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ハイテクばんざい!

車いす専用クッションの選び方

木之瀬隆

 今までは、車いすを利用する方で車いす専用クッションの配慮がなされる方は、脊髄損傷や神経疾患で臀部の感覚が脱失していて、自分で除圧できないなどの理由から褥(じょく)そうができている方などが対象でした。また、片マヒなどで車いすを自分で操作できる方は除圧も可能で車いす専用クッション(以下、車いすクッションと略します)は必要ないと判断されてきました。しかし、シーティングの考え方が入ってきて、車いすと車いすクッションの考え方が変わってきました。
 みなさんはスリングシート(折りたたみ式車いすの布張りシート)の車いすを格子代わりに1時間以上座ったことがあるでしょうか。障害のない方が座った場合でも、30分程度座ったところで、お尻が痛い、腰が痛い等の訴えが多くなります。このことはスリングシート車いすの椅子機能が低いことを表しています。いままでの日本人の生活は床座の生活が基本であったために、椅子について十分考えられていませんでした。
 人が座ることについてのリハビリテーション工学の領域に「シーティング」があります。日本語にすると「座ること、座ることを考える」とでも意訳しましょうか。欧米からこのような考え方に基づいた車いすクッションが多く輸入されるようになってきました。椅子座位姿勢と車いすクッションの選び方についてお話したいと思います。

1 椅子座位からみた車いすスリングシートの問題点

 車いすは歩けない方、重度障害のある方が使用するわけですが、車いす専用クッションの選択を考えるうえからもスリングシートの問題点を理解する必要があります。車いすは座シートも背シートも布張りであるために不安定な座面となっています。第一に骨盤の後傾として腰が後ろに倒れてしまい、すべり座りや仙骨座りになります(図1)。第二に脳卒中などの半身マヒでは骨盤の回旋が起こりやすくなります。第三に骨盤が水平にならなければ骨盤の傾斜により一方へのかたよりが生じ、骨盤の回旋と傾斜により脊柱の代償として側彎といわれる背骨の曲がりが出てきます。スリングシートの車いすに座るとだれでもこのような問題が発生し、とりわけ座る機能が低下している高齢者や車いす利用者にとっては深刻な問題です。これらの解決策は車いすの椅子機能を高めることにあります。介護保険では身体拘束の禁止規定がありますが、車いす上での身体拘束の解決にはシーティングの対応をすることで問題は解決します。

図1/車いすスリニングシートの問題点
図1 車いすスリニングシートの問題点
a.骨盤の後傾 b.骨盤の回旋 c.骨盤の傾斜

2 よい椅子座位姿勢と車いすクッションの役割

 欧米では基本的な椅子座位姿勢が提案されています。座位姿勢が安定する基本は骨盤にあります(図2)。骨盤の位置が安定することで、他の身体部位の位置が決まります。骨盤はわずかに前方に傾斜した状態で、この姿勢を中心に、骨盤が前方や後方へ傾くことで、活動姿勢あるいは休息姿勢となります。この座位姿勢は他の動作へ移る基本姿勢であり固定されたものではありません。車いす上でこの姿勢を作るためには、車いす専用クッションが必要不可欠です。身体障害者手帳では円座という言い方をしています。この中にはドーナツ型円座も含まれますが、欧米では車いすには使わないように指導されています。姿勢の崩れと褥そう予防の機能がないということです。
 国内ではお尻が痛いとか、褥そうができやすい場合に車いすクッションを処方しますが、シーティングでは、スリングシート上での姿勢の安定と褥そう予防の目的に使用します。基本的な格子座位姿勢に近づけるためには、立体形状の座クッションと背クッションが必要になります。背に使うクッションには腰部を支えるランバーサポートもあります。また、脊柱の変形のある方や車いすに座れない方には座位保持装置と言われる補装具を使用します。

図2/基本的な椅子座位姿勢
図2/基本的な椅子座位姿勢

3 車いすクッションの選び方

1.車いすクッションの種類とその特性

 身体障害者手帳では車いす付属品として修理基準付属品の中にあります。円座大、円座小、フローテーションパット、円座(特殊空気室構造のもの)として分類されています。このほか、クッション素材と臀部を受ける形状とその機能により分類されますが、現在市販されているクッションは多種多様であり、国内では明確な分類はありません。ここでは、材質と座位保持の観点から簡易に整理しました(表)。フォーム材はウレタンクッションやラテックスクッションを指します。形状としては箱型(図3-1)や臀部形状のタイプがあり、これらは車いすを使用する方の車いすクッションの基本です。低価格の物が多く、入手しやすいですが、劣化しやすいので定期的にカバーを開いて、粉がふいている状態であれば取り替える必要があります。次にゲル材としてゲル状の半流動体を密封したものです。箱型のタイプは従来から使われていましたが、近年よく使われるタイプは、臀部形状のフォーム材とゲル材を組み合わせて坐骨結節部圧力を減圧できるタイプです。座と背と組み合わせて座位保持の難しい方に使うこともあります(図3-2)。もう一つの種類は空気室材のクッションで、一つあるいはいくつかの袋に空気を注入し、ある程度空気を抜くことで接触面を広げ、圧力の分散を行うものです(図3-3)。空気量の調整が重要で、空気量の調整によっては減圧効果が低くなったり、姿勢が崩れる原因となるため、専門の人の調整が必要になります。この種頬にも臀部形状のものがそろってきており、褥そう予防効果が高いとされています。

表/車いす専用クッションの分類(簡易版)

材質 形状 特 徴
フォーム材 箱形 座り心地の向上
臀詐形状 座り心地・姿勢の安定
ゲル材 箱形 減圧効果
臀部形状 減圧効果と姿勢の安定
空気室材 箱形 減圧効果
臀部形状 減圧効果と姿勢の安定

図3/車いすクッションの種類
図3/車いすクッションの種類

2.選ぶときの注意点と入手方法

 日本の習慣では、車いすのスリングシートに座布団を敷くことがありますが、シーティングと褥そう予防の観点からは明らかに誤りです。すべり座位になりやすく、褥そう予防の効果は期待できません。車いすを利用する方は前記の車いすクッションのいずれかを使用する必要があります。車いすを選ぶ時と同時に、車いすクッションを選ぶ必要があります。車いすクッションは一般には5cm~10cm程度の厚みがあるため、肘かけの高さ、フットレストの高さが合わなくなる場合があります。身体機能や褥そうの発生状況によってクッションはフォーム材からゲル材や空気室材に変える必要があります。そのため、車いすも調節機能のあるモジュラー車いすを勧めることが多くなってきました。モジュラー車いすは車いすクッションを変えてもアームレストの高さやフットレストの高さ調節が行える特徴があります。褥そうについては臀部の発赤がみられた時点で医療機関の指示を受けることをお勧めします。
 また、介護保険では車いす付属品として車いすクッションが扱われ始めています。車いすクッションを選ぶ際は、試用することが大切です。福祉用具の展示場や介護ショップのものを1時間程度試用することで、座り心地と使い勝手がわかります。できれは2種類くらいの車いすクッションを数日、試用して決めるとよいでしょう。

(きのせたかし 東京都立保健科学大学)

【引用文献】
 1.「車いすの選び方・使い方』日本リハビリテーション工学協会編、2000年3月
 2.『車いすクッションの使い方とメンテナンス』廣瀬秀行、他、リハビリテーション・エンジニアリング Vol.16 NO.3 2001年、P11-13