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教員の医療行為を認めよ

北沢一利

 重度障害児のための養護学校には、酸素吸入や痰の除去、経管栄養などの特殊なケアが日常的に必要な生徒がいる。ところが、これらのケアが「医療行為」にあたるということで、これまでほとんどの学校では教員が行うことを禁じてきた。そのため、生徒の保護者が毎日学校に付き添わなければならない。これが保護者の負担を増加させ、生徒の活動範囲をせばめる結果となっている。
 この問題は、以前から保護者や現場の教員から指摘されている。厚生労働省や一部の自治体では検討が進められているようであるが、完全な解決には至っていない。そこで、教員が医療行為を行えるような方向で、一つの打開策を提案しよう。
 重度の養護学校では、1人の教員が受け持つ生徒の数は少ない。十分な目配りが可能である。どの生徒にどのケアが必要であるのか、教員はあらかじめ承知している。だから、計画的に準備を進めることが可能である。まず、教員は自分が受け持つ生徒に必要なケアを安全にできるように、保護者と一緒に時間をかけて練習する。経管栄養などは慣れるまでなかなかたいへんだ。生徒の主治医に面会し、必要な注意を受けてから行うようにしたらいい。それが済んだら、学校側がケアを代行することに対する承諾を保護者から得る。これは文書で残す。以上の準備が整ったら、その担当教員がケアを行うことを認める公式な機関決定を学校全体で行う。担当教員は、生徒にケアを行った場合、それを記録に残して保存しておく。こうした「手続き」や「実施基準」を事前に定めておけば、医療行為であろうと教員が行うことに問題はない。保護者も安心して教員に任せられるはずである。
 医療行為は医師法で禁じられているので、本来ならば教員が行うことはできない。しかし、それを文字通り解釈して教員がこれを回避したらどうなるか。保護者の負担が増えて、生徒の通学が制約される。親が風邪をひけば、生徒は学校に行けなくなるのである。修学旅行にも参加しにくい。そうなると、彼らの教育を受ける権利を十分に保障することができない。これでは、憲法及び教育基本法に定められた教員の義務に反することになる。
 たとえば、教員が医療行為である経管栄養を避けて経口で栄養を与えたりすれば(実際にあった話だが)、かえって危険が増大する。それだけではない。もし教員による痰の除去や酸素吸入などのケアを禁止したならば、緊急の場合、学校は生徒の安全を保障することができない。これは、学校保健法上に定められた教員の責任を放棄することになる。
 つまり、教員の医療行為の禁止は医師法を守ることにはなるが、教員の責務を定めた諸法には違反することになるのである。
 医師法にある医療行為の禁止は、無免許診療などから国民を守るという「安全確保」が理念である。危険を増大するような結果につながってまで、同法を守り通すような滑稽(こっけい)な事態だけは避けるべきである。

(きたざわかずとし 北海道教育大学)