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精神障害者の自己決定を育むもの

良田かおり

 平成14年、精神障害者に在宅福祉サービスが提供されることになった。自立と社会参加の理念の下にようやく精神障害者の地域生活実現に向けての基盤が作られようとしている。実際、精神障害者は長い間「隔離」と「保護」の状況に置かれていた。現在もなお10万人以上の社会的入院者がおり、在宅の精神障害者の約8割が家族と同居し、親兄弟の扶養を受けて生活している。
 今、自分の意志による選択と契約が、福祉サービスの利用や日常生活におけるさまざまな場面で求められようとしている。精神障害者が自己の意志を尊重され、一人の市民として主体的に生活することは実現してほしいが、しかし多くの問題がその前に立ちはだかっている。その一つは、精神障害者には保護する者が必要だとする社会の意識と国の制度「保護者制度」である。もう一つ大きな問題は、精神障害者の所得保障の課題である。
 精神障害者の「障害」は「生活のしづらさ」とも言われる。それは対人関係面、就労の面、日常生活面でさまざまな形で見られる。特に就労面でほとんどの精神障害者が、普通に生活を営むことのできる収入を得ることが困難である。そのうえ数多くの無年金者が存在する。
 精神障害者の多くは20歳前後に発病するが、病気に気付かず、あるいは精神科受診への抵抗から受診が遅れることが少なくない。その間の生活の混乱、医療費の重圧などのために保険料が支払えず、受給資格を失ってしまったというケースが実に多い。こうした人々は精神障害のために収入を得られず、年金もなく、年老いた親に衣食住小遣い、すべてにわたって頼らざるえない。障害者の生活を丸抱えし医療費の負担も加わって、世帯の生活は貧しくなっていく状況で、精神障害者が生活する力、主体性を養い、自己決定を求められることには無理があるのではないか。
 最近、ホームヘルプサービスの提供や、地域生活支援センターの設置、地域福祉権利擁護事業など、精神障害者の地域生活を支えるケアのメニューが広がってきたことはうれしいことである。大いに活用したい。しかしこうした福祉サービスを自らが選択し、利用する力は、家族の精神的、経済的保護に依存していては育まれないだろう。精神障害者の真の自己決定には、利用しやすい制度の提供と、自立を可能にする所得の保障が不可欠である。

(よしだかおり 全国精神障害者家族会連合会相談室)