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みんなのスポーツ 第3回

合言葉はエンジョイフットボール!

小山良隆

1 はじめに

 サッカーは世界中で最も人気のあるスポーツと言われています。世界中のほとんどの国が国際サッカー連盟(FIFA)に加盟しており、世界最大イベントとされるワールドカップは、およそ300億の人々がなんらかのメディアで注目します。
 サッカーの魅力は、「だれでも」「どこでも」「ルールが簡単」「用具がシンプル」にでき、国境や世代を超えた交流ができることが挙げられます。
 それに加え、「フェアプレーの精神」をもとに、ルールを理解し守ることで、公平性を身に付け、相手・審判に敬意を払い、仲間とのかかわりの中で活動の範囲が広がります。また、体力・持久力のアップをはじめ敏しょう性・状況に合わせた判断能力を磨くこともできます。それらを身につけることにより、「自信」がつき、「意欲的」になり、モチベーションが高まり、生活にも良い影響を与えることだと言えます。

2 障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下横浜ラポール)での取り組み

 FIFAワールドカップ決勝戦が行われる、横浜国際総合競技場に隣接する横浜ラポールでは、障害のある方々へのスポーツ活動の支援プログラムとして、平成11年度から、図1のように「サッカーを通したユニバーサルな活動」を推進しています。
 スポーツの普及・振興を図るには、対象となる年代やそれぞれの技術レベルにあったアプローチが不可欠と考えます。たとえば、勝利至上主義の偏重は、サッカーの本質である「楽しさ」を見失いがちになる傾向にあります。育成システムに定評のあるヨーロッパの国では、小学生では町内大会、中学生では地域大会、ユースの年代で初めて全国規模の大会を実施しています。ここでの試合の位置づけは、勝敗よりもトレーニングの効果を測定することが目的となっています。その中で、将来有望とされる選手は強化プログラムに参加していますが、重要なのは、強化プログラムに関することが、地域のクラブ・指導者に還元され、関係者が情報を共有しているということです。
 各年代で養われなければならないことを優先に、育成プログラムから選手強化につなげ、なおかつ参加者のニーズに対応した環境設定を心がけながらプログラムの作成・実施・評価の実践をめざしています。

図1 障害別・レベル別プログラム
テキスト

図 障害別・レベル別プログラム

3 地域での連携(Jリーグの理念の広がり)

 サッカーのプロリーグ化に伴い発足したJリーグ。ホームタウンを重要視し、地域密着型をめざした理念は、ヨーロッパのリーグが参考となっています。魅力ある試合を安全で快適なスタジアム環境のもと行うことで、夢と楽しみを提供し、クラブ施設の開放と、指導者・選手と地域の人々の交流で、だれもが楽しめるシステムを作るのがその内容となっています。
 横浜をホームタウンとする横浜Fマリノスの「ふれあいサッカープロジェクト」では、子どもから社会人の幅広い層の人たちに対して、サッカーの魅力を伝える地域密着型の地道な活動が行われています。「ハンディキャップサッカープレーヤー」の育成と強化においては、「サッカーの技術的なこと=横浜Fマリノス」「障害特性に関するノウハウ=横浜ラポール」というようにお互いの得意分野を生かしながら、役割に応じた活動を展開しています。
 ここで特筆すべき事項は、地域での横の連携はもちろんのこと、横浜マリノス時代に、数々の栄誉を手にした日本サッカー協会公認S級ライセンスを持つ木村浩吉氏(横浜Fマリノスふれあいサッカープロジェクトプロデューサー)のような、育成・強化から普及・振興に及ぶまでの豊かな経験、熱意とアイデアのある指導者の存在は見逃せません。そうした活動が進められていく当初は、「最初はどうやっていいのか、どこまでやっていいのか戸惑いを感じたが、私と彼らの間に存在するのは“サッカーが好き”という気持ちと“サッカーボール”だけ」と語った木村氏の言葉は、サッカーの素晴らしさを再認識させてくれました。

4 それぞれのサッカー

 主に電動車いすを日常生活に使用している方々の場合は、バスケットボールのコートで1チーム4人が50cmのボールを使用して行います。車いすの微妙なコントロールやボールサイドでのぶつかり合いは、見るものをも魅了します。電動車いすに乗ればだれでもできるスポーツということで、リバースインテグレーション種目としても最適と考えられます。日本電動車椅子サッカー連盟が、地域ブロックを統括し「日本選手権」「ブロック大会」等を企画・運営しています。
 脳性マヒの方々が中心となり行われている、からだの不自由な方々の場合は、セブンサイド・ア・サッカー(7人制)と言われ、オフサイドがなく、下手投げのスローインが認められたりします。障害の程度によるクラス分けから、平等が保たれています。パラリンピックの正式種目として欧州・南米のレベルは高く、日本では日本脳性麻痺7人制サッカー協会が設立され普及が進められています。
 知的に障害のある方々の場合は、日本サッカー協会のルールに準じて行われています。日本ハンディキャップサッカー連盟(長沼健会長)が統括しており、FIFAワールドカップ後に行われる、2002INAS―FIDサッカー世界選手権大会は、平成14年8月8日から25日に神奈川県内・東京都内の競技場を使用し、決勝戦はワールドカップ同様、横浜国際総合競技場で行われます。開催国日本をはじめ、各大陸で予選を勝ち抜いた以下16か国が参加します。
□参加国(日本・ポーランド・南アフリカ・インド・ブラジル・サウジアラビア・ドイツ・オランダ・韓国・メキシコ・香港・イングランド・ハンガリー・マリ・ロシア・ポルトガル)

5 おわりに

 よくよく考えれば「障害者サッカー」という概念は存在するものでしょうか?
 このことは、一般的に使用されている「障害者スポーツ」という言い回しも同じと言えます。
 「子どものサッカー」「女子サッカー」と言い分けられても、「障害者のサッカー」「健常者のサッカー」とカテゴライズされるべきではないと考えます。ハンディゆえにルールや用具を工夫しているに過ぎず、目標や楽しみ方は違っても、同じフィールド「エンジョイフットボール!」を合言葉とすれば、すべてが“同じサッカー”なのです。冒頭に述べたサッカーの魅力を“だれもが共有”することができるように、今後いっそうの発展をめざし「サッカーへの恩返し」を実践していきたいと考えております。

(こやまよしたか 障害者スポーツ文化センター横浜ラポールサッカー育成事業担当)


【各団体の問い合わせ先】
・日本電動車椅子サッカー連盟 事務局
 TEL 06―6606―0771
・日本ハンディキャップサッカー連盟 事務局
 TEL 03―3399―8644
・日本脳性麻痺7人制サッカー協会 事務局
 TEL 044―555―8038