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視覚障害者とIT

新城直

ITは希望の技術

 ITは、視覚障害者にとっては、不可能を可能にする希望の技術です。今やITの活用によって、多くの障害が取り除かれ、社会参加とノーマライゼーションが実現される可能性が広がっています。
 現在、音声ワープロ等を用いて普通文字を書いたり、スクリーンリーダーや音声ブラウザ等を用いてネット上にある新聞等の膨大な情報を入手したり、買い物をしたりすることができるようになってきました。視覚障害者は情報障害者と呼ばれるだけに、このITを活用することで、視覚障害を克服することにつながるのです。それは、あたかもメガネを使うことで視力を取り戻すように。

ITが新たなバリアを生み出す

 ところが、これらのITの進歩は、一方で新たなバリアを生み出しつつあるのです。そのいくつかをあげてみますと、まず一つ目に、要求される技術および知識がより高度化していることがあげられます。
 現在のWindowsパソコンやホームページさらには各種のアプリケーションソフト等は、視覚的な表現が基本となっているため、視覚障害者には大変理解しにくいかあるいは、理解できないものになっています。視覚障害者がこれらのITを使いこなすためには、過酷なまでの努力が要求されているのです。より多くの視覚障害者がITを活用するためには、文字情報を単に音声化するだけでなく、音声による理解を容易にするための、よりアクセシブルな構造にしていかなければならないのです。
 二つ目には、ネットワークアクセスにおける携帯端末機の課題があげられます。ネットワーク、特にインターネットにアクセスするための道具は、パソコンだけではありません。現在急速に加入者が増えているのが、iモードを中心とした携帯端末機です。今後、おそらくこの携帯端末機を利用したサービスがいろいろなところで行われてくると思われますが、視覚障害者にとっては、これらが使いにくい状況にあります。この携帯端末機を視覚障害者にも十分に使えるようにし、さらにそれを応用すれば、たとえば、視覚障害者の外出支援あるいは、誘導支援システムとして使えるようにもなるのです。まさに情報技術がバリアフリーを進めることにつながるのです。障害者の使用を福祉政策としてではなく、むしろ積極的にバリアフリーを進め、障害者の社会参加を図ることで、新たな雇用を生み出し、障害者を納税者・消費者として位置づけ、さらには、企業は、よりアクセシブルでより多くの人に使いやすい機器が、自社の競争力を高めるという発想の転換が必要なのではないかと思われます。
 三つ目はウェブアクセスの課題です。ウェブサイト(ホームページ)は見るだけのものとは限りません。視覚障害者にとっては、主に音声ブラウザ(ホームページ閲覧ソフト)を使い、合成音によってその内容を確認しているのです。ところが、最近では、画像データを取り入れたかなり大きなファイルであっても、通信速度の高速化等によってわりとすばやくアクセスできるため、画像データをふんだんに取り入れたウェブサイトが増えています。
 視覚障害者に対する配慮を欠いたウェブの増加は、新たなバリアになりかねないのです。
 今後、電子政府や自治体サービスの電子情報化をはじめ、各企業が進めるインターネットを利用したサービスについては、だれもが利用できるものにするための、ユニバーサルデザインの考え方が必要になるのです。
 ウェブブラウザにおけるサーバーの国際標準化団体「W3C」(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)は、障害者等に対するアクセシビリティ確保のための基準を作成しており、わが国においても、これらの国際基準に基づいたホームページの作成を義務づける等の措置が必要なのではないかと考えます。

ユニバーサルデザインの考え方を
中心とした新たな法制度の整備を

 以上の他にも、多くの家電製品や銀行のATM・自動券売機・電子マネー・電子投票機等例をあげれば限りがありません。これらの課題を解決するためには、だれもが使える「ユニバーサルデザイン」の考え方が必要になります。
 そして、これらをさらにより強制力のあるものとするためには、法制度の確立が望まれ、その参考になるのがアメリカにおけるリハビリテーション法508条なのです。
 これは、米国の連邦政府の調達基準に関する法律で、連邦政府が購入するIT機器やソフトは、障害者に使えるものでなければならないという規則です。対象となるITには、パソコンのハードやソフト、電話、コピー機、FAX、そしてウェブサイトなどが含まれています。
 今や、「情報アクセス、情報発信は現代の基本的人権」とも言えるものです。この視点に立って、わが国においても、このような法制度の整備が望まれるのです。

(しんじょうただし 横浜市立盲学校教諭)