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障害の経済学 第24回

職業リハビリテーションの意義

京極高宣

はじめに

 すでに述べたことですが、厚生労働省の発足により、障害者の職業リハビリテーションの活動は新しい飛躍の時代を迎えようとしています。今回は、職業リハビリテーションの意義について再認識するとともに、それに係わる人々の雇用創出効果についても論じてみたいと思います。

1 職業リハビリテーションの推移

 社会福祉の世界では、職業リハビリテーション(Vocational Rehabilitation)という言葉は最近になって使われはじめるようになりました。
 もともとは、1955年の第38回国際労働機関(ILO)総会で採決された「障害者の職業リハビリテーションに関する勧告」(第99号勧告)が国際的に承認されてから職業リハビリテーションという用語が次第に使われるようになり、当初は身体障害者の雇用対策とほぼ同様な意味で使用されていたようです。その影響も受けてわが国では、身体障害者雇用促進法(1960年)が制定されました。その後、ILOは、1981年の国際障害者年を踏まえて、さきの第99号勧告を見直し、1983年総会で、「職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する条約」(第159号条約)および「職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する勧告」(第168号勧告)を採用しましたが、これらは障害のある人々の「完全参加」と「平等」を職業生活面でも実現するために、職業リハビリテーションの目的をすべての種類の障害者が適当な雇用に就き、それを継続し、かつ、それにおいて向上することができること、並びにそれにより障害者の社会への統合または再統合を促進することにおくと規定しました。
 こうした動向を反映し、1987年には、わが国の身体障害者雇用促進法の名称が障害者雇用促進法に改正され、幅広く各種障害を対象に加えると同時に、職業リハビリテーションという用語を法的にはじめて規定しました。これにより個々バラバラに運営されていた心身障害者職業センターや国立職業リハビリテーションセンターなどが障害者職業センターとして再編成され、日本障害者雇用促進協会によって一元的に運営されるようになりました。またこれらのセンター共通の専門職として障害者職業カウンセラーが配置されています。
 現在、労働行政サイドの職業リハビリテーション・サービス利用者は延べ約19万8000人(1998年度)であり、構成は身体障害(21%)、知的障害(56%)、精神障害その他(24%)となっています。

2 職業リハビリテーションの意義

 障害者に対する治療や訓練がどんなに高度なものであっても、最終的には社会参加を実現させてこそ意義のあるものであり、利用者の年齢が低いほど、その後の長い人生にとってのことを考えると、職業リハビリテーションの役割は極めて大きなものがあります。それは就職する前の、単なる職業訓練にとどまるものではありません。障害をもつ人々の働く場所を開発・確保し、働く場を正しく選択し、継続的な就労支援を行い、見守るもので、障害者のキャリア・アップを図りつつ、長期にかかわるライフ・ステージに沿った体系的なものでなければなりません。その結果として、障害者が何らかの働く場を得ることにより収入を得、仕事という役割の遂行を通じて社会的承認を獲得し、さらに職場の仲間や友人が増え、結果として個人の生活が豊かになるのです(松為信雄・菊池恵美子編『職業リハビリテーション入門』、協同医書出版社、2001年6月、第1章参照)。
 現在、厚生労働省においては、職業リハビリテーションについては、公共職業安定所において職業指導、職業紹介等が行われていますが、職業能力評価やカウンセリング等についても専門的な知識に基づいて、次のように十分に行うようにされています(図参照)。すなわち、地域障害者職業センター(47か所、支所5か所)で専門カウンセラーによる職業評価、職業指導、職業準備訓練、事業主に対する職場管理、作業施設に関する相談・助言などの業務を総合的に行うほか、障害者職業総合センターや広域障害者職業センター(3か所)で職業リハビリテーション技術の研究・開発・情報の提供、人材の養成確保などを行っています。21世紀にはますます、職業リハビリテーションの分野は拡大していくと思います。こうした分野で働く人々は、約1万人に及ぶと推定されます。

図 労働行政における職業別リハビリテーション体制

拡大図
図 労働行政における職業別リハビリテーション体制

出典:松為・菊池編『職業リハビリテーション入門』協同医書出版社、20頁

むすびにかえて

 平成13年1月より、厚生労働省の発足により厚生行政と労働行政の融合が可能になりましたが、障害者施策の最も重要なキー概念の一つに職業リハビリテーションが位置し、それは保健、医療、福祉にとどまらず、教育、労働などと密接に結びつく学際的領域として、21世紀に輝かしい発展を遂げることは疑いありません。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)