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カナダオンタリオ州における
セルフマネジドケア
介助料直接支給事業に見る契約制度

中西正司

1.はじめに

 支援費制度の導入に伴って、措置から契約への流れができ上がってきた。当事者の権利性が制度上は謳(うた)えるようになってきたのであるが、これを実態としての当事者の自己選択・自己決定、当事者主体のサービスという現実のものとしていくにはまだ道程がある。たとえば、居宅介護サービスにおいても事業所の代理受領方式が取られるなど、直接支給ではなくワンクッション置いたものとなっている。真の当事者主体のサービスを実現していくためには、当事者の管理能力などのスキルアップを行うなどの当事者をエンパワメントするシステムを組み込んだものにしなくてはならない。
 そのためには、法制度上も契約行為が、これまでの国、都道府県、市町村、事業者という流れで止まってしまうシステムを、当事者本人を契約相手として加えていく大きなシステム変更が必要となる。
 ニーズ中心にサービスを運営しようとするならば、業者と契約するべきではなく、利用者と契約すべきであろう。このことをいち早く実現している国がある。それがカナダである。ここではカナダの所得保障と在宅サービス制度の特色を見ながら、なかでも在宅サービスが特に進んでいるオンタリオ州におけるセルフマネジドケア介助料直接支給事業を中心に見ていくことにする。

2.所得保障の現状

 カナダの所得保障制度は、年金制度、労災補償制度、雇用保険制度、児童給付、社会扶助の5類型がある。そのうち、児童給付、社会扶助の二つのみが、無拠出給付である。その他は、社会保険方式をとっている。
 社会扶助制度は1966年に導入されたカナダ扶助制度に始まる。それ以前は、連邦政府がカナダ年金制度、補足所得保障、若者手当とメディケアを担当し、各州が高齢者扶助、視覚障害者扶助、障害者手当、失業扶助を行い、これを連邦政府が支援する方法で行われてきた。社会扶助制度の導入によってこれらの制度は統一され、連邦政府が社会扶助の費用の半分を負担し、実施責任は州政府が負うことになった。
 96年になって経済状況の悪化からカナダ保健・社会財政移転制度が導入され、医療保険、高等教育と社会扶助が統合され州政府に一括給付されることになり、州政府は補助金の効率化を図らざるを得なくなり、大規模な福祉改革が行われた。
 在宅ケアについては、世界の先進国と同様に、施設から在宅へという流れに乗っている。在宅ケアはカナダ保健法によって多くがカバーされており、実態は連邦法と州の運営で成り立っている。
 その変遷を見ると、1997年にNational Forum on Health(全国保健フォーラム)により、在宅ケアは公的サービスの一部であることを明確にした。それによって連邦政府は在宅ケア拡大に乗り出した。1998年 National Home Care Conference(全国在宅ケア会議)で、在宅ケアのためのシステムは包括的で統合されたものであることが報告された。1999年 Home Care Development Unit(在宅ケア開発ユニット)によって在宅ケアに関して、連邦政府から州政府への健康政策の移管が行われた。これにより、財政的支援は、Canada Health and Social Transfer(カナダ保健社会移管)という名称で増大した。そして、その後、医療と在宅ケアは州が責任をもって行うことになった。このような歴史的変遷を経て生まれてきた制度の中の一つが、オンタリオ州の介助料直接支給事業である。

3.オンタリオ州のセルフマネジドケア介助料直接支給事業

 オンタリオ州保健省の長期介助部の下で行われ、トロント自立生活センター(CILT)が委託事業者となっており、事業資金はオンタリオ州自立生活センター・ネットワークを通じて提供される。1998~9年に州政府と障害者が共同で行った直接支給制度と障害をもつ大人の自己管理モデル事業に基づいて制度化されたものである。
 本事業では障害者が雇用者で、直接介助者を雇用、訓練、監督、解雇する責任を持つ。障害者は支給金を直接受け取り、雇用者にかかわるすべての責任を引き受ける。直接支給方式事業の目的には、以下のようなものがあげられる。障害者の自己管理型サービスモデルの確立、自己選択・自己決定の促進、自立の促進、社会統合・社会参加の促進があげられている。
 自己管理では、障害者が直接支給介助サービスの責任を全面的に負っている。このサービス料には社会保険料や税金等の支払業務も含まれて支給されており、障害者が責任を持って支払うか、自立生活センターが代行してこの業務を行うことになる。
 介助料の支給は障害者の特定の銀行口座に対して直接支払われ、介助者への支出も支払先を限定したこの口座より行われ、透明性を保障している。障害者に対しての支給額は、自己申告と自立生活センター・ネットワークとCILTのスタッフによるピアアセスメントを通じて行う。
 セルフマネジドケア介助料直接支給事業は、利用者であるセルフマネジャーと介助者から圧倒的支持を受けている。彼らの経験は、サービスを必要とする障害者に直接介助料を支払うことにより、また介助サービスを自分で管理することによって、障害者の生活の改善、社会参加において、また経済への貢献においても大きな進展が見られた。
 コストの面では、既存のホームヘルプサービスと比べても30%の削減、ケア付き住宅との比較では50%もの費用削減になった。また救急車を呼ぶ回数が減り、病院に1日以上入院の日数も減った。モデル事業参加者280人においては、長期介護施設やリハビリテーション施設の入所日数も250日以上減った。これはセルフマネジャーが受けられる介助が増えたため健康状態が改善され、また介助の時間割をより自由に融通姓を持って決められるようになったおかげである。
 その一方で、報告のあった数少ない問題点は、この事業の特色である本人による介助者管理や、介助記録をつけなければならないことを必然的に伴うものであった。この点を指摘した障害者の数が非常に少なかったことは、驚異的である。
 契約制度につながる本事業の管理責任者である介助利用者の介助者管理技能については、利用の回を追うごとに向上しており、必要度に応じた管理技術の支援という意味では、個々人の介助者管理の必要度に応じて、その支援のために必要な資金をCILTおよびオンタリオ州自立生活センター・ネットワークと契約を結び助成し、たとえば、介助者の給料の支払等の事務を介助者管理の作業からあらかじめ除外する契約を結ぶことを可能にした。

4.オンタリオ州Mississauga 地域生活(CLM)個別支給金制度試行事業

 コミュニティーと社会サービス省(Mississauga Area Office)が管轄するこのCLM個別支給制度試行事業は、独自の自己管理介助の一例で、障害者が財政的に責任を持ち、自由に自分の裁量で使うことのできる支給金として高い評価を受けている。本事業は、個人がどのようにコミュニティーで生活し、どのように個人の健康や社会支援を計画したいと願っているかの個人的見解を育てることを可能にする。個別支給とは、個人の必要性に基づいて既存のサービス源と、それでは足らないサービスの必要を満たす費用を本人に直接支給することである。この支給を使って、個人は自己の必要性を満たすのに最適と思われるやり方で、ものやサービスを手に入れることができる。
 個人が当プログラムの核である。それは個人の希望、選択、支援の重要度に重点が置かれているからである。さまざまな必要性を持つ個人に厳格なシステムを押し付けることは好ましくないことである。個別支給プログラムは、障害者が人生において必要性の変化に応じて、いろいろなニーズを満たすことのできる機会を与えることになる。
 当プログラムは、自己決定、個人の平等と尊厳、そして参加という重要な原則を反映している。この原則は個別支給プログラムの中で活かされ、相互支援関係、自己充足、自己尊重、個人の満足と幸せを育成するのを助ける。

5.おわりに

 施設から在宅へ、そして管理や保護から主体性や自己決定へ、そしてさらにサービスの受け手から担い手や管理者へ、という世界の流れは速い。日本はまだ第1段階も十分に卒業したと言えない状況にある。理念の受容は第2段階まで来た。支援費を契機に、第3段階に一挙に突入しようではないか。この論文がそのことに少しでも寄与できれば幸いである。

(なかにししょうじ ヒューマンケア協会代表)


参考文献

●チョン・ジョンハ編『当事者主体の介助サービスシステム―カナダ・オンタリオ州のセルフマネジドケア』1999年、ヒューマンケア協会
●仲村優一他編『世界の社会福祉9アメリカ・カナダ』2000年、旬報社