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ほんの森

地域で生きる
自立をめざす重度障害者の自分史から

AJU自立の家 編集

評者 三好明夫

 「はじめに当事者ありき」の社会福祉実践の方向性を考える時、近年特に、真の地域福祉実践の必要性が不可欠とされている。ここでは、徹底して当事者の人権を擁護するとともに当事者の主体性を十分に尊重した福祉実践が待たれている。換言すれば、地域で暮らす住民すべてがともに手を取り合って人間らしい生活が継続できる当たり前の地域社会の実現である。
 だが、現実はどうなのだろうか。当事者の希望や要望とは別に、まるで地域とは隔離された福祉施設や専門職員集団によって「安全」や「危険回避」という名の下に一方的な規制や管理や指導が行われているのではないだろうか。
 「地域で生きる-自立をめざす重度障害者の自分史から-」はタイトル通りにその答えを障害者である7人の執筆者が、地域での厳しい生活状況にあっても介助ボランティアの参加や経済基盤となる就労を通じて、あるべき「生活の質」とは何かを実体験による珠玉の言葉で語りかけてくれる。「AJU自立の家」にかかわった性別も年齢も障害の程度も生活歴も家族構成も違った障害者が話し合いながら自分史を書き、公表することの勇気と膨大なエネルギーは容易なものではない。だが、けっして平坦な道程ではない歩みを精一杯に書き終えて、彼らは見事に「自立と自律を勝ち得た」のである。その彼らをサポートしているのは「自立の家は障害者自身のものである」とするゆるぎない理念であり真摯な取り組み実践である。後半部分の自立の家10年の事業史の中にも生命の迸りのごとくまとめられている。また、日頃から自立の家とさまざまにかかわりを持ちながサポートを続けている地域の支援者たちの姿勢や言葉の中にもはっきりと見出すことができる。「完全参加と平等」の標語を過去のものにしない真のノーマライゼーションの社会づくりの提言がなされている。この自立の家の歩みと自分史は「当事者主体」「社会参加」「脱施設」「脱管理」「社会変革または運動」などのキーワードを含みながら近年強く叫ばれる「エンパワーメント」の必要と理解を、実は見事に解説しているのである。専門書とは一味違う活(い)きた生身の地域福祉実践の実例がここに集約されている。地域に生きるすべての人の必読の1冊である。

(みよしあきお 東京家政学院大學)