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みんなのスポーツ 第4回

沈(ちん)にもめげず、楽しいカヌー

吉田義朗

1 遊び、楽しむスポーツとしてのカヌー

 スポーツとは、私の感覚では、遊び、楽しむという概念が非常に大きくあります。
 カヌーは、スポーツとして考えると、二つの大きな種目があります。ひとつは、ワイルドウオーターといって、一定の距離の川を何秒で下りきるかのタイムトライアル。もうひとつは、スラロームという競技で、同じような川の流れにゲートを作って、その流れの中をゲートに触れずに何秒で下りきるのかというものです。また、この二つの競技とは違い、一つの瀬の中で川の流れを利用しながらカヌーを三次元的に、立てたり回ったりひっくり返ったりして、パフォーマンスをするロデオ(フリースタイル)という競技もあります。そのどれもが、個人競技です。
 たとえば、自動車の免許を持っていれば基本的には自動車競技に参加できるように、もちろんそのレベルには大きな違いはあるのですが、カヌー競技もその人が漕ぐことができれば何の制約もありません。あるのはその人が乗るカヌーの幅と長さについてのみです。その意味で、健常者と障害者が対等に争うことのできるスポーツです。

2 船との一体感をいかにもつかがポイント

 だれもが自分の能力と個性を生かして運動を楽しむ、そんな新しい「スポーツ文化」の可能性をカヌーは持っていると私は思っています。そこで、私たちは障害者が遊びを楽しむ環境作りをめざして船出しました。
 カヌーと通称言われている船は、実は人が座るところだけではなく、船全体の上部が開いているものを指します(いわゆるカナディアンカヌー)。私たちが通常乗っているのは、カヤックという座るところ以外が閉じられている船を指します(以下、カヤックも通称のカヌーと称します)。
 カヌーと人との関係は、スキー靴と足との関係に似ていて、いかに船との一体感を得るかがポイントとなります。では、障害者がカヌーと一体感を得るためにどうするのか、どんな工夫が必要なのでしょうか。下半身にも力が入る健常の人たちは腰と足全体でカヌーとの一体感を作り上げますが、下半身がマヒしている障害者にとっては足に力が入らないため、カヌーと腰との間が開いていると水の上ではぐらぐらして安定しません。そのすきま間を埋めるために、詰め物をします。障害名が一緒でも一人ひとりの体形やマヒの程度が違うように、一人ひとりの詰め物の仕方も変わってきます。
 また、カヌーに乗るときには必ず、通称ライフジャケット(浮力体)PFDを付けます。頭にはヘルメットも着用します。水の上での遊びですから、沈(ちん)(ひっくりかえること)は付き物です。最低限の安全のために必要です。

3 カヌーの楽しみ方

 障害者がカヌーを楽しむには、水の上に出る遊びであるためにカヌーをよく知っている人、カヌーからの乗り降りの際の補助をしてくれる人が必要になってきます。残念ながら、すぐさま一人で始めるわけにはいきません。現在、カヌーを楽しんでいる人たちは私も含めた脊髄損傷、脳性マヒ、視覚障害者、小児マヒ、知的障害者、聴覚障害者、切断者などです。
 漕ぐことのできない重度の障害の人には2人乗りのカヌーか、空気で膨らませるボートで水上散歩を楽しんでもらっています。ただし、水上散歩といってもかなりの開きがあります。静水(湖や池)のような場所でのカヌーと、川の流れのある場所とではおのずとかぶる水の量も変わってきます。水に濡れるのはあたりまえの感覚でないと、カヌー遊びはできません。初めてで、不安だなと思う方は一度、浮力体をつけて水の上に浮かんでみることで、どのくらい自分の体が水に浮くのかを確かめてからのほうがよいかもしれません。
 視覚障害者の場合は、カヌーのできる人間がマンツーマンで付いて声をかけながら、カヌーをあやつったり、音の出る発信機を上級者のカヌーに付けて、その音の出る方向にカヌーを進めるといった具合いでカヌーを楽しんでいます。

4 トイレはテントの中で

 はてさて、カヌーで遊ぼうと思ったら1日仕事になります。ということは、もちろんトイレの心配が付き物です。私たちは、仮設のトイレを作っています。アウトドアがブームになったおかげもあって、簡単にテントを建ててその中に洋式のトイレを置いて用を足すというわけです。
 河原での移動はなるべく自分自身で行けるところまで行くことはもちろんですが、周りにいる人たちに声を掛けあって移動の手段を確保します。カヌーの運搬も含めて、人の世話(仲間の世話)になりながらカヌーを楽しみます。それでも、カヌーに乗ったときの浮遊感は何者にも変えがたい高揚感を生み出すでしょう。みなさんも一度、ぜひ試して見ませんか?

5 障害者カヌー大会

 障害者のみを対象にしたカヌー大会は、全国では一つだけです。今年も8月4日に大分県犬飼町で開催されます。試合形式はスラロームとワイルドウオーターです。試合にとらわれずカヌーを楽しんでみたいという方は、以下の連絡先に連絡をください。お待ちしています。

(よしだよしろう 障害者カヌー協会会長)


●障害者カヌー協会事務局
TEL 0742―81―0420(社会福祉法人青葉仁会内)