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自閉症理解と社会参加

滝川雄治

1.はじめに

 親が中心になって取り組んだ自閉症専門施設「虹の家」(社会福祉法人フレンドシップいわて:岩手県)が約15年の歳月を経て平成11年4月に開設した。15年の年月の意味するところは、自閉症がいかに多様で重い障害であり、社会の理解を得るには地道な努力を必要とすることを示すとともに、一方では、当事者(親や限られた支援者)だけの努力では自閉症児・者の真の意味での社会参加はなし得ず、周囲の人々の理解が不可欠であることを実感した。従って、自閉症児・者のリハビリテーションを図るうえでは、社会の理解を得ながら、関係者のきめ細かい努力が必要である。

2.幼児期・学童期におけるリハビリテーション

 自閉症に限らずあらゆる疾患は、早期発見、早期治療が原点であり、予防医学の重要性が叫ばれる由縁である。しかしながら、必ずしもそのような体制になっていないのが現状である。“うちの子どもは、どうもよその子どもとは何かが違う”と気付いた時には、典型的な自閉症または自閉的傾向を持っていると診断され、右往左往するのが一般的なパターンのように思われる。
 このような観点を踏まえ、自閉症の子どもを持つ親の立場からいくつかの問題点を提起する。

(1)障害の早期発見

 障害に気づくケースとしては、親・定期検診・その他の場合に分類できるであろう。一定割合で障害者(自閉症児)が生まれる現状を踏まえ、早期発見の確率を増大させるためには、子どもとの接触時間が最も多い親や家族に対する障害者教育が、その後の子どもの幸せに大きく貢献するはずである。そのための対策として、以下の点を提案する。

1.中学・高校での知的障害に関する導入教育

 中学生や高校生に対し、知的障害者(自閉症)の特徴を一般教養として講ずるカリキュラムの導入を提案したい。この導入により、以下の効果が期待できる。
(a)障害者の早期発見 ―早期の適切な療育、親の不安の解消―
(b)障害者に対する理解の深まり ―スムーズな社会参加―
(c)弱者に対する思いやり ―非行の防止―
 学校教育においては、弱者、特に高齢者や身体障害者、妊婦、幼児などに対する思いやり教育は随所でなされており、効果も発揮されていると思われる。しかしながら、知的障害に関する情報提供、特に障害の特徴に対する教育は極めて手薄である。これらの導入教育が中学や高校でなされれば、不幸にして障害者が生まれた場合、初期段階での発見につながり、より適切な療育が可能となり、親の不安解消にもつながる。妊婦に対する簡単な育児教育はなされているであろうが、障害者が生まれた場合を前提としたガイダンスは、妊婦に対してもいたずらな不安を煽(あお)る結果となり、決して好ましい方法ではなく、やるべきでない。
 また、障害者に対する理解の深まりにより、「障害ではなく、不得手の部分が一部ある」といった認識ととらえる社会環境が醸成されれば、スムーズな社会参加も実現できる。また、近年問題視されている青少年の非行防止にも良い結果をもたらすものと期待できる。いずれにせよ多くの人たちが弱者に対する共通認識を持つことが、何にもまして重要である。

2.親の経験談の積極的活用

 自閉症の顕著な特徴の一つが、朝・昼・夜単位、1日単位、1週間単位、そして年単位でのパターン化の行動であり、それらすべてを熟知しているのは親以外にはない。親はその場での行動を把握し、好ましくない行動の場合は試行錯誤を繰り返しながら変える努力をしている。先生や指導員の場合、1日の行動の限られた時間帯について熟知しているが、子どものすべてを把握しているわけではない。親がどのように子どもに接してよいか分からず、パニック状態になっていれば、子どもにもその雰囲気が直接的に伝わってしまう。岩手県支部では、専門家の講演会や療育相談の場に親も参加し、必要に応じ親の経験談を話してもらうようにしており、好評である。

3.進路指導のための専門家の養成

 親はどうしても子どもの症状を軽い方向に解釈しがちであり、このことは人情として避けられない。従って、子どもの症状よりも上位レベルの教育システムを選択する傾向が見られ、その結果、必ずしも適切でない療育を受けることも大いに有り得る。
 親は専門家でないということを常に念頭に置くことが肝要である。進路指導に当たり、適切なアドバイスができる専門家の養成は、自閉症療育にかかわる先生や指導員の養成と同様、極めて重要である。子どもの特性に合った適切な教育システムでの療育・教育は、幼児・学童時が最も重要であり、特にパターン化を障害の特徴とする自閉症児にとってはなおさらである。
 昨今、障害者に対しても自己決定や自己判断などの施策が提案され、実施に移されているが、人権擁護の名の下に自閉症児・者に対しても一律に自己決定を求める結果、本人にとって好ましくないケースが出ることを憂えざるを得ない。親や周囲の指導者の適切なアドバイスが常に必要である。

3.自閉症者のリハビリテーション

(1)特別視されない社会参加の実現

 社会のルールは、社会慣習や規範に準拠して成り立っている。しかしながら、自閉症児・者は、多くの人たちとは若干異にする慣習や規範の持ち主である。この差異を多くの人たちに認めてもらう、理解してもらうことがスムーズな社会参加実現の前提である。
 平成11年に自閉症協会の呼びかけで、自閉症理解を目的に自閉症者を主人公とする「学校3」の上映会が全国各地で実施された。岩手県では県内6か所で上映会を実施し、入場券の販売数が8,400枚、入場者数が約6,000人に達し、販売数は、岩手県人口の約6%に達した。その間、二つのテレビ局での各10分間ずつの自閉症に関するキャンペーン番組の放映、NHKをはじめとするテレビ局の約1か月間にわたる連日の映画上映のための宣伝は、自閉症の理解に大きな貢献があった。
 自閉症協会としても、イベント等を通じて理解を求める努力が必要がある。このことが、自閉症児・者の発達支援にとって極めて重要と考える。

(2)ジョブコーチ制度の充実

 一定の従業員を有する事業所に2%の障害者の雇用が義務づけられており、効果を上げているが、自閉的傾向の障害をもつ人たちは職場から敬遠されがちである。その原因が、自閉症の特異な障害にあることは言を待たない。彼らの多くは特異な才能を有しており、その才能を生かせる職場環境を準備することが重要であるが、現実として職場内に理解者がおらず、才能の発揮は極めて困難である。
 その実現のためには、事業所内にジョブコーチの役目をする人員の確保が必要である。しかし、各事業所にジョブコーチの役目を担う人材を求めることは不可能であり、国や自治体が福祉の一環として、公費でジョブコーチを派遣する制度の確立が不可欠と考える。

4.おわりに

 最近、製造業業界を中心に、「差別化」という言葉が、“この製品は、他の製品とはここが、このように違って優れている、この方法は他の方法に比べ優れている”という意味で、他と区別する言葉として使われている。本来「差別化」という言葉は、悪いイメージを持つ言葉であり、前記の使い方には嫌悪感を持たざるを得ない。また、自閉症の症状の典型的な特徴である「こだわり」という言葉も自閉症の子どもを持つ親にとっては、口にしたくない言葉の一つである。しかしながら、スーパーをはじめとして「こだわりの商品」等の言葉が氾濫している。障害者を持つ親の「ひがみ」であろうか。日常何気なく使っている言葉も、人によっては不快に感じる言葉が多々ある。
 障害者に対する理解の第一歩は、違和感を与えない言葉の使用であり、このようなきめの細かい配慮が、ハンディキャップをもって生まれた人たちが豊かな人生であったと思う社会であろう。

(たきかわゆうじ (社)日本自閉症協会岩手県支部)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2002年7月号(第22巻 通巻252号)