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契約制度の前提には年金の改善を

高橋芳樹

 年金の財政の再計算は5年ごとに行われる。次回の財政再計算期には、女性の年金権問題とくに三号問題が大きく取り上げられそうである。男性中心に組み立てられていた社会保険制度は曲がり角にきているのである。
 ところで、年金の空洞化が言われて久しいが、政府は国民皆年金についてのこれまでの考え方を改めていない。学生無年金障害者の訴訟に対し、国側の弁護人は、保険料を拠出したものに年金を支給するのが皆年金であると主張している。しかし、強制加入制度の下では、さまざまな理由で拠出できない者が生じるのは避けがたい。無拠出制度を充実させ、拠出制度を補完することが求められているのである。
 今、世の中の流れとして、福祉を契約制度に変更する方向へと進んでいるかに見える。しかし、障害者が福祉制度を活用し地域で暮らしていくためには、なによりも所得保障の充実が先決である。拠出の網の目から漏れた者には、無拠出の制度で補い、生活保護基準をも下回る基礎年金は額を引き上げなければならない。厳しすぎる併給調整も改善する必要がある。
 障害認定基準も、問題は多い。軽度の知的障害者は不況の中で働く場を奪われている。年金も労働も保障されなくなっている。また、高齢化の進行の中で、肝臓病や糖尿に悩み、仕事につくことのできない中高齢者も増えている。障害者と健常者の間のグレーゾーンに落ち込み、労働からも年金からも阻害されているのである。健常者は賃金で、障害者は年金で、という単純な割り切り方では実情に合わない。従来の障害認定基準の見直しが必要である。
 年金制度が複雑になりすぎ、実務面でトラブルが増えているのも問題である。そのうえ、カルテの保存期間が5年という問題はいまだに解決していない。障害年金の請求者の大多数は、遡及請求者である。初診から1年6か月目の障害認定日に障害年金の申請をするほうが少数である。こんな現状の中で、多くの障害者は、初診日の証明書を取るために、必死の思いで努力を続けている。運がよければ幸いであるが、運が悪ければ無年金となる。制度の建前と現実とはあまりにもかけ離れている。
 皆年金の理念を実現させること、障害年金制度を障害者だけの問題と考えないこと、制度の抜本的改善に向けて政策検討を行うこと、福祉の契約制度導入にあたり、年金制度の改善に向けて検討を行うことを強く訴えたい。

(たかはしよしき 大手前社会保険事務所管理大阪東レセプト点検事務所)