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ケアについての一考察

ILセンターの支援サポート
―65歳で自立生活―

鈴木匡

はじめに

 介護とは、介助者・利用者間の互いの心身に触れるデリケートな仕事ゆえに、コミュニケーションを図りながら進めることが大切と認識している人は多いでしょう。さて、私たちは今回、67歳で自立生活を実現した例を通して、介護についての一つの取り組みを報告します。

事例考察

●Iさん女性・67歳、脊髄性カリエスによる歩行機能全廃・両聴力機能全廃
 Iさんとの出会いは、25年前にさかのぼります。在宅訪問活動として訪問した先の1人でした。

経過:

Iさんは19歳の時、カリエス菌が脊髄に入り、それが原因で歩行機能全廃になる。その時、熱が下がらないことからストレプトマイシンを服用、それによって解熱はしたものの、両聴力の機能が全廃。コミュニケーションは筆談で行う。

住環境:

母屋ではなく、縁台続きの小さな離れ家に、家族とは別に一人で住んでいた。

収入:

Iさんは、自分が障害基礎年金の受給者であることすら知らなかった。その年金は家族が管理し、Iさんには月々少額を渡していた。そのため、Iさんは体調の許す限り編み物の注文を受けては、編み機でそれらを作り、生活費としていた時もあった。

生活:

朝食は、兄と母屋で食べるが、昼食は一人離れ家で菓子パン。夕食は、母屋で甥夫婦家族を含めて全員で食べていた。1年を通して入浴はできず、タオルを濡らして体を拭いていた。テレビも自室にはなく、訪ねて来る人も少数で限られていた。 

本人への支援

 昨年(2001年)10月5日、Iさんは当地(福島県船引町)を選び自立生活をスタートさせました。スタートまでの1年間で、特にIさんには単身での自立した生活が十分可能であることを行政サービス等の情報を含めて提供しました。その行政サービスでは、日常生活用具の給付として福祉電話の貸与をはじめ、センサーによる玄関来客通知の装置の設置や住宅の一部改修も行いました。
 自立生活センターの支援としては、生活保護の受給申請、介護保険サービスの受給申請等社会資源の情報提供と事務手続きの補助を行いました。一方、Iさんは、受給できる行政サービスを含む社会支援の量にひどく困惑し、「国は滅びないのか?」と障がいをもつ身を恥じる発言がたびたびありました。そのようなIさんのスティグマに対しては、Iさんの人権擁護という視点で接していますが、Iさんにとってはこれまでの生活との隔たりが大きいせいか、複雑な思いのようでした。

現在の生活状態と本人の変化

 介護保険受給者であるIさんの要介護度は4。現在、私たちが運営する特定非営利活動法人「ケアステーションゆうとぴあ」の訪問介護サービスを受けています。また、社会参加としては、同じく私たちが運営する小規模通所授産施設「リサイクルショップまち子ちゃんの店」に通所し、オリジナルの菓子作りを仲間と共に行っています。
 介護サービスについては、Iさんの年齢に近いヘルパーを1人専属的に派遣し、介護を受けることに遠慮するIさんとのコミュニケーションを丹念に図ることをサービスの初期段階に行いました。そのような中、コミュニケーションを図ろうとIさんのメモボードに書き込もうとすると、遠慮してか「疲れるからいい」と、書く作業を制止することもしばしばありましたが、最近では自分から話しかけるようになり、積極的にメモボードも活用するように変化しました。

残る課題

 Iさんはすべての生活面において、これまでの与えられる生活から一転し、自らの生活を創造していく過程にとまどいを感じながらも少しずつ自立生活を軌道に乗せています。たとえば食事作りなども、これまではおいしさより栄養価だけを考えて食材を選び、画一化した料理を一人で食べていましたが、介護者と共に食べることを提案した現在は、会話を持ちながらおいしく食べるといったことも見られています。こうした選択肢を加えた中で、QOLを高めるための実践的な支援が課題として挙げられます。また、Iさんが何を考え、どのようにしたいのかという、Iさん自身のQOLを高める視点から、Iさんと介護者間のコミュニケーションの質を高める必要性を感じています。

支援者として学んだ点

 Iさんとの出会いから今日まで、何の変化もないQOLの低い日常の生活から、自ら自立した生活の改善を手に入れるまでの年月は長いものでした。しかしIさんの結果を見ても、年齢や障がいに関係なく、本人が望み、そして、それを支援する態勢があれば、自立したよりQOLを高める生活者になれることへのモデルをIさんは示してくれました。よりQOLを高める生活者とは、人としての尊厳を自ら追求する作業にほかならないことを改めて学びました。同時に、コミュニケーションを図りながらサービス利用者の要望やこだわりを大切に、私たち支援を提供する側もまた、支援できる介護者(ライフサポーター)の質の向上に取り組む必要性を強く感じています。

(すずきたすく 障がい者自立生活支援センター福祉のまちづくりの会)