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カウントダウン AP10年

第12回RIアジア太平洋地域会議

松井亮輔

今年は、RI創設80周年

 今年は国際リハビリテーション協会(RI)にとって創設80周年にあたり、それを記念して第12回アジア太平洋地域会議(以下、地域会議)にあわせ80周年史の出版が予定されている。RIは1922年米国で国際肢体不自由児協会として設立された。その名称は、1939年には国際肢体不自由者協会に、さらに1960年には、国際障害者リハビリテーション協会に改称された。そして現在の名称になったのは、1968年である。ちなみにわが国の団体(当時は、日本肢体不自由児協会)がRIに加盟したのは戦後間もない1950年のことである。
 1980年にカナダのウィニペグで開かれた第14回世界会議では、それまで約3年かけて準備された「80年代憲章」が採択されたが、これは翌1981年の国際障害者年へのRIの貢献として、障害者の「完全参加と平等」という目標を全世界で推進するために作成されたもので、その内容の多くが、1982年の国連総会で採択された「障害者に関する世界行動計画」に取り入れられている。
 皮肉なことに、同世界会議にあわせて開催された総会での障害当事者のRI意思決定過程への参加をめぐる議論を契機に、翌1981年には障害者インターナショナル(DPI)が誕生したことは、周知の事実である。その反省のうえに立って、1984年の総会で役員の半数は障害当事者とすることが決議された。故ジョン・ストット元会長(1992~1996年、ニュージーランド。頚椎損傷)に続き、米国における障害者自立生活運動のパイオニアのひとりであり、全米障害者協議会局長として「障害を持つアメリカ人法」制定にも携わったレックス・フリーデン氏(2000~2004年、米国。頚椎損傷)を会長に選ぶなど、その後RIは大きく変化してきている。
 現在RI加盟団体は、80か国の約120団体(それ以外に、六つの国際団体が加盟)で、そのうちアジア太平洋地域からの加盟団体は、20か国からの27団体である。

わが国での地域会議開催は、2回目

 地域会議は、原則として4年ごとの世界会議の中間年に開催されることになっている。わが国ではじめての地域会議(当時の名称は、第3回汎太平洋リハビリテーション会議)が東京で開かれたのは、1965年であり、その大会の準備母体として、その前年に日本肢体不自由リハビリテーション協会(現・日本障害者リハビリテーション協会)が設立されている。同会議のメインテーマは、「リハビリテーションの具体的実施」。同会議開催以降、従来「更生」と訳されてきた「リハビリテーション」が、そのまま使われるようになったことにも象徴されるように、同会議はわが国におけるその後の総合的なリハビリテーションサービスの発展に寄与したと言える。
 1988年には、アジア地域ではじめての世界会議(メインテーマは、「総合リハビリテーション―その現実的展開と将来展望―」)が、日本障害者リハビリテーション協会および日本障害者雇用促進協会(1980年にRI加盟)の共催により開かれている。同会議を通してわが国のリハビリテーション事情が広く各国に知られるようになる一方、従来とかく先進国に目が向きがちであった、わが国関係者がとくにアジア地域の途上国における障害者のリハビリテーションや福祉事情に関心を深めることとなる。
 RIは、1999年のロンドンでの総会で、障害者の完全参加と平等をさらに推進するための鍵となる戦略として、障害者権利条約の制定をアピールする「2000年代憲章」を採択。翌年3月には、RI加盟団体でもある中国障害者連合会主催で北京において開かれた「世界障害サミット」でも、「障害者の完全参加と平等達成のための法的拘束力をもつ権利条約制定」を主な内容とする「新世紀における障害者の権利に関する北京宣言」が採択された。同サミットに参加したDPI、世界ろう連盟、世界盲人連合、国際育成会連盟(インクルージョン・インターナショナル)およびRIが、同宣言をベースに障害者権利条約制定に向けて国際、地域および各国レベルで協力活動を実施することに合意している。
 昨年12月19日の国連総会でメキシコなど29か国から共同提案された「(障害者の権利に関する)国際条約への提案を検討するための特別委員会の設置」に関する決議案が全会一致で採択されたことに基づき、今年7月29日から8月9日までニューヨークで特別委員会が開かれるなど、同条約制定に向けての動きが本格的にはじまるが、児童権利条約の制定過程などを考慮すれば、障害者権利条約が国連総会で採択されるまでには、少なくとも4、5年あるいはそれ以上の年月がかかるものと思われる。
 同条約の制定は、アジア太平洋障害者の十年以降も引き続いて、障害者の完全参加と平等実現に向けての国際的努力の継続が担保されるだけに、アジア太平洋障害者の十年推進(RNN)キャンペーン大阪会議と一体的に行われる地域会議が、権利条約制定推進に大きく寄与することが期待される。

地域会議の特徴と主なプログラム

 今回、大阪での地域会議(10月21~23日)のメインテーマ「障害者権利条約へのパートナーシップ」は、同条約制定には、RIと国際障害当事者団体、専門職および障害当事者を含む関係者と一般市民、政府と障害関係団体を含む民間団体、先進国と途上国など、幅広い連携と協力が不可欠という認識に基づき選ばれたものである。
 従来と比べ、今回の地域会議のきわめてユニークな特徴は、RI単独のものは、2日目だけで、1日目はRNNキャンペーン大阪会議、第25回総合リハビリテーション研究大会および国際職業リハビリテーション研究大会と、また3日目はRNNキャンペーン大阪会議および総合リハビリテーション研究大会と、それぞれ合同での会議となっていることである。そのため2000人以上の参加者が予想される1日目の開会式および全体会議は、大阪市内の大阪国際会議場で、2日目および3日目の会議は、堺市に昨年オープンした障害者国際交流センターでそれぞれ開催される。
 開会式では、主催者および来賓からのあいさつに続き、「国際障害同盟(IDA)宣言」の発表が予定されている。(IDAは一昨年2月に結成されたきわめて緩やかな国際ネットワーク組織で、現在のメンバーは、DPI、国際育成会連盟、世界盲人連合、世界ろう連盟、世界盲ろう者連盟、精神医療利用者・生還者世界ネットワークおよびRIの7団体)。同宣言では、障害者権利条約制定の意義、その制定に向けての各国政府および国民の支持を求めるアピールとIDA加盟団体の連携強化の決意表明、ならびに第二次アジア太平洋障害者の十年への期待などが謳(うた)われることとなろう。
 午後の全体会議のハイライトは、国連社会開発委員会の障害に関する特別報告者として、これまで10年近くにわたって「障害者の機会均等化に関する標準規則」(1993年)の各国における実施状況をモニターしてきたベングト・リンドクビスト氏(元スウェーデン社会大臣)による基調講演「標準規則の総括と障害者権利条約へのインパクト」、およびそれに引き続いて行われる「障害者権利条約制定をめざして」をテーマとするパネルディスカッションである。パネリストとしては、「2000年代憲章」の起草など、同条約制定に向け中心的役割を果たしてきたRI前会長アーサー・オレイリー氏(アイルランド)や昨年12月の国連総会における同条約に関する決議の原動力となったビクトル・フューゴ・フローレス・メキシコ大統領府長官など。また、リンドクビスト氏も助言者としてディスカッションに加わるなど、同条約をめぐってきわめて興味深い議論が展開されると思われる。
 2日目の午前の全体会議では、「障害者差別禁止への各国の取り組み」をテーマに、アジア太平洋地域で障害者差別禁止法制をもつオーストラリア、ニュージーランド、インド、タイ、フィリピン、香港、フィジーなどの代表から各国での取り組みの現状、課題および今後の展望などを中心とした報告、ならびにそれに基づく議論が行われる。
 午後には、社会リハ、教育リハ、職業リハ、アクセシビリティなどの分野で権利条約と関連するテーマについての分科会、および途上国における「万人のための社会づくり」への取り組みを支援するための効果的な国際協力をテーマとする特別セッションなどが計画されている。同セッションには、財団、財界および世界銀行などの関係者がスピーカーとして招かれている。
 3日目の午前の全体会議では、これまでアジア太平洋障害者の十年推進キャンペーン会議を行ってきた各国などにおける「同十年の成果のレビューおよび十年以降へのチャレンジ」をテーマに各国代表による報告が行われる。
 また午後の全体会議では、午前の報告を踏まえ、同十年以降、従来のRNN活動を継承・発展させるための新たな地域ネットワーク組織づくりをテーマに、アジア太平洋地域レベルの障害関係団体代表などによる討論が予定されている。
 閉会式で採択される「大阪アピール」では、この5月の国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)年次総会で決議された、第二次アジア太平洋障害者の十年で取り組むべき重点課題などについて、これまでの十年の行動課題の達成状況などを踏まえた具体的な提言、ならびに従来のRNNに代わり、第二次十年活動の中心となる、新たな地域ネットワーク組織への支援要請などが盛り込まれることとなろう。これは、地域会議に引き続いて滋賀県大津市で開催されるESCAPアジア太平洋障害者の十年最終年ハイレベル政府間会合に向けてのアピールとも言える。

地域会議の他地域へのインパクト

 いまのところアジア太平洋地域と同様障害者の十年が設けられている地域は、アフリカのみである。アフリカ障害者の十年は2000年からスタートしているが、同地域の場合、同十年の推進力と期待される南アフリカも含め、各国ともきわめてきびしい経済状況にあり、同十年の取り組みはほとんど進んでいないと報告されている。
 したがって、RIではアフリカ障害者の十年推進支援を目的に、来年9月29日~10月4日、南アフリカのダーバンで総会およびはじめてのアフリカ地域会議開催を計画し、現在準備を進めている。その意味では、大阪での地域会議は、アフリカ諸国などの関係者にとってアジア太平洋地域での取り組みを参考にするうえで、まさに絶好の機会となろう。

(まついりょうすけ RI副会長・北星学園大学教授)