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障害の経済学 第26回 最終回

支援費制度の意義

京極高宣

はじめに

 いわゆる社会福祉基礎構造改革の一環として、平成15年度より、身体・知的障害者福祉に関してこれまでの福祉措置制度から利用契約制度への方向転換が行われます。それに伴い、従来の措置費でなくて支援費が支給されることになります。今回は本連載のいわば最終回として、支援費制度の経済的意義について考えてみたいと思います。

1 個人給付としての支援費

 まず、支援費制度の特色について述べれば、従来の福祉措置制度と異なります。すなわち障害者が福祉サービスを利用する場合に、施設サービスであれ、居宅サービスであれ、事業者(施設等)に財政支援するのではなく、利用者の選択により、利用者個人に財政支援が行われるのです。ただ、代理受領といって、実際には指定事業者等が利用者への支援費を市町村から直接受けることになります。それによって事務手続きを簡素化しますが、支援費が個人給付という性格をもつことの本質は変わりありません。したがって、金額の高低を云々する前の議論として、福祉サービスの選択を行政サイドでなく、利用者サイドから決定できることが特徴であり、それがノーマライゼーションの理念に照らしてもより妥当なものと言えます。
 もちろん福祉措置制度から継承する側面も残されており、それが社会保険でなく、税方式に基づく社会援助である限り、応能負担による費用徴収は不可避です。より具体的には、(1)厚生労働大臣が支援の種類ごとに定める基準を下回らない範囲で、市町村が定める基準から、(2)支援の種類ごとの基準に基づく応能負担による利用者負担額を引いたもの〔(1)マイナス(2)〕が支援費の金額になり、当該事業者は市町村から個々の利用者への支援費総額の支給を受けることになります。それは原則的には、従来の措置費総額とほぼ同額となるでしょう。しかし、それはあくまでも平均であって、福祉サービス水準が高く利用者に人気のある事業者には目一杯の支援費が支給されても、福祉サービス水準が低く人気のない事業者には、支援費はあまりこないかもしれません。そこに事業者間の品質競争があり、絶えざる事業者の努力が求められるゆえんです。
 また個人給付という性格からは、その代理受領をした事業者の収入(支援費総額)の内訳に関しては、従来の措置費よりは縛りが少なく、より弾力的な財政運営が期待されるところです。

2 利用者の後方支援システム

 すでに触れたように支援費は、福祉措置から利用契約への制度変更に伴うものです。そこからほとんどすべてを行政責任で行う福祉措置制度と異なって、利用者も責任を持って事業者と対等の契約を行うことが必要となります。とはいうものの、利用者は各種の障害をもち、しばしば判断能力に欠ける人たちも含まれることから、保護者のみならず何らかの後方支援をする人々(成年後見人等)や権利擁護システムが不可欠です。
 言い換えれば、平成15年度から発足する支援費制度は、すでに平成12年に制定された社会福祉法に基づく地域福祉権利擁護事業、また同じ時期に一部改正された民法に基づく成年後見制度を積極的に活用することが必要です。特に後者の法定後見においては、家庭裁判所の審判により、成年後見人、補佐人、補助人が選定され、権限に応じて法定代理権などが付与されますので、たとえば知的障害者福祉にも市町村長の申し立てなどにより十分に対応できるものです。
 むしろ、こうした利用者の後方支援を抜きにした利用契約制度化は、表面的には美辞麗句で語られても情報の非対象性などから利用者にきわめて不利に働きかねない危険性を伴います。したがって、こうした後方支援システムを生かして、障害福祉サービスの利用者へ権利擁護の実を上げなければ意味がありません。
 また、日常不断の福祉サービス評価システムを確立させることや、障害分野のケアマネジメントを構築することも不可欠です。
 いずれにしても、障害福祉サービス事業者は利用者から選ばれることが必要であり、そのためには何を行うべきか真剣に考えなければならない時期にきています。やや抽象的になりますが、事業者の努力が報われ、利用者から選ばれるサービスとなるためには、第一に利用者と事業者の関係が、より実質的な対等の関係になること、第二に各事業者の福祉サービス情報が適切に提供される偉大な「福祉市場」(古都賢一名古屋大学助教授の言葉)が形成されなければならないでしょう。これらのためには、きわめて多くのさまざまな条件整備が必要ですが、それについては省略させていただき、21世紀の福祉課題として国民皆で作り上げていかねばならないとだけ指摘しておきます。とりわけ支援費制度をより豊かなものに成長させていくには、わが国の社会福祉界で中軸となっている社会福祉法人の役割と責任が、きわめて大きいと思います。

むすび

 たった2か年と2か月(演歌の題名みたいですが)、26回にわたった私の連載〈障害の経済学〉をとりあえず、ここで終了させてもらいます。長い間のご愛読に深く感謝させていただきます。障害をめぐる経済学的話題は、たとえばワークシェアリングと障害者雇用などこれまで私が述べた範囲をはるかに越えた無数の難題が山積していますので、将来こうしたテーマに挑戦されるより専門的な経済学者の積極的なご参加を期待して、筆をおくことにしたいと思います。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)


〈参考資料〉
京極高宣「ノーマライゼーションの理念の具現化を」経営協、2001年12月