要になってきます。たとえば、サブワークショップやオープンワークショップの実施などがあげられます。その他の取り組みとしては、行政が毎回ワークショップが終了した後に、湘南台2丁目ワークショップの対象地域および、その周辺地域にワークショップでの決定事項や次回開催予定日等をお知らせするために「ワークショップニュース」という新聞を配布しました。こうした取り組みによって徐々に参加者も増加し、最終計画案の作成までこぎつけました。
 最終的には、この80メートル四方はコミュニティ・ゾーンとして指定されたこともあり、全出入り口にスムース横断歩道の設置や、交差点部分のイメージ狭さく、スピードセーブ舗装(道路を波型形状にすることで、自動車の速度を抑制させる)、ロールド舗装(舗装材を変えることにより視覚的に歩車分離を促す)が取り入れられました。しかしここで重要なことは、今後も工事が実施されていきますが、継続的な評価を行っていくことにあります。

住民参加の7箇条

 住民参加のまちづくりにおいて重要なことは、住民がいかに主体的に参加できるかにあります。そこで住民参加でまちづくりを進めるための秘訣を、ワークショップ運営と計画づくりの二つの視点で、湘南台2丁目ワークショップの知見から整理してみました。
 まず、ワークショップ運営の7箇条としては、1.自分の立場を明らかにする、2.行政が住民の視点でものを見ることで心のバリアを取り除く、3.住民と行政の体験の共有が心を開く、4.リラックスした雰囲気をつくる、5.住民のペースを理解したうえでリードする、6.まとめでは全員の意見をよく聞く、7.話し合いは住民が主役になるようにリードする、です。
 次に、計画づくりの7箇条としては、1.問題の発見、対策メニューの整理、得失の理解、全体的合意の手順を踏む、2.住民も行政もワークショップで多くを学ぶ、3.他の場所の事例と自分のまちをよく比較する、4.対策の効果や欠点を中立的な視点で洗い出す、5.失敗を恐れず試験的にでも導入して結果を見る、6.決断のための時間は必要だが、決めなければ進まない、7.決定方法は民主的に、オープンにです。
 これら7箇条は、3年という長い間、住民参加を実施し続けた末に出てきた結論であり、成果です。これを他の地区で住民参加を実施する時に、そのままあてはめて実施するのではなく、これらの7箇条をヒントにそれぞれの地区の風土、気質に合う手法や進め方を考えていくことが重要です。その他にはファシリテーターとして参加できる人材の育成を重視する必要があります。継続して考え、柔軟に対応していくことが、住民参加を成功させる秘訣です。
 これら湘南台地区での取り組みの詳しい内容に関して、もしくは住民参加にご興味のある方は、『住民参加のみちづくり』(学芸出版社)をぜひ一度お読みください。

(ほんだけいこ 交通エコロジー・モビリティ財団バリアフリー推進部)