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知り隊おしえ隊

おもしろくて、心がやわらかくなる
三鷹の森ジブリ美術館

松嵜ゆかり

 今年の10月1日にオープンしたばかりの「三鷹の森ジブリ美術館」。アニメ好きの私としてはぜひ行きたいと思っていたところ、取材の話があり、秋の1日娘の奈津美、介助の明子ちゃんと3人で、知り隊おしえ隊として出かけました。
 バスとJRを使って、三鷹駅へ。三鷹駅ではホームから改札口まではエスカレーターを使って上ります。その時、エスカレーターを車いす用に変えるため、周りの視線を感じます(やっぱり、自由に使えるエレベーターがいいかなぁ)。改札口を出てからは、駅ビルのエレベーターを使って地上へ、エレベーターの位置は少しわかりづらい所にあるので気をつけてください。
 三鷹駅南口からは、コミュニティバスを利用してジブリ美術館へ。2台あるうちの1台は、スタジオジブリがデザインした黄色のリフト付バスです(ノンステップバスだったらもっとよかったなぁ)。バス停も案内板も深いみどりのおしゃれなものです。バスは、約10分間隔で運行されていて、定員は36人、車いすスペースは2台あります。料金は、大人片道200円往復300円、子ども片道100円往復150円です。他の各種割引制度はありません。コミュニティバスを利用すると5分ほどで着きます。それ以外の行き方としては、三鷹駅と井の頭公園を結ぶ多摩川上水沿いの「風の散歩道」を15分ほど歩くとジブリ美術館が、見えてきます。障害があり車を利用する場合は、事前に相談してください。用意できる駐車場は、乗用車4台ぐらいまでなので、団体での入館は難しいようです。
 停留所で降りると、「三鷹の森ジブリ美術館」の文字が目に留ります。ジブリ美術館は井の頭公園の自然と一体になっていて、敷地内に足を踏み入れると宮崎駿監督の世界が、私たちを出迎えてくれます。最初に出迎えてくれるのは、おっきなトトロ、小さな窓にはマックロクロスケが見えます。しかしこれはニセの受付、正面の白い建物が本当の入口、扉を開ければ、そこはもう宮崎ワールド、窓やランプにジブリのキャラクターやかわいい動物、草花が描かれた色とりどりのステンドグラスが、はめこまれています。一つひとつに、心のこもったプロの技があり心惹かれます。天井を見上げれば、一面にフレスコ画が。青空の真ん中には、ニコニコ顔のおひさまや果実や花、たくさんのキャラクターたちが、やさしく私たちに語りかけてくれます。
 美術館のチケットは現地では購入できないので注意してください。日時指定の予約制になっていてコンビニエンスストア「ローソン」で入場引換券を購入します。受付では映画の上映で本当に使っていた35mmフイルムの入場券に変えてくれます。どのシーンのフィルムか受け取ったら光に透かしてみてください。ちなみに私は、となりのトトロのフィルムでした(セリフもわかりました。自慢!)。年内のチケットは完売で、現在2002年の3月分までチケットが販売されています。休館日は火曜日と12月26日~2002年1月2日となっています。入場料金は、大人、大学生1000円、高校中学生700円、小学生400円、幼児(4歳以上)100円です。各種割引制度はありません。
 受付を済ませると、美術館のために作られた段差解消機で1階の入口から地下1階へ下ります。1回に利用できる車いすの台数は1台です。地下1階から地上2階までは、吹き抜けになっていて、天井のガラスドームには、大きな天井扇が、舞っています。まるで風の谷を思わせる素敵な空間です。手すりには、ガラス玉がはめこまれていて日の光をやさしく受け止めています。
 地下1階から地上2階までは、エレベーター2機が利用できます。中央にあるエレベーターは、ヨーロッパの古いホテルを思わせるアンティックな感じのするものです。エレベーター内はあまり広くないので車いす1台と2、3人で、いっぱいになりそうです。トイレは、館内フロアのすべてに多目的トイレが設置されています。地下1階のトイレはおしゃれにデザインされ、壁紙もすべてトイレごと違うという心配りがされています(肘掛椅子が置いてあって、ちょっと休憩したくなる気分!)。
 まず地下1階には、「動きはじめの部屋」と呼ばれる展示室があります。感動したのが立体ゾートロープの「トトロぴょんぴょん」。1秒間に1回転する盤にポーズの違うトトロやメイちゃんが並んでいて、発光ダイオードが1秒間に18回点滅すると、人形たちが動いているように見えます。人形たちは、アニメーターが描いた動画を元に、造型師たちが苦心して立体にしたものです。ちびトトロが木の中に消えていくシーンは、ずーっと見ていても飽きません。子どもたちのために置かれた踏み台があるため、目線の低い車いすでは見づらい感じがしました。ちなみに娘は、車いすを持ち上げて見ました。 
 映像展示室「土星座」では、ここでしか見られないオリジナル作品「くじらとり」が、ほぼ20分おきに上映されています。車いす用スペースはおよそ2台分あり、介助者用のいすも用意してもらえて助かりました。原作は、娘たちに何度も読み聞かせていた「いやいやえん」だったので感動しました。今後は、「コロの大さんぽ」「めいとこねこバス」が上映される予定です。土星座では、音声補助イヤホンが用意されていますので、ご希望の方はスタッフまで声をかけてください。
 地下の中庭には、手こぎポンプの井戸と薪置き場があり、子どもたちが手こぎポンプの感覚を楽しんでいました。娘の奈津美は、1人の力では水を汲み上げることはできませんでした。でも、介助の明子ちゃんと一緒に汲み上げることができて満足。にっこり笑ったマンホールや通路に残されたねこの足跡(奈津美は見つけて、案内してくれたスタッフから誉められました)など、いろいろな所に発見があり、子どもたちに楽しんでほしいという館主の宮崎駿さんの思いが伝わってきます。
 1階の常設展示室「映画の生まれる場所」は、五つに分かれた部屋に、原画や絵コンテ、セル画、フィルムの編集機などが置かれていて、順にたどると映画が作られるまでの過程がわかるようになっています。私が気に入ったのは、本やガラス玉などワクワクする小物や飛行機の模型、プテラノドンが吊り下げられているアイデアの元となるものがあふれている部屋です。少年のイメージだそうですが、私も絶対こんな部屋で作品製作をしてみたいと思いました。(ちなみに「少年の部屋」とも呼ばれていて、隣には少女の部屋があります)。イメージボードや貴重な絵コンテ集は、ずーっと見ていたい気持ちにさせられます。
 全国で上映中の「千と千尋の神隠し」の企画展示室は、アニメ好きの私としては、とても感動しました。イメージボードや背景画は、すごいの一言で、だれが何日かけて描いたの? 何秒のシーンのために…本当にすごいんです。絶対日本のアニメーションの背景は、世界一だと思ってしまう空間でした。「千と千尋の神隠し」で使用した原画や動画の全量が展示されていて、アニメーションは多くの人たちの手によって生み出されているのだと改めて感じました。
 ジブリ美術館は、今までの美術館のように順番どおり見るという常識を覆した、自分で楽しむ自由な空間の美術館であることは間違いありません。人気スポットのため、4回に分けて入場を行ってもかなり混んでいます。ショップは人、ひと、人で車いすに乗った娘は、埋まってしまいそう…。私はめげずにお土産を買いましたが、空いている時間を見つけて買い物をするのは、少しむずかしいかもしれません。
 ショップと同じように人気なのは、ネコバスです。とにかくチビちゃんたちが、大騒ぎ、マックロクロスケを投げあったり、跳んだり跳ねたり、ニコニコ顔でとても楽しそうです。障害児が一緒に楽しむのは、少し難しいかも。よほど空いていれば可能性はあるかもしれませんが、娘はしばらくスタッフの人と空くのを待ちましたが、諦めました。ちなみに乗れるのは小学生以下です。
 屋上から美術館を見守っている「天空の城ラピュタ」に出てくるロボット兵、美術館に着いた時、空高くそびえたち、一番に出迎えてくれる美しい姿に会いたいという思いがあり、屋上から下りてくる人たちをスタッフの人に止めてもらい、娘(120センチメートル、20キログラム)を抱いて、車いすを担いで上りました。思ったより、らせん階段は広く感じました。今にも動き出しそうなロボット兵の肩に小鳥が止まってさえずり、私たちを抱き上げてくれそうな、そんな気持ちになることができました。でも電動車いすや体の大きな障害者は、どうしたらいいんだろうと思ってしまいました。天候や混み具合によっては、屋上に上がるのは難しいかもしれませんが、スタッフの人たちに相談してみてください。
 遊び疲れたのでカフェ「麦わらぼうし」でひと休み。カフェもとても混んでいるので1時間待ちは、覚悟していたほうがいいかもしれません。私たちは月曜日だったせいか約30分ほどで入ることができました。メニューは、素朴で有機農園からやってきた力あふれる素材を使っています。私たちはボリュームたっぷりの“くいしんぼうのカツサンド”(950円税別)やチョコレートパフェ、コーヒー、アイスティーを注文しました。カツサンドやパフェには、トトロやジジの旗が付いていて、記念に持ち帰りました。アイスティーに付いていた麦のストローは、作業所で作った物だそうです。カツサンドはとてもおいしくて、好き嫌いの多い娘も喜んで食べていました。カフェに出るエレベーター横の扉は、少し狭く、観葉植物が置いてあるのがちょっと気になりました。
 私にとっては、季節の光や風を感じながら大好きなアニメーションの楽しい発見のできる不思議な空間の美術館でしたが、なかにはテーマパークのように思っているお客さんも多いように思いました。
 館内はバリアフリーを取り入れているのですが、やはりすべてが、そうなるのはなかなかむずかしいのかなとも感じました。
 もちろんパートナー犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)は、すべての施設を利用することができます。点字ブロックについては、館内全体を誘導するようにはなっていなく、階段など段差のある所を中心に設置されています。その他、貸し出し用の車いすも用意されています。
 今回、取材を通して、建物のバリアフリーだけでは障害のある人もない人も一緒に楽しむことはむずかしく、それと同じように大切なのは、同じ空間にいる障害のない人たちの心のバリアフリーだと改めて思いました。もちろん、美術館のスタッフの方々がそのための努力をされていることは感じることはできました。ぜひ、ジブリ美術館から、建物も人の心もバリアフリーが発信され、これからもずーっと自然や人とともに私たちに、いろいろなメッセージを送りつづけてくれることを心より願います。

(まつざきゆかり 東京都立川市在住)


TEL 0570―055777
(ごあんないダイヤル)
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