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ケアについての一考察

当事者主体の介助制度を

友村年孝

 私の障害は進行性筋ジストロフィーで、日常の生活では電動車いすを使用しています。年齢は48歳。15年前に自立生活を始め、現在、県営の障害者用住宅で生活をしています。姉と弟も同じ障害をもっていますが、それぞれに自立生活を行っています。
 私は、現在、10年前に設立された自立生活センター「ヒューマンネットワーク熊本」で事務局長を務めていますが、週のうち3日間、センターの事務所に出かける生活を行っています。日常の介助は、公的なホームヘルプサービス、生活保護の他人介護手当、訪問看護ステーションを組み合わせて生活をしています。
 熊本で自立生活を行う場合、利用できる公的な制度としては、ホームヘルプ事業、全身性障害者介護人派遣事業(夜10時から翌朝8時までの間で3時間分と制限付き)、外出時に利用できる全身性障害者ガイドヘルプ事業があります。そのほか生活保護の他人介護手当、訪問看護ステーションの利用などがあげられます。
 ホームヘルプ事業については、ほとんどの地方都市でも同様だと思いますが、熊本の場合も市の外郭団体1か所に委託されており、他の派遣事業所を選ぶことはできません。こうした一社独占状態の中で、障害者とヘルパーさんとのさまざまなトラブルも起きており、自立センターの仲間たちが行政や派遣事業所と話し合いを持つ機会も少なくありません。

 現在のホームヘルプサービスでは、家の中での介助はある程度確保できるのですが、自分に合ったヘルパーさんを自由に選ぶことは難しい状態です。また、ヘルパーさんが来る曜日や時間には家に居なければならず、ヘルパー派遣の時間を多くすればするほど家に縛られてしまう結果になってしまいます。これでは、家の中での生活はある程度安心できるのですが、社会の中に参加していくことは難しくなってしまいます。もちろん、ちょっとした買い物などの介助は利用できるのですが、長距離の外出や泊まりがけの外出はできません。
 全身性障害者ガイドヘルプ事業にしても、市役所などの行政機関への外出や通院などは利用できるのですが、ショッピングやレジャーなどには利用制限があって使えません。極端な例として通院の際、行き帰りは良いが、病院内は看護師さんが介助するはずだからという理由で、その時間を省くように指導が行われています。

 2003年度には支援費支給制度が実施されます。サービス提供事業所の選択ができることによってヘルパーさんの質が向上することに期待していますが、現在行われている介護保険のように、家の中での最低限度の介護を保障するだけのものになるのではないかと心配しています。家の中だけの生活が保障されても、人生を生きていることにはなりません。
 生きるということは、社会の一員として、社会の中で多くの人たちと出会い、お互いに影響し合うことではないでしょうか。障害者の場合、年齢の層が広く、これから社会を体験する人も多くいるのです。これからの人生を一緒に過ごすパートナーと出会いたい。デートをしたい。映画を観たり、ショッピングをしたり、山や川の風景を楽しみたい…。こんなことの介助を支援費支給制度の中では認めてくれるのでしょうか。
 地方都市で自立生活をしている障害者の場合、生活保護を受けているケースが多くあります。生活保護の受給は、年金だけでは足りない生活費を補う意味もありますが、もう一つの大きな理由があります。それは、自分に合った介助者の確保と自由な外出の機会の確保です。生活保護を受けている重度の障害者は、他人介護手当という介助費を申請することができます。他人介護手当の場合、手当は障害者本人に支給されます。障害者は自由に介助者を選び、限度額内であればどんな介助にも使えます。それに障害当事者が介助者に直接お金を支払うという意味で対等の関係をつくれます。こんなに当事者主体の介助方式のお手本が現在あるのです。

 1週間、1か月を決められた予定表のままに、家でヘルパーさんを待つ介助制度ではなく、障害者が主体性をもって自分の介助体制をつくっていく。また、支援費が障害者本人に直接支払われ、障害者が介助者にお金を支払うことによって介助者との対等な関係がつくれる。こんな介助の制度ができれば、「障害も一つの個性にすぎない」と言える社会に、一歩近づくことができるのではないでしょうか。

(ともむらとしたか ヒューマンネットワーク熊本事務局長)