音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

列島縦断ネットワーキング

東京
障害者医療問題全国ネットワークの設立報告

小佐野彰

 2001年11月10日、代々木国立オリンピック記念青少年総合センターにおいて、障害者医療問題全国ネットワーク(以下、二次障害全国ネット)の設立記念シンポジウムが開催されました。当日は、障害のある人や家族、医療関係者等約130人が参加され、会場に自分たちの手に医療を取り戻そうという熱気があふれていました。
 午前の部は、札幌いちご会の代表である小山内美智子氏による「脳性マヒ者の二次障害と治療について(私の体験)!」と題した講演から始まりました。小山内氏は、医療機関を利用する際にぶつかったさまざまな問題について触れました。二次障害として変形性頸椎症になった時に、地域の病院になかなか対応してもらえなかったこと等、当事者の立場から切々と語っていました。そして、最後に「嫌な思いや痛い経験をしてきたからこそ、当事者としてこれを機会に語ってほしい!」と参加者に向けて訴えていたのが強く印象に残りました。
 午後の部は、「二次障害全国ネット」の設立総会として始まりました。私は基調講演の中で、医療機関の無理解をなくすためには、障害のある人が多少つらい思いをしても、地域の医療機関を活用していくことの重要性について触れました。その後、八王子市、西東京市、埼玉県上福岡市、名古屋市、那覇市等のさまざまな団体から取り組みが報告されました。特に沖縄からは、自分たちの地域でもシンポジウムを開きたいという元気な声が上がっていました。
 本会の設立に向けた提案については、今後の活動計画や規約、役員や予算等について承認を受けました。特に規約に関する論議では、改めて「二次障害全国ネット」の活動が、二次障害の問題を中心にしながらも、医療問題全体に対する解決をめざしたものであることが確認されました。最後に、代表である吉田敏彦氏から「障害者が命をも落としている実態を、社会的に明らかにしていけるかどうかは、皆さんの力の結集にかかっている。自分の中だけの問題に止めずに、社会的な問題にしていくことが大切だ」という訴えがあり、総会の幕を閉じました。
 ところで「二次障害全国ネット」の設立に向けた準備が始まったのは、2000年2月のことでした。そもそも障害のある人を取り巻く医療の現状は深刻です。たとえば全国的に、在宅の障害のある人に対して健康診断の機会はほとんど保障されていません。また、日常的に地域の医療機関に通院する場合でも、医師が障害のある人に慣れていないために、コミュニケーションさえままならない状態です。さらに入院する場合には、基準看護法が制定されているにもかかわらず、看護婦が不足しているせいもあって、障害のある人が安心して介助を受けることができないという問題に直面してしまい、治療を受けるどころではない状況です。しかも全身に障害のある人は、このような問題を抱えているうえに、さらに二次障害を背負うことになります。「二次障害全国ネット」の設立に向けた準備は、まさにこのような暗澹(たん)たる状況からの出発でした。
 「二次障害全国ネット」の取り組みは、JOY障害者が使える温泉クアハウス推進委員会(仮称)と特定非営利活動法人自立の家をつくる会との交流会がきっかけでした。当時、全国的に見ても、医療問題に取り組んでいる障害のある人の団体がほとんどない状況でした。両団体とも最初は、お互いが抱えている二次障害の事例についての情報交換に終始していましたが、交流会を重ねるにつれ、医療問題の解決に向けた全国組織の必要性について検討されるようになりました。その結果、本年1月より他団体に呼びかけ、11団体と個人2名の参加の下、「二次障害全国ネット準備会」として準備を進めてきました。
 今後「二次障害全国ネット」は、次のような取り組みを計画しています。
1.第2回シンポジウムの開催(大阪近郊)
 2002年10月19日に開催予定。当日は、全身に障害のある人の二次障害の予防や、治療に積極的に取り組んでいる医師や理学療法士に講演をお願いする予定です。また、参加団体から各地の取り組みの報告と問題提起を受け、交流の時間を設けます。第2回定期総会も兼ねます。※場所の変更あり。
2.通信の季刊発行
 障害のある人の医療全般に関する情報を全国に発信するために、「けんこう通信(仮称)」の季刊発行をめざします。
3.医療に関する情報提供・相談事業の実施
 障害のある人や家族、福祉関係者に対して、医療情報の提供や最新の治療法等に関する紹介を行い、日常の医療や二次障害等に関する相談に応じるために、本年度中にホームページを開設し、来年度実施をめざします。
 参加者の皆様のお力により、「二次障害全国ネット」はなんとか立ち上がることができました。しかし、まだあまりにも小さな歩みであり、課題は山積しています。まず「二次障害全国ネット」として最初に取り組まなければならないことは、医療専門家の方々との関係作りという問題です。障害のある人の日常の医療や生活習慣病の問題、二次障害等について解決していくためには、医師や看護婦、理学療法士の方々のご協力が不可欠です。どうか障害のある人の事情をお汲み取りいただき、より多くの医療専門家の方々がご参加くださいますようお願い申し上げます。
 最後に、設立シンポジウムにご協力いただいた皆様や事務局の方々に、この場を借りまして心よりお礼を申し上げます。

(おさのあきら 「二次障害全国ネット」副代表)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2001年12月号(第21巻 通巻245号)