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WHO国際生活機能分類(ICF)と障害認定の課題
―フランスの認定基準の分析を通して―

寺島彰

はじめに

 国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)1)は、社会保障領域においても有用であるとその本文の中で述べている(5ページ)。わが国には、120以上の障害認定基準をもつ法律があり、それぞれのサービスを提供している。本稿では、このような障害関係制度にICFを適用しようとした場合の課題について整理する。ただし、ICFは、昨年5月に採択されたばかりであり、障害認定に活用している国はまだない。そこで、本稿では、ICFの前身である国際障害分類(ICIDH:International Classification of Impairment, Disability and Handicap)を障害認定基準として活用したことを公表している唯一の国であるフランスの認定基準を分析しながら、ICFの障害認定への活用可能性について検討する。

1.フランスの障害関係制度

 フランスでは、福祉領域の障害認定基準として、ICIDHを1988年より正式に取り入れ、それを元に検討を加えた新たな障害認定基準として、1993年から「障害者の機能障害及び能力低下の評価のための指針」2)が採用されている。この障害認定の対象となるのは、社会扶助および社会保障の分野である。たとえば、能力低下率80%以上であれば、障害者手帳、成人障害者給付金、特殊教育手当、障害者の介護人のための老齢保険、補償手当の対象となる。また、能力低下率50%以上ならば、特殊教育手当が条件付きで給付される。
 障害認定は、児童については、CDES(県特殊教育委員会)が実施し、成人の場合は、COTOREP(職業指導再就職斡旋委員会)が実施している。なお、年金、戦傷病、労災、障害者雇用などについては、別の基準を使用している。

2.認定基準

 同指針では、認定基準は、「機能障害、能力低下、社会的不利というICIDHの概念に基づいており(2ページ)、評価は、視覚機能障害及び聴覚機能障害に関するもの以外は、能力低下の評価のみに依拠している。医学的診断は、目安にはなるが、それだけでは障害の程度を決定することは出来ない。(3ページ)」としている。この評価により、能力低下率が決定される。
 同指針は、表1のような分類で能力低下率を設定している。能力低下率は、ほとんどの場合、4段階に設定されているが、例外的に3段階や5段階になっている。一例として、表2に四肢の損傷による機能障害の認定基準を示す。
 能力低下率の評価に当たっては、同年齢の健常者との比較や教育的負担等も評価される。100%が適用されるのは極めてまれで、植物状態や昏睡状態のような完全な能力低下に限られる。複数の機能障害が認められる場合は、全体としての能力低下率を評価する。

表1 障害者の機能障害及び能力低下の評価のための指針の分類

第1章:知的障害及び行動の制限
 第1節:小児、青年の知的障害及び行動の制限
 第2節:成人の知的障害及び行動の制限
 第3節:てんかん(てんかんに関連する障害)
第2章:精神障害
 第1節:小児、青年の精神障害
 第2節:成人の精神障害
第3章:聴覚障害
第4章:言語及び発声発語の障害
第5章:視覚障害
第6章:内部障害及び全身機能の障害
 第1節:心血管系の機能障害
 第2節:呼吸機能障害
 第3節:消化機能障害
 第4節:腎、泌尿器系機能障害
 第5節:内分泌、代謝、酵素由来の機能障害
 第6節:造血、免疫系の機能障害
第7章:運動機能障害
第8章:審美障害

表2 四肢の損傷による機能障害の能力低下率評価基準

1、軽度の機能障害(能力低下率:1~20%)
 社会生活、就労生活、及び、家庭生活、あるいは、日常生活行為の実現に影響がないもの。
 例:手または足の指の部分切断、あるいは、単独の切断、軽度の短縮、など

2、中程度の機能障害(能力低下率:20~40%)
 一部の日常生活活動に支障を与えるか、または、社会生活、就労生活、及び、家庭生活に中程度の影響を与えるもの。
 例:手または足の親指、あるいは、複数の手足の指、中足の切断、障害を伴う短縮(跛行)

3、重度の機能障害(能力低下率:50~75%)
 日常生活の一部の活動を制限するか、あるいは、社会生活、就労生活、及び、家庭生活に重大な影響を伴うもの。
 例:下腿または大腿(義足装着)、あるいは、利き側ではない側の前腕、肘または肩の切断。

4、重篤な機能障害(能力低下率:80~90%)
 移動が非常に困難または不可能か、あるいは、一つまたは複数の基本的行為を阻害するもの。
 例:利き手(足)側の股関節、肩関節、または、肘関節の脱臼、あるいは、上肢両側の切断。

3.評価手順

 医師により、次の手順で評価が進められる。
1.医学的診断
 治療法と障害の重大性および日常生活への影響についての把握
2.機能障害検査
3.能力低下評価
 専門職チームの医師以外のメンバーの意見や機能制限に関する資料等を参照して評価する。特に小児に関しては、教員、心理学者、教育者および発症後の再教育担当者などによる報告書が求められる。機能障害に直接由来する能力低下だけでなく、辛い投薬治療、繰り返される入院、全身状態への影響など、治療による制約に由来するものも考慮に入れられる。発作の頻度や重篤度、さらに、社会生活や仕事への影響によって、能力低下率を加重される。
 また、聴覚機能障害の場合には、装具(補聴器)の装用の可能性を考慮に入れて能力低下率が評価される。再認定については、能力低下率が変化した場合に実施することとされている。

4.考察

 今後、わが国においても障害認定制度にICFが適用されるかどうかは不明であるが、フランスの障害認定制度を参考にすると、次のような課題があると考えられる。
 1.現状では、ICFには、障害程度を示す評価点について、具体的な障害状態に結びついた基準がない。各障害分類ごとにそれがなければ、障害認定制度に活用することは困難である。この作業は、かなり細かい作業になるであろう。フランスの認定制度でも、機能障害の評価を中心として、それ以外の要素を加味していく方法がとられているように、機能障害以外の評価点を中立的に作成することは、相当困難を伴うであろう。ただし、それができれば、認定基準として活用することは可能であろうし、障害種別間の公平性を確保でき、さらに、わが国に存在する複雑な障害認定制度を整理できる可能性はある。また、外国の制度との比較も可能になろう。
 2.既存の制度は、多くの場合、機能障害に基づいて障害を認定しており、ICFが詳細な評価点をもつようになれば、それを活用して現在の認定基準を代替させることは難しくはないと考えられる。そのためには、ICFの評価点の作成作業において、各国の障害認定制度を取り込めるような内容にしておくことも必要であろう。ただし、活動(Activity)や参加(Participation)の評価点については、既存の障害認定制度は、ほとんどないことから、時間をかけて文化的な要素も含めて検討する必要があろう。
 3.ICFは、どの程度の障害までをサービスや施策の対象とするかについては何も述べていない。それは、政策的に決定されるものであり、別の議論が必要である。ただし、ICFが活用できれば、その議論がより明確になる可能性があると考えられる。

(てらしまあきら 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長)


【引用文献】
[1]WHO(2001), International Classification of Functioning, Disability and Health, Geneva, 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部訳、(仮訳)国際生活機能分類
[2]Ministere des Affaires Sociales de la Sante et la Ville, Centre Techinique National d'Etudes et deo Recherches sur les Handicaps et les Inadaptations(1993), Guide- Bareme pour l'evaluation des deficiences et incapacites des personnes handicapees, Paris 白坂康敏・植村英晴訳、障害者の機能障害及び能力低下の評価のための指針(仮訳)