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新連載 みんなのスポーツ 第1回

さまざまに展開する障害者のスポーツ

田川豪太

はじめに

 現在、米国ユタ州のソルトレイクシティにおいて、冬季パラリンピックが行われています(原稿執筆時は平成14年3月9日)。前回の冬季パラリンピック長野大会(1998年)で日本選手が活躍したことから、障害者のウインタースポーツについても社会的な認知が高まり、TVや新聞を始めとする各種メディアに取り上げられるようになってきました。

 さて、本誌の読者の方であれば、周知の事実であると思われますが、パラリンピックは戦傷による脊髄損傷者に対するリハビリテーションの一環として、英国の病院で取り入れた活動がその発端となっています。それから約50年が経過して、現在に至っている訳ですが、この間、障害者のスポーツは種目や対象者をどんどん広げてきました。

 本稿では、これまでのスポーツ活動の展開と、今後予想される方向性について簡単にまとめてみたいと思います。

1 これまでのスポーツ活動

 「はじめに」でも少し触れましたが、現在の障害者のスポーツ活動は脊髄損傷者に対するリハビリテーションとして取り入れられたのがその始まり、とされています。つまり、その時点では、対象者は脊髄損傷による両下肢マヒに限られていました。彼らは車いすを巧みに操作し、車いすバスケットボールや車いすマラソン、車いすテニス…とその実施種目を拡大していきました。今でも障害者のスポーツと聞けば、車いすに乗ってプレーするものをイメージするのではないでしょうか。そして、この種目の拡大は今も進められており、今後もさまざまな種目が生まれてくると予想されます。

 ところで、同じ脊髄損傷でも頚髄のレベルで損傷すると、両下肢に加えて両上肢にもマヒ(一般に四肢マヒ)がおよびます。脊髄損傷の両下肢マヒのレベルと比較すると、頚髄のレベルで損傷した四肢マヒの場合は障害が重度である、ということから、あまりスポーツが行われていませんでした。それでも徐々に種目が整備され、現在はツインバスケットボール(車いすバスケットボールを基本に頚髄損傷者が実施するように改良された種目)や車いすラグビー(北米地区で開発された頚髄損傷者用の種目)などが行われています。

 このような流れは、ある障害のスポーツが拡大、普及してくると、次により重度の対象者に対しても移植されていくという意味で、これまでの障害者のスポーツ活動の発展過程をよく示す例となっています(図1)。そして、このような流れを生み出すためには、当事者は無論のこと、スポーツのルールや道具を工夫したり、実施に際してさまざまなサポートを献身的に行っている人たちの努力が欠かせないモノ、となっていることはいうまでもありません。またここでは、脊髄損傷に限った流れを示しましたが、他の障害についても程度の差こそあれ、ほぼ同じような形態で障害者のスポーツが整備されてきた、といってよいでしょう。

図1/障害者スポーツの発展例
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図 障害者スポーツの発展例

 さらに、身体障害だけでなく、知的障害や精神障害についてもさまざまなチャレンジがなされており、特に知的障害に対するスポーツは近年、大変活発になってきています。以前は「全国身体障害者スポーツ大会」と「ゆうあいピック」という形で分かれて実施されていた、身体障害と知的障害の全国大会が、平成13年から一本化されて全国障害者スポーツ大会となったのも、知的障害のスポーツ活動の成熟が根底にあると思われますし、逆に一本化されたことによって、今後なお一層の発展が見込まれるでしょう。いずれにしても、約50年前に始まった障害者のスポーツが、対象とする障害の拡大・より重度の対象者への普及・種目の充実といった望ましい方向へ進んできた、と言えそうです。

2 これからの展開

 ここまで述べてきたように、障害者のスポーツ活動はさまざまな発展をしてきましたが、ここで現在行われている各種の活動を少し整理してみたい、と思います。筆者は障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下、横浜ラポールとする)に勤務しているので、横浜ラポールにおける実施状況を中心に考察せざるを得ませんが、現在の障害者のスポーツ活動は、一応図2のように整理できると考えています。

図2/現在のスポーツ活動
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図 障害者のスポーツ

 一つはリハビリテーションの一貫として行われるスポーツ活動。これは、障害者のスポーツ活動の原点であり、現在でも各地のリハビリテーションセンターなどで行われています。次にレクリエーションとしてのスポーツ活動。これは、余暇活動として障害者スポーツセンターなどで行われます。3番目はフィットネスとして、健康志向で行うトレーニングなど。これはやはり障害者スポーツセンターや一般のスポーツセンターなどで行われます。そして最後に、パラリンピックに代表される競技スポーツ。
 以上のような四つの方向で、現在のスポーツ活動は実施されており、それぞれの方向で先に述べたような対象障害の拡大・重度障害者への普及、といった発展をしていることになります。そして今後は、この四方向でさらに対象者や種目などが拡充していきながら、それぞれの内容の質もより高まっていく、といった展開を見せていくでしょう。特に対象者の拡大という面では、身体障害や知的障害に比べてやや遅れがちな、精神障害の分野の整備が進むと思われます。
 他方、これまでの方向性にはなかった動きも予想されます。これまでの方向ではすべて、障害者が自分でスポーツを行う、という視点で見てきたものですが、自分でする、すなわち「Do Sports」という視点では、どんなに重度の障害者への対応が進んでもやはり限界があり、一部の対象者ではスポーツができない、ということになります。そこで少し見方を変えて、「Do Sports」ではないスポーツとのかかわり方を模索してみたのが図3です。従来型の「するスポーツ」だけでなく、「みるスポーツ」・「つたえるスポーツ」・「つくるスポーツ」といったかかわり方が考えられます。たとえ自分ではスポーツをできなくても、このようなかかわりを通してスポーツに参加する機会が増えることは、障害者のスポーツ活動の展開を考えるうえで今後重要となってくるでしょう。

図3/スポーツへのさまざまなかかわり方
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図 スポーツへのさまざまなかかわり方

3 まとめ

 以上、大変簡単ですが、障害者のスポーツ活動のこれまでの動きと現状、そして今後の展開について述べてきました。この後、連載では重度障害者に対する取り組みや「するスポーツ」以外のスポーツとのかかわりなど、斬新(ざんしん)な切り口の論文が20数回にわたり掲載される予定です。それぞれご専門の先生方による執筆となるので、私自身連載が大変楽しみであると同時に、それらのイントロダクションとしての機能を本稿が十分発揮しているのか、と問われると、とても心配です。ともかく、たいてい総論よりもより具体的な各論の方が面白いので、今後の連載に期待することにして、本稿を終わりたいと思います。

(たがわごうた 障害者スポーツセンター横浜ラポール)